773 / 774
27章 魔人と神人
760
しおりを挟む
「そうだね。全てが白き神の威が反映されているということかな?」
「それは理不尽ではなく、この世界にとっての常識にあたるのでは?」
ラースは、白き神が作った箱庭に白き神の威が反映されていることが理不尽だと答えた。だが、シェリーはそんな当たり前なことは理不尽ではなく常識だと切り捨てる。
そう、理不尽が常識だと。
「そうかもしれない。だけど種はばらまくが、どのように成長するか見ているだけどは、如何なものか。手入れを怠れば植物は実りを得ない」
ラースは赤い目を歪ませながら言う。種を撒いたのであれば、水を撒いて世話をしろと。
「私の感覚ではこの世界の神々は人々に干渉しすぎだと思います」
「そうかな?勝手に世界を変えられるよりましではないかな」
「世界を変える?」
それは変革者のことを言っているのかとシェリーはオウム返しの用に言葉を返す。
「そう、シェリー。君の聖女だなんていい例だよね。今まで存在しなかったのに、ポッと現れて人々から受け入れられた。しかし白き神が種だけ落として放置したがために、どれもが酷い結末を迎えた。君以外はだ」
その言葉にシェリーは首を傾げる。確かに二代目から四代目まではそうとも言えるだろう。
ただラフテリアはまだ魔人の姿で生き続けている。いや魔人化が『酷い』に当てはまるかは、本人に確認してみないとわからない。
それにシェリーの母親のビアンカは、番である勇者ナオフミと真綿に包まれたような、家族だけの世界に引きこもったはずだ。それも結末など迎えてはいない。
「それはどうでしょうか?」
シェリーはラースの言葉を具体的に否定はせずに濁した。ここで言い合いをして、女神ナディアが介入してくることになると、一気に状況が面倒くさくなるからだ。
「まぁそのうち、私が言っている意味がわかるよ」
「そうですか⋯⋯もしかしてラース様は、ご自分がその理不尽に巻き込まれていると言っていますか?」
ここで聖女に例を上げたのは、歴代の聖女は番の所為で、幸せとはかけ離れた結末を迎えた者たちだと言いたいと、シェリーは当たりを付けた。
結局のところラフテリアもロビンの死がきっかけで魔人化し、ビアンカは番が複数いることで、オリバーに囚われ、今はナオフミに囚われている。
ということはだ。ラースは女神ナディアの愛憎を向ける者として、白き神に用意されたものだと本人は言いたいのだろう。
だが、女神ナディアが支配するラース公国内で、女神ナディア自ら管理するダンジョン内で、そのようなことを口が裂けても言えるはずは無い。
「それは君の想像にお任せするよ」
だからラースも言葉を濁す。別に女神ナディアから与えられた物を奪われるなど、5千年も生きたラースにとってどうでもいいことだろう。
しかし女神ナディアの怒りを着実に買うことになるのは、関係がない子孫の者たちであり、ラース公国の民だ。
だからラースも言葉を濁すしか無い。
「そうですか。それで種族差を埋める方法とは何ですか?」
だが、シェリーにとっては、ラースが白き神の采配で存在する者だったとしても、どうでもいいことなので、さっさと本題に移る。
「シェリー。この話を聞いて君は君の在り方に疑問を持たないのかな?」
しかしラースはシェリーの聖女としての役目に対して揺さぶりをかけてきた。
今までの聖女がろくな生き方をしていないのに、聖女としてあり続けように思うのかと。
「疑問ですか?持つだけ無駄です。私はルーちゃんが幸せに暮らせる未来の為に、役目を果たすのです。そこに私の幸せを混同しません」
「おや?ルークの幸せの未来に君が居ないのはルークにとって幸せなのかな?」
「大丈夫です。炎王の子孫がルーちゃんを支えてくれますから。それに2つの目的を持つことは感覚を鈍らせます。私は魔王を倒す。それだけです」
シェリーにとって生きがいであるルークの幸せは目的の先にあり、そこにシェリーの幸せを入れることは、どちらの目的も果たせないことになる。
そうシェリーの幸せを考えるには五体満足で生き残ることが前提である。しかし、黒のエルフの予言にあったように、シェリーの死は回避される要因は今のところ無い。
「目的と己の幸せを混同するな……か。耳が痛いね」
ラースは苦笑いをシェリーに向けて呟いた。きっとラースは何かに失敗してしまったのだろう。
「さて種族を超える力の話だったね」
ラースは気を取り直したかのように、陽気な声が辺りに響く。
「僕の魔眼を一個あげよう」
「いりません!」
シェリーは即答で断った。確かに神眼のオリジナルを扱えるようになれば、相手を意のままに操るなど用意だろう。
だが、そういうことではない。
「ははははは!冗談だよ。それは流石にナディアが許さないと思うからね」
「それは理不尽ではなく、この世界にとっての常識にあたるのでは?」
ラースは、白き神が作った箱庭に白き神の威が反映されていることが理不尽だと答えた。だが、シェリーはそんな当たり前なことは理不尽ではなく常識だと切り捨てる。
そう、理不尽が常識だと。
「そうかもしれない。だけど種はばらまくが、どのように成長するか見ているだけどは、如何なものか。手入れを怠れば植物は実りを得ない」
ラースは赤い目を歪ませながら言う。種を撒いたのであれば、水を撒いて世話をしろと。
「私の感覚ではこの世界の神々は人々に干渉しすぎだと思います」
「そうかな?勝手に世界を変えられるよりましではないかな」
「世界を変える?」
それは変革者のことを言っているのかとシェリーはオウム返しの用に言葉を返す。
「そう、シェリー。君の聖女だなんていい例だよね。今まで存在しなかったのに、ポッと現れて人々から受け入れられた。しかし白き神が種だけ落として放置したがために、どれもが酷い結末を迎えた。君以外はだ」
その言葉にシェリーは首を傾げる。確かに二代目から四代目まではそうとも言えるだろう。
ただラフテリアはまだ魔人の姿で生き続けている。いや魔人化が『酷い』に当てはまるかは、本人に確認してみないとわからない。
それにシェリーの母親のビアンカは、番である勇者ナオフミと真綿に包まれたような、家族だけの世界に引きこもったはずだ。それも結末など迎えてはいない。
「それはどうでしょうか?」
シェリーはラースの言葉を具体的に否定はせずに濁した。ここで言い合いをして、女神ナディアが介入してくることになると、一気に状況が面倒くさくなるからだ。
「まぁそのうち、私が言っている意味がわかるよ」
「そうですか⋯⋯もしかしてラース様は、ご自分がその理不尽に巻き込まれていると言っていますか?」
ここで聖女に例を上げたのは、歴代の聖女は番の所為で、幸せとはかけ離れた結末を迎えた者たちだと言いたいと、シェリーは当たりを付けた。
結局のところラフテリアもロビンの死がきっかけで魔人化し、ビアンカは番が複数いることで、オリバーに囚われ、今はナオフミに囚われている。
ということはだ。ラースは女神ナディアの愛憎を向ける者として、白き神に用意されたものだと本人は言いたいのだろう。
だが、女神ナディアが支配するラース公国内で、女神ナディア自ら管理するダンジョン内で、そのようなことを口が裂けても言えるはずは無い。
「それは君の想像にお任せするよ」
だからラースも言葉を濁す。別に女神ナディアから与えられた物を奪われるなど、5千年も生きたラースにとってどうでもいいことだろう。
しかし女神ナディアの怒りを着実に買うことになるのは、関係がない子孫の者たちであり、ラース公国の民だ。
だからラースも言葉を濁すしか無い。
「そうですか。それで種族差を埋める方法とは何ですか?」
だが、シェリーにとっては、ラースが白き神の采配で存在する者だったとしても、どうでもいいことなので、さっさと本題に移る。
「シェリー。この話を聞いて君は君の在り方に疑問を持たないのかな?」
しかしラースはシェリーの聖女としての役目に対して揺さぶりをかけてきた。
今までの聖女がろくな生き方をしていないのに、聖女としてあり続けように思うのかと。
「疑問ですか?持つだけ無駄です。私はルーちゃんが幸せに暮らせる未来の為に、役目を果たすのです。そこに私の幸せを混同しません」
「おや?ルークの幸せの未来に君が居ないのはルークにとって幸せなのかな?」
「大丈夫です。炎王の子孫がルーちゃんを支えてくれますから。それに2つの目的を持つことは感覚を鈍らせます。私は魔王を倒す。それだけです」
シェリーにとって生きがいであるルークの幸せは目的の先にあり、そこにシェリーの幸せを入れることは、どちらの目的も果たせないことになる。
そうシェリーの幸せを考えるには五体満足で生き残ることが前提である。しかし、黒のエルフの予言にあったように、シェリーの死は回避される要因は今のところ無い。
「目的と己の幸せを混同するな……か。耳が痛いね」
ラースは苦笑いをシェリーに向けて呟いた。きっとラースは何かに失敗してしまったのだろう。
「さて種族を超える力の話だったね」
ラースは気を取り直したかのように、陽気な声が辺りに響く。
「僕の魔眼を一個あげよう」
「いりません!」
シェリーは即答で断った。確かに神眼のオリジナルを扱えるようになれば、相手を意のままに操るなど用意だろう。
だが、そういうことではない。
「ははははは!冗談だよ。それは流石にナディアが許さないと思うからね」
22
お気に入りに追加
1,016
あなたにおすすめの小説
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる