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27章 魔人と神人

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 シェリーは眉間にシワを寄せて険しい表情をして、薄暗い室内にいた。目の前には壁一面の本が整然と並んている。

 ここはモルテ王の城の一角。魔女の遺産が保管されている場所だった。

 あの後、モルテ王に転移でこの場所に連れてこられた。そのモルテ王は少し席を外すと言って、この場にはいない。だから、必然的にシェリーとカイルと怪しい甲冑のみが、書庫の中に居た。

「ああ、これな。目的は氷結じゃなくて、雪を人工的に降らすのに作ったやつだな」

 甲冑が勝手に本棚から本を抜き取って、ペラペラとめくりながら、本に書かれていることと違うなぁということを言っている。

「この鳥は……食料の確保のためだったから、羽の成分なんて、意味ないぞ」

 空島のことを知りたいがために、魔女の遺産を引き取ろうと思っていたのに、一番空島についてわかっている人物がいるので、この資料の殆どが必要ないのではという顔をシェリーはしているのだ。

 そうなれば、魔術のことが書かれた資料のみでいい。

 シェリーは一人、本に向ってツッコミを入れているシュロスを放置して、少し離れた場所に移動する。誰が魔女の遺産の管理を任されていたかは知らないが、用途ごとに本が分かれて保管されていた。

 魔術のことが書かれているだろう本を一冊手に取って、開いてみる。だが、シェリーの眉間のシワがますます深くなっていくのみ。ページをめくるが、その表情が改善されない。

「これは全部、魔導術だね」

 シェリーの背後からカイルの声が聞こえた。シェリーはその声に、言われなくてもわかっているという感じで、横目でカイルを睨みつけている。

 そう、全ての魔術のページに陣が描かれており、その魔術の説明がされている。それも一属性だけ施行する魔術と分類されるものではなく、二属性以上を複雑に展開する陣が描かれていたのだ。

 薄々は気がついていた。それは大魔女エリザベートが使っていた立体陣形の魔術。陣は平面という既成概念を超えて、立体にすることで、魔術という幅を広げた魔導術。そして、普通に何事もないように使っていたモルテ王の複数の陣の連結による術式の展開。
 魔導師でもそのように陣を複数展開して術を施行する者なんていない。

 あのオリバーでさえ、陣は一つしか使わないのだ。

 陣形術式が最盛期だった頃の者たちと、詠唱術式が主流の現在の者たちとの差だ。


 シェリーが険しい表情をしている理由。それは、オリバーから魔導術のセンス・・・がないとぶった切られていることが原因だ。
 そう、使えないわけではない。母親であるビアンカも叔父であるオーウィルディアも魔導師として才覚に恵まれ、討伐戦を戦ってきたのだ。シェリーにもラースの血は流れている。

 センスがない。なんと微妙な言葉なのだろう。

 どの辺りにセンスが必要なのか。強いて言うのであれば、陣を描く精密さだろうが。

「お!すっげー!これ時空と空間の固定の術じゃないか!」

 一人、本に向ってツッコミを入れていたシュロスがいつの間にか、シェリーが広げている本を覗き見ていた。

「あれから佐々木さんに魔術を使っているって言われて、色々作ってみたけど、憧れの亜空間収納までたどり着かなかったなぁ」
「は?」
「それからすれば、これは完璧だ!時間の強さ0に干渉5、拡張10、固定8、それから……」
「ちょっと待ってください。どこに数字が書いてあるのですか?」
「いや、数字じゃなくて、ここの線の太さと長さだ。文字の入れる数は決めてある。最大二十までって、そのギリギリラインを攻めるのが……っ!佐々木さん!関節がミシミシ言っている!」

 シェリーは側で講義でも始めたかのように、得意げになって喋っているシュロスの膝関節に蹴りを入れて、徐々に力を込めていっていた。

 そう、魔導術の陣の基準を作ったのも、この目の前にいるシュロスだったのだ。何のゲームから構想されたのかはわからないが、事細かな設定がされている。

「線の太さに意味があるって教えてもらっていませんよ!」

 シェリーに魔導術を教えたのはオリバーだ。ある意味天才の彼にとって線の太さや長さなど、当たり前のことと処理をされていて、教える対照になっていなかった可能性がある。

「……確かにそんなことを誰かに言った記憶はないな……佐々木さん!これ以上は膝が壊れる!」

 全ての原因は目の前の甲冑だった。
 しかし、シュロスが事細かに誰かに伝えていないとすると、陣形術式はシュロスの代で廃れており、世界中に広まることはなかったはずだ。
 ならば、なぜ広まることになったのか。

魔神ましんリブロ様の存在が絡んでいるということですか……」

 どこぞのニヤニヤしている神の顔が浮かんだシェリーは、頭を横に振って消した。その神の威が示されたとなると、魔術を司る神であるリブロ神が人に知と力を与えたのだろうと予想ができたのだった。

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