執着心が強い皇帝に捕まってしまった私の話〜あのさぁ、平民が皇帝と結婚できるわけないって馬鹿でもわかるよね〜

白雲八鈴

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第10話 ちょっと話をしようか

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「それで、もう一つは何?」

 私の好みの食べ物の他に何をレオンは知りたかったのだ? しかし、おかしいな。レオンは私が甘いものを、好んで食べていることぐらい知っているのになぁ。

「ああ、俺との関係だ」
「ボスとの関係?」

 私とボスとの関係……なんだろう? 協力者でもないし、支援者でもない。一言では言い表せないよね。

「悪魔と契約者って答えたら、額を切られたんだよ」
「うん。それは切られるよね。いうなれば、ボスは人手とお金を対価に情報を買った関係かな?」
「あとで、そう言い直した。てめぇの情報は金と人を差し出しても買う価値があるって答えたら、なんか満足そうだったぞ。まぁ、互いが利害関係にあると言っておいた……ったくなんで俺が、こんなクソガキをどうこうしなければならないんだ」

 なんだか最後の方はブツブツと文句を言うようにボスは呟いている。きっとレオンに脅されたことを根に持っているのだろう。

「よし! 終わった! 今日はボスがいてくれたから助かったよ。いつもより早く終わった」

 夫人と二人で戦場を回っていたら、いつも明け方ぐらいになってしまい、慌てて転移で治療した人を陣地外に送って、私たちも転移で近くの町に戻って爆睡するという昼夜逆転の生活を送っているのだ。
 流石に夫人もその生活は疲れるようで、一日おきに私の手伝いをしてもらっている。貴族の奥方には過酷だったということだ。しかし、夫人はやめたいとは絶対に口には出さなかった。

「さて、陣地外に送って今日はまだ暗いうちに寝るぞ!」
「おい! 俺がここに来た用件を忘れているだろう」

 ボスは見逃してくれなかった。今日はぐっすり眠れそうだと思ったのに。

「ちっ! 食事だしてよね」
「舌打ちするな。メシぐらい出してやる!」
「流石ボス! 大好きだ!」
「てめぇ! 大声でそんなこと言うな。聞かれたら俺が殺されるだろうが!」

 いや、ボスを褒めただけで、誰がボスを殺すというのだろう。それに私の周りには大きめの結界を張ってある。私が許可していない人物は入れないし、ここで大声で叫んでも外には聞こえない。まぁ、こうやって戦場に私を訪ねてくるのはボスぐらいなものだ。

 ん? もしかして、ボスが来ているのは、誰かを送り込んでも私と接触できないからなのだろうか。それはありえるかもしれない。


 私は夫人とボスを連れて帝国側の陣地外の一角に転移してきた。そこは多くのテントが並び、魔道灯が周りを明るく照らし、人々が行きかっていた。
 その中でも一際大きなテントの方に連れて行かれる。大きさで言えば、街で見かけた移動式の劇場ぐらいの大きさだ。役者と舞台を運んで各地で公演しているやつだ。

 その中に入るように促され、中に入ると煙草の煙となんとも言えない匂いで充満している。

「臭い」

 思わず鼻をつまむ。あれだ、スラムでよく嗅いだ匂いだ。人の体臭と汗と血と何かが混じった匂いが煙草の匂いと混じって、何とも言えない匂いになっていた。

「おめぇは昔からそんなところがあるよな。戦場は平気で歩いているのになぁ」
「戦場は外だ。もう少し空気の入れ替えをした方がいい」

 私は鼻声で答える。
 ここは酒を飲みながら歌姫の歌を聴くところらしい。先ほどからヴァイオリンのような弦楽器の音と女性の歌声が聞こえてくる。バラードか? 残念ながら今の私には流行りの歌は知らない。

 しかし、誰が歌っているのか知らないが、いい声はしている。残念ながら私の背が低すぎて誰が歌っているのかわからないのだ。
 いや、周りが大人の男性ばかりのところに13歳の私を連れてくるのが間違っているということだ。

「一曲歌ってみるか?」
「あ? 歌の教養なんてないよ」

 ボスがおかしなことを言ってきた。私が見えない歌手の方を見ようと背伸びをしていたのは歌いたいわけじゃない。

「あっ!」

 ん? 声を上げた人物の方に視線を向ける。聞き覚えがある声だと。

 そういうことか。私は声を上げた人物が背を向けて逃げようとしている背中に飛びついた。

「やぁ、シリウス君。久しぶりだねぇ。元気にしていたぁ? ここで何をしているのかなぁ?」

 見た目ではおんぶをしているように見えるが、私の手は逃げようとしている者の首にかかっている。

「最近はどう? 色々大変だよね? 何を探っているのか私に教えてくれないかなぁ。凄く興味があるなぁ」
「おい。そういうところが、悪魔なんだよ。首に手を掛けながら、耳元で脅してやるな」

 ボス。別に脅してはいない、逃げられないようにしているのと、切実に教えてくれるように頼んでいるのだ。しかし、脅していると言われるのであれば、首にかけている手は外して、肩に手を置く。

「あの……背中から降りていただきたい「逃げるから却下」……陛下に殺されるので、本当に勘弁願いたいです」

 何がレオンに殺されるだ。私の手が離れればそのまま消えさるつもりだろう。

「シリウス君の魔法は誰が教えたと思っているのかなぁ。ここで私が離れれば、擬態して消えるよね」

 この白髪の青年は私が諜報員として叩き上げた軍人だ。いや言い過ぎた。彼の持つ変化の特殊能力を擬態までできるようにしたと言い換える。
 そう、髪の色を変化させるとか目の色を変化させるだけだったのを、全く別人に擬態できるようにまで鍛えあげたのだ。これは他人の魔質にまで擬態するものだから、私でさえシリウスと判別つかなくなる。

「観念したら、さぁ吐くがいい」
「おい、そいつマジで半泣きだぞ」
「ボス。甘いな。ボスのところの女性の情報をレオンに報告したのはシリウス君だ。さぁさぁ、何を命令されて動いているのか私に教えてくれないかなぁ?シリウス君」

 ちっ! 流石にしゃべらないか。いったい何をここで調べていたんだ?

「ボス! 裏に連行だ!」
「てめぇの方がよっぽど悪人だ。ほら軍人のにぃちゃん。悪魔に捕まったのなら観念してついてきな」

 バラードの歌が流れている広めのテントの中、酒を飲んだり、談笑している軍人の間を縫って、白髪の青年が金髪の少年を背負って奥に移動しているのだ。それは目立ちもするだろう。しかし、白髪の青年があまりにも顔色が悪いからか、誰も声をかけるものはいなかった。

 顔色が土気色になっているが、大丈夫か?

 奥は別のテントを併設してあり、歌姫の準備室であったり、飲み物を用意する場所であったり、用途ごとに分かれていた。そしてここは、楽器や衣服が置いてあることから、歌姫の準備室だろう。

 その中には長椅子と大きめのテーブルが置かれ何人かが食事をとれるようになっていた。
 長椅子に座らされたシリウスは未だに私を背中にくっつけている。いや、逃げないように私がくっついているのだ。

「逃げないので、降りてください」
「却下。ボス、ごはんまだ?」
「んーなもん。まだだ」

 まだ出来ないというなら、シリウスを締め上げるか。
 私がそう考えているとテーブルに金属でできたコップが置かれた。

「よかったらどうぞ。先生も殿方に、いつまでもそのようにしていては、はしたないですよ」

 水魔法に特化した夫人は、今ではどこでもお茶を淹れれるようになっていた。それもとてもおいしい。

「仕方がないなぁ。まぁ周りに人がいないからシリウス君の能力で逃げるのも無理だね。因みに逃げたらわかっているよね」

 私が念押しすると、がくがくと首を揺らして答えてきた。いや、言葉を話してよ。

 私は夫人が淹れてくれたお茶を一口飲む。疲れた体に染み渡たった。早くご飯を食べて寝たいなぁ。

「で、シリウス君がいる理由を教えてよね」
「はい。……陛下から、第三王女の動向を探るようにと命令されています」

 ん? 私の事ではなくてあのお姫様のこと? それにしてもよくここに匿われているって探り当てたね。

「シリウス君。ここにはどうやってたどり着いたわけ? 普通は帝国内に置くって思わないよね」
「それはリィ様が「シリウス君。先生と呼びなさい!」せ……せんせい……ですか?」

 何、意味が分からないって顔をしているわけ? 私は名前を呼ぶなって言っているの。

「名前を知られて、痛い目に遭ったからだろう? 付き合ってやれや」

 ボス。その子供のお遊びに付き合ってやれ、見たいな雰囲気を出さないでもらえる? 私は勝手に契約されるなんて二度とご免だからね。

「せんせいが、木を隠すなら森だ覚えておくようにと言っていましたので、女性が集団でいる場所を片っ端から当たっていると……せんせいの噂にたどりつきました」
「え? そっちが先!」
「金髪の少年が魔法で海賊を全滅させた話を聞いて、せんせいしかいないと思いまして、その周辺をしらみつぶしに探して第三王女にたどりつきました」
「シリウス君、偉いぞ!」

 私は手を伸ばして白髪の青年の頭を撫ぜてあげた。全く情報がないところから、別の情報を得て紐づけて目的の物を探し当てる。こういう人材はレオンの周りで育てあげなければならない。
 シリウス、何故耳まで真っ赤になって恥ずかしがっているんだ? 別にクソガキに頭を撫ぜられたからって恥ずかしがるようなことではないだろう。まぁ、しかし……

「全然、強くなれないって泣いていたのが、ウソみたいだな」
「一言、多いです」

 本当の事じゃないか。
 ボス。何故に私を見て残念な子みたいな視線を向けてくるんだ。

 そうだ。ついでにシリウスに伝言を頼もう。

「シリウス君、ついでにレオンに伝言を頼めないかな?」
「何をですか?」

 シリウス。犬が主人の期待に応えられるみたいなキラキラした目をして嬉しそうな顔をするのはやめて欲しいな。君たちのレオンに対する忠義はいいけど、私には犬にしか見えないよ。

「戦場に出るんじゃねぇ。レオンが戦場に立つと災害級になるんだよって言っておいて」

 するとシリウスの瞳から光が消えて俯いてしまった。

「私からは言えそうにありません。代筆しますから、手紙を陛下に書いてください」
「いいよ」

 代筆してくれるって言うなら、それはそれでいい。
 私は持ち歩いている鞄から紙とペンを取り出す。

「ちょっとおかしなことを言ってねぇか?」
「何がでしょう?」
「何もおかしくはないけど?」

 私はさっき言った言葉を紙に書いていく。そう日本語で書いている。

「手紙を書けるのに代筆はいらねぇだろう?」
「せんせいの文字は解読不可能ですから」
「この文字を読める人いないんだよね」

 私はそう言って紙に書いた文字をボスに見せる。

「マジで悪魔の文字だ」
「失敬だね。私には読めるからいいんだよ」

 日本語で書いた文字の横にシリウスの手で私が言った言葉を書いてもらう。これが私にとって代筆という意味だ。この文字は私しか書けないから、レオンには私からの手紙だと直ぐにわかる。……が、シリウス、何か文字が多いような気がするんだけど気の所為かな?

「シリウス君。そんなに丁寧に書いたら私じゃなくなるから、書き直し」
「え? しかし、そんな乱雑な言葉を陛下に渡すなど……」

 私はシリウスの肩に手を置いて真剣な目をして話す。

「いいかな? シリウス君。『最近は寒い日が続いていますが、如何お過ごしでしょうか? 風邪など召されてはないでしょうか』……ほら鳥肌が立っているよね?」
「すみません。直ぐに書き直します。……そんなことを書けば、陛下は直ぐにこちらに向かわれそうです」

 それはどういう解釈をしたか聞いていいかな? 私らしくないっていうので、頭に蛆でも沸いたのかという解釈をされたってことかな?

 何? ボス? 自分の見た目を考慮しろって? 13歳の少年に見えるってことだよね。

「先生。先生は天使のように清らかで美しいということですよ」
「アンナ。それは意訳しすぎ」

 最近の夫人はどこか私を神聖視している節がある。私はそんな清らかな存在じゃない。それを言うのであれば……

「お食事をお持ちしました」

 そう、食事を持って来たと言って、入ってきた第三王女のような人を言うべきだ。


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