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27章 魔人と神人

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「え?凄くいい匂いがしているのに、食べれないって選択肢があるのか?」

 白い甲冑に嗅覚があることにも驚きだが、食べる気があることにも驚きだ。

「その鎧のどこに口があるのですか?それに中身がモヤのクセに食べたものをどう排出するつもりか聞きたいですね」

 そう、頭部をフルフェイスで覆っているが、まさに戦隊モノの被り物を模した様相であるため、口の部分は何もないのだ。そして、肝心な消化器官がシュロスにはない。食べても甲冑の中に落ちていくしかないのだ。

「おお!口か!」

 シュロスはたった今、己には口がないことに気がついたようだ。そして、何かを考え始めたかと思えば、口にあたる部分にヒビが入り、割れた。
 それも骸骨のむき出しの歯のように見えるヒビだ。

「ひぃ!」
「俺、普通に対応している佐々木さんを尊敬するよ」

 今までなかった口ができた甲冑の姿を見て、陽子は悲鳴を上げ、炎王は引いていた。口がないから食べれないというのではなく、口を作るという方向に考えが及ぶシュロスにだ。

「でもそうなってくると、姿も変化させたほうがいいのか?ほら、元の姿に近い感じで……ああ、でも仮面◯イダーみたいな感じも捨てがたいんだよなぁ」

 シェリーは戦隊モノと表現していたが、どうやらシュロスの中では別のモノに模していたようだ。

「知りませんよ」

 そんなシュロスをシェリーはぶった切る。すると、陽子と炎王はそんな対応かと、ある意味納得する。そもそも相手にしていなかったと。
 だが、それをよく思わないのがカイルである。

「シェリー。お腹空いたね。さっさと食べようか」

 シェリーの分と己の分のカレーを持っていたカイルはトレイをテーブルの上に置き、シェリーを抱え込む。シェリーが文句を言わないオリバーの隣の席だ。シュロスとはオリバーを挟んで反対側なので、これ以上相手にしなくてもいいと。
 いや、己以外のヤツを相手にしなくてもいいという感じだ。

「はぁ。外見よりも先に鎧の中身をどうにかしてから、食べたいと言ってください」

 カイルの行動にため息を吐きながら、シェリーは外見より中身だろうと言う。するとシュロスは中身かっと腕を組んで考え込んでしまったのだった。




「それで、説明をしてくれるかね?あのモノはおかしなことを口にしていたが?」

 カレーを食べて満足しているオリバーがシェリーに説明を求めた。そうシェリーとは二十歳に出会って、最後に会ったのは五百歳のときだったと言ったことをだ。

「シュロス王は、この世界で初めて喚ばれた変革者です。出会ったのは白き神の計らい……嫌がらせですね」

 シェリーは白き神が真実は想像を超えたものだと見せつけるために行ったことを、嫌がらせと口にした。確かにシェリーからすれば、迷惑極まりないことだっただろう。

 だが、それにより真実が見えたのも事実。

 そしてシェリーは一通り、シュロスの説明をした。ミゲルロディアやモルテ王にした説明を再度繰り返したのだ。




「あ~。陽子さん、わかった。馬鹿だから、上手く誘導させないと、大変なことになるってことだね」

 陽子はシェリーの言葉に理解を示した。的確に物事を伝えないと、明後日の方向に飛んでいくということにだ。

「いや、もう変なことになっているぞ」

 炎王はシュロスを見て、かなり引いている。そのシュロスをオリバー越しにシェリーは視線を向けた。そして盛大に溜息を吐き出す。

「はぁぁぁ……確かに外見はよりも中身とは言いましたが……何を参考にしたのか聞きたいですね」

 皆の注目を集めているシュロスは、その視線もシェリーの声も届いていないのか、ブツブツと独り言を言っている。その姿は先程とは全く変わってしまっていた。

 先程は骨に甲冑を着せたような姿だったのに、今では、筋肉があるように見える。そして全てを金属で覆われていた感じだったが、一部が布地で覆われているかのような質感になっており、身体の作りは人と言っていいように見える。
 だが、問題はその容姿だ。白髪の髪が頭部から生えているのは謎だが、それはいい。顔の皮膚にあたる部分が真っ白な仮面のような質感で、唇がなくむき出しの歯が出ている。そして瞼がないギョロリとした目。

 己の骨格に作るのに思考しているからか、隠したはずの青い石が胸の中央で輝いている。

 こんな者が街の中で歩いていたら、絶対に悲鳴を挙げて、逃げていく人が出てくるだろうという容姿だった。

「できた!これでどうだ!中身も完璧だ!」
「それができれば、元の身体も老いなかったのではないのですか?」

 ヒト一人の肉体を構成したのだ。それならば、元のシュロスの身体で生きることができたのではないのかと、シェリーは満足しているシュロスに言葉を投げかけた。それも直球がみぞおちにめり込んだかのような勢いでだ。

 シェリーの言葉にシュロスは固まった。そして、少し考えて答える。

「佐々木さん。生き物はいずれ死ぬと言ったのは佐々木さんじゃないか。俺が作った身体は生物じゃなく、俺の力で作っているから、これは当たり前だ」

 シュロスは真面目に答える。いや、老いというものとぶち当たったときに、シュロスが導き出した答えだ。
 生き物はいつかは老いて死ぬ。ならば、老いない身体を作ればいいと。

「さっき、創造の具現化と言っているのが聞こえてきましたが、細胞が入れ替わるように、シュロス王の力で、老いた部分を入れ替えていけば、可能だったのではと、私は言っているのです」
「ぐはっ!佐々木さん、以前も言ったが後出し過ぎる!それをなぜ、あの時に言ってくれなかったのだ!」
「それはシュロス王が考えることであって、私が考えることではないからです」
「サポーターの意味がないよ。佐々木さ……ん。あと、佐々木さんの彼氏の心の狭さをなんとかして欲しい」

 そう言っているシュロスの手には、尖った氷の刃が握られていたのだった。

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