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27章 魔人と神人
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しおりを挟む「このことから、人の身で巨大生物に変化することは無理だということです」
女神ナディアが愛し子として、ラース公国を更に強国にするために、加護を与えた大魔女エリザベートが導き出した世界の理だ。信用性はある。
「逆に言えば、巨大化しなければならない意味があるのかもしれません」
巨大化の意味。人の質量のままでは駄目な理由があると、レガートスは指摘した。
「鍵はダンジョンでしょうか?」
シェリーは考えながら答える。人の質量のままの変化。それは完全体の悪魔のことだと言える。そして、なぞの血管のような紋様だ。
色の違いが未だに謎のままだ。
ただ、黒狼のクストが言っていた。クラスチェンジが起こると。その言葉から青い色のほうが上位種だと言われている。
「ダンジョンですか?」
「え?ダンジョンってあるのか?」
「シュロス王は黙っていてください」
「え?ダンジョンがあるのも聞いては駄目なのか?」
シェリーの言葉に細身の甲冑が肩を落とす。だが、レガートスは首を傾げていた。そこにモルテ王が補足をいれる。
「ダンジョンという世界の力をつかって、アーク族が完全体の悪魔という存在になっているそうだ」
「え?あの煩わしい悪魔共がアーク族だったのですか?まぁ、言われてみれば見下した感じがアーク族そのものですね」
レガートスは言われた言葉に納得していた。そして再び考える素振りをみせる。
「ダンジョンもよくわかっていませんからね。エリザベート様が黒の姫君と話をしたというところに出てくるぐらいですか」
そういって身体を浮遊させたレガートスは、天井の高さまである本棚の上の方まで飛んでいって、別の本を取り出した。
床に足をつけたレガートスはその手に持った書物をめくり始める。そしてあるページで手を止めた。
「ダンジョンという存在は一種の浄化機構であるとエリザベート様は結論つけていますね」
「なんです?浄化機構とは?」
思ってもみなかった言葉がレガートスから出てきてシェリーは疑問を呈した。黒の姫君こと、黒のエルフのアリスと出会ったのであれば、てっきりダンジョンマスターを育てる計画を聞いているのかと思えば、浄化という予想外の言葉が出てきたのだ。それはもっともダンジョンにふさわしくない言葉だった。
「調べてみると、魔物が地上に徘徊する量を調節しているようだと書かれていますね。ああ、そうですね」
何かを思い出したのか、別の書物を取ってきて……いや、何かの地図だろうか、丸まった大きな紙を持ってきた。それを開いて、どうしたらそうなるのか不明だが、大きな一枚の紙が本棚に沿うように広がった。
その紙にはシェリーにとっては見慣れた折れ線グラフが描かれている。
「これは黒の姫君の知を借りてできたものだそうです。縦が魔物の被害があった町の数で、横が年数ですね。これを作るのにかけた年月には感服します」
そうだ。横線が年と言っているが、一年二年という単位ではない。二千年という単位だ。
「そして反対側の赤い線がダンジョンが増えた数ですね」
折れ線グラフは黒い線と赤い線で示されている。だが、これだと見にくいとシェリーは眉間にシワを寄せていた。
「なんでダンジョンの数の方を棒グラフにしなかったんだ?」
シュロスの言う通り、折れ線グラフ二本より、折れ線グラフと棒グラフのほうが見やすい。だが、アリスに教えられただけで、ここまでの折れ線グラフを作れたことには感嘆に値するだろう。
「ぼうぐらふですか?よくわかりませんが、この資料によりますと、町への被害数が増えたあと被害が一気に減り、数年後にダンジョンの出現が報告されています。それが百年単位で繰り返されていますね」
レガートスの説明とおりに折れ線グラフは上に上がった後に、下に一気に下がり、また徐々に上がっている。その被害数が一定の範囲に定まっているかと言えばそうではなく、全体的に増えて行っているのだ。
これは聖女という一人の浄化に頼らずに、ダンジョンを作り出すことで、魔物の存在を取り込み管理しようと試みた結果だろう。
だがそれも限界がきた。結果的に魔王という存在が出現するまでに至ったのだから。
「私の個人的な意見ですが、巨大化しないと力を維持できないことですが、ダンジョンの力を取り込めば、巨大化しなくてもいいのではないのでしょうか?」
「それ、おもしれえー。じゃ、巨体化するのは複数の人の力がないと瓦解したってことだな。すると制御する脳は組み込まれていて既にあっていらねぇから、頭は必要ないってやつだ。ってことは腕だけを切っても全然平気だったのもわかる。キメラと一緒ってことだ」
次元の悪魔がキメラだとシュロスが言葉にした。
確かに倒すには核の破壊が必要になる。腕を一本切り落としても、そのうち何事もなかったかのように生えてくるのだ。
「オリバーが肝心なことが抜けているって言っていたけど、これのこと?」
シェリーの呟いた独り言は室内に異様に響き渡ったのだった
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