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27章 魔人と神人
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シェリーは、西地区第一層門の門兵をしていた第五師団長のヒューレクレトに、黒狼クロードの手書きの指令書を見せつけ、第一層門を突破し、騎士団本部の前に到着した。
いつも通り勝手知ったところという感じで騎士団本部の建物内に入り込み、広報部の部屋の扉をノックする。
「はーい!」
扉から出てきたのは広報部に行くといつも対応してくれる女性だった。
「サリーさんと少々込み入った話がしたいのですが、お時間をもらえるでしょうか?」
シェリーは簡単に用件を言った。その少々の中には、とんでもないことが混じっているのだが、そんなことは露程にも感じさせなかった。
そんなシェリーと後ろの二人に視線を向けた女性は視線をオロオロさせて、開けたはずの扉を勢いよく閉める。
「ぐんそー!メロメロシェリーちゃんの襲来ですー!」
「なんですって!」
いつも通りの対応に、シェリーは何も反応を示さないが、背後から『ぐふっ!』っという笑い声が聞こえてきた。
「メロメロって……」
シュロスである。だがそんなシュロスをカイルは一睨みし、黙らせた。
そう、ここに来るまで色々あったのだ。
電車に乗りたいと叫びだしたことから始まり、建国祭から運用が始まった魔道車という巡回バスに乗りたいと言いだし、蛇人であるヒューレクレトに親しそうに絡みだし、第一層内の貴族街に入れば『すげー!』と叫びだしたなど色々あった。それをシェリーが口でぶった切り、カイルが物理でシュロスを黙らせて来たのだった。
「今日はどうしたのかしら?」
そこに、水色の髪のうさぎ族であるサリーが扉を開けて、シェリーに用件を聞いてくる。
「うさ耳!」
場の空気を読まないシュロスに、カイルは拳を繰り出し、シェリーは背後に向かって回し蹴りをした。
「ひどい……」
酷いと言いながらも、平然としているシュロス。その初めてみるシュロスに引き気味になっているサリー。
「サリーさん。どこか個室でお話ができないでしょうか?あと、クソ狐と第六師団長さんを呼んで来て欲しいです」
シェリーは面倒なことをまとめて済まそうとしていた。
「最近お忙しそうだから、来ていただけるかわからないわ」
恐らく先日あった王都襲撃の後始末の件で色々動いているだろうイーリスクロムに対応してもらえるかわからないと言う。
確かに今までが異常だったのだ。所詮一般人であるシェリーの前に、一国の国王がアポ無しで対応してくれるなど、ありえないのだ。
「そうですか。閣下。お願いできますか?」
シェリーは何処ともなく声をかける。サリーからすれば、見たことがない人物が閣下というものかと思ったのだろう。その視線はシュロスに向けられていた。
「クソ狐とは誰じゃ」
しかし、全く違うところから声が聞こえてきた。カイルの背後から聞こえたようだが、そこには誰もいない。
「尾が九本あるクソ狐です」
「若王か。クロードも嫌っておったが、それがあやつらの性というものじゃ」
幻影使いの金狐。クロードはそう言って嫌っていた。それを声だけの者は性というモノには逆らえないと言わんばかりだ。そう、姿を認識させず声だけを発している者もそれが己の性だと。
「それでワシをこき使おうと言うのかね?」
「ここまでついて来ているということは、私に協力する気があると思っていますが?」
「フォッフォッフォッ。また友と話せる機会があるのであれば、手伝ってやろう」
「それを白き神が許せばと言っておきます」
するとその後の返事はなく。冬の冷たい空気がスッと流れた。
この目の前に起きていることに、サリーは目を白黒させて戸惑っている。いったい何が起こっているのかと。
「シェリーちゃん。閣下って誰のことを言っているの?」
起こっている状況が理解出来ず、サリーはシェリーに尋ねる。
「取り敢えず、個室で話ができませんか?それから第六師団長さんを呼んできてください」
しかしシェリーは質問には答えず、人の目がないところで話ができないかと言った。一つの紙をサリーに差し出しながら。
手のひらサイズの紙を受け取って確認するサリー。それを見たサリーは腰を抜かしたように床に倒れ込んだ。
「ぐふっ! こんなものをいつの間に……軍部のアイドル、ファスシオン師団長のレア写真」
「ここぞというとき用です」
シェリーは、サリーに何かと融通してもらうため用のコレクションを保管しているようだ。今回は王都の西側の国境側を管轄して、ほぼ王都にはいない第九師団のファスシオン師団長のレア写真を取引材料として持ち出したらしい。
それもサリーの言葉から、ファスシオンはその少年と言っていい見た目から、軍部のアイドル化していることが窺えた。
息子であるリッターは、ルークの剣の師であるライターの元で脳筋うさぎ化しているが、その事実を知るのは一部の者のみ。
「いいわー!いいわー!あ……よだれが……誰か!第六師団長を騎士団本部に連れてきて!」
サリーは写真を大事そうに抱え、瞳孔が開いた目をして叫びだした。
「うさ耳、こわっ!」
そのサリーを見て、いつも通りだと何も反応しないシェリーの背後から、シュロスの声があがったのだった。
いつも通り勝手知ったところという感じで騎士団本部の建物内に入り込み、広報部の部屋の扉をノックする。
「はーい!」
扉から出てきたのは広報部に行くといつも対応してくれる女性だった。
「サリーさんと少々込み入った話がしたいのですが、お時間をもらえるでしょうか?」
シェリーは簡単に用件を言った。その少々の中には、とんでもないことが混じっているのだが、そんなことは露程にも感じさせなかった。
そんなシェリーと後ろの二人に視線を向けた女性は視線をオロオロさせて、開けたはずの扉を勢いよく閉める。
「ぐんそー!メロメロシェリーちゃんの襲来ですー!」
「なんですって!」
いつも通りの対応に、シェリーは何も反応を示さないが、背後から『ぐふっ!』っという笑い声が聞こえてきた。
「メロメロって……」
シュロスである。だがそんなシュロスをカイルは一睨みし、黙らせた。
そう、ここに来るまで色々あったのだ。
電車に乗りたいと叫びだしたことから始まり、建国祭から運用が始まった魔道車という巡回バスに乗りたいと言いだし、蛇人であるヒューレクレトに親しそうに絡みだし、第一層内の貴族街に入れば『すげー!』と叫びだしたなど色々あった。それをシェリーが口でぶった切り、カイルが物理でシュロスを黙らせて来たのだった。
「今日はどうしたのかしら?」
そこに、水色の髪のうさぎ族であるサリーが扉を開けて、シェリーに用件を聞いてくる。
「うさ耳!」
場の空気を読まないシュロスに、カイルは拳を繰り出し、シェリーは背後に向かって回し蹴りをした。
「ひどい……」
酷いと言いながらも、平然としているシュロス。その初めてみるシュロスに引き気味になっているサリー。
「サリーさん。どこか個室でお話ができないでしょうか?あと、クソ狐と第六師団長さんを呼んで来て欲しいです」
シェリーは面倒なことをまとめて済まそうとしていた。
「最近お忙しそうだから、来ていただけるかわからないわ」
恐らく先日あった王都襲撃の後始末の件で色々動いているだろうイーリスクロムに対応してもらえるかわからないと言う。
確かに今までが異常だったのだ。所詮一般人であるシェリーの前に、一国の国王がアポ無しで対応してくれるなど、ありえないのだ。
「そうですか。閣下。お願いできますか?」
シェリーは何処ともなく声をかける。サリーからすれば、見たことがない人物が閣下というものかと思ったのだろう。その視線はシュロスに向けられていた。
「クソ狐とは誰じゃ」
しかし、全く違うところから声が聞こえてきた。カイルの背後から聞こえたようだが、そこには誰もいない。
「尾が九本あるクソ狐です」
「若王か。クロードも嫌っておったが、それがあやつらの性というものじゃ」
幻影使いの金狐。クロードはそう言って嫌っていた。それを声だけの者は性というモノには逆らえないと言わんばかりだ。そう、姿を認識させず声だけを発している者もそれが己の性だと。
「それでワシをこき使おうと言うのかね?」
「ここまでついて来ているということは、私に協力する気があると思っていますが?」
「フォッフォッフォッ。また友と話せる機会があるのであれば、手伝ってやろう」
「それを白き神が許せばと言っておきます」
するとその後の返事はなく。冬の冷たい空気がスッと流れた。
この目の前に起きていることに、サリーは目を白黒させて戸惑っている。いったい何が起こっているのかと。
「シェリーちゃん。閣下って誰のことを言っているの?」
起こっている状況が理解出来ず、サリーはシェリーに尋ねる。
「取り敢えず、個室で話ができませんか?それから第六師団長さんを呼んできてください」
しかしシェリーは質問には答えず、人の目がないところで話ができないかと言った。一つの紙をサリーに差し出しながら。
手のひらサイズの紙を受け取って確認するサリー。それを見たサリーは腰を抜かしたように床に倒れ込んだ。
「ぐふっ! こんなものをいつの間に……軍部のアイドル、ファスシオン師団長のレア写真」
「ここぞというとき用です」
シェリーは、サリーに何かと融通してもらうため用のコレクションを保管しているようだ。今回は王都の西側の国境側を管轄して、ほぼ王都にはいない第九師団のファスシオン師団長のレア写真を取引材料として持ち出したらしい。
それもサリーの言葉から、ファスシオンはその少年と言っていい見た目から、軍部のアイドル化していることが窺えた。
息子であるリッターは、ルークの剣の師であるライターの元で脳筋うさぎ化しているが、その事実を知るのは一部の者のみ。
「いいわー!いいわー!あ……よだれが……誰か!第六師団長を騎士団本部に連れてきて!」
サリーは写真を大事そうに抱え、瞳孔が開いた目をして叫びだした。
「うさ耳、こわっ!」
そのサリーを見て、いつも通りだと何も反応しないシェリーの背後から、シュロスの声があがったのだった。
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