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27章 魔人と神人

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「佐々木さん。説明したじゃないか。飛行石だって」

 シュロスがいい切った言葉にシェリーは眉間にシワを寄せた。そのような説明はされていないと。

「飛行高度の問題の話にその言葉を出しましたが、島自体がそのような動力源で稼働しているとは聞いていませんよ」

 確かに飛行高度の点において、空を飛ぶ石の話をシェリー・・・・から切り出したが、シュロスから動力源としては言われてはいない。

「え?そうだったか?」

 シュロスからすれば気が遠くなるほどの年月が流れている。それは記憶が間違っていても仕方がない。
 いや、青い宝石のようなところに魂を封じた存在に、どれほど記憶が残っているかは不明だと言える。

「でも空を飛ぶには飛行石が必要だろう?それがどうしたのだ?」

 ゲーム脳のシュロスには、空島を作るにあって必要不可欠な物だった。

「ただ気になりまして、島が落ちてもここが稼働しているということは、動力源は半永久的にエネルギーを生み出すものなのかと」
「飛行石だから、そうだろう?」

 創り出したシュロスがそう望んだ存在であれば、形がある限り島を浮かすほどのエネルギーを発するモノが存在し続けるということだ。

「それがあれば、わざわざ水の供給に魔力を注ぐこともなく、ここにシュロス王がいれば、今の水のパイプラインとここを繋げることが可能ですよね」

 シェリーは言い切った。第三師団が行っている水を供給する仕組みを元の状態にもどして、そこまでシュロスが繋げればいいと。

「え……いや……」
「できますよね」

 言葉を濁したシュロスにシェリーは強い口調で言う。否定は許されないと。

「およ?それはフィアちゃんに頼むって話じゃなかったのかな?」

 その話をしていたときに、その場に居なかった陽子が、シュロスに頼む必要はないのではと口にする。
 ユーフィアが、シュロスが創り出したような半永久的に魔力を供給し続ける魔道具の開発をするという話だったと。

「ユーフィアさんのものは量産が可能なものになってきますので、できれば表に出さない方が良いと思います。特に軍部に渡すこともないかと」

 ユーフィアの魔道具はいい面もあるが、使い方によっては、甚大な被害をもたらすことがある。そして、ユーフィアは個人で量産できる工場を所有しているため、魔力を無尽蔵に生み出すような危険物を世間にばらまくことは避けたほうがいいだろう。

「シュロス王が創ったものは量産が不可能のため、国に上げるのであれば、こちらのほうがいいかと……魔力が無尽蔵に……」

 シェリーは何かが引っかかったのか、口元に手を当てて考えだした。
 そしてシュロス王に視線を向ける。

「その動力源を見せてもらうことは可能ですか?」
「ん?いいぞ。さっき通った制御室だ。あのくぼんでいるところの真上だな」

 窪んでいるところ。そこは水源湖のすり鉢状の一番底に凹んでいる部分があった。
 まるで底に岩でもあって、それを抜いたかのような形に凹んでいる。

 そこに水を精製する装置があっても不思議ではないが、これだと水底にもともとはあったと言うことになる。そうなると、この地下いっぱいに水で満たされた中で、底から取り出したことになる。それは本当に可能だったのだろうか。

 いや、地に落ちてしまった者たちからすれば、地に這いつくばって生きていくことを強いられたのだ。そのようなことは些細なことだったのかもしれない。




 そして先程の草原のような場所までシェリーたちは戻ってきた。

 地下に生きることを強いられた者たちが唯一擬似的な外を感じられる場所。

「ササっち。さっきのことだけど」

 季節感のない、白い花が咲く草原の上を歩き、透明感のある青い建物に向かっていくところで陽子がシェリーに話かける。
しかし、さっきというのはいつの話のことだろうか。

「陽子さんがここを掌握したら、パイプラインぐらい陽子さんが作れるよ?」

 さっきとは水の精製装置を元の位置に戻すという話のことだ。
 陽子の言う通り、この場所をダンジョン化すれば、陽子が好きなように変えれるようになる。わざわざ何をしでかすかわからないシュロスに頼む必要はないということだ。

「創造ということになると、陽子さんよりシュロス王の方が格が上ですよね?」
「そう言われると、ぐうの音も出ないよ」

 シュロスは陽子の支配下であるダンジョン内でも、するっと入り込むように干渉したのだ。
 どちらが上位かと言えば誰の目にも明らかだろう。ならば、この空島の構造を一番理解している者に頼むのが道理というもの。

「なんか。俺がやるって決められていないか?」
「この状況で拒否権があると思っているのですか?」
「何で無いんだよ」
「誰のお陰で自由に行動ができていると思っているのですか?」
「……佐々木さんのお陰です」

 シュロスが謎の鎧の姿で復活できたのは、紛れもなくシェリーのお陰である。これを出されてしまえば、シュロスはシェリーに逆らうことはできないのであった。
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