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27章 魔人と神人
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しおりを挟む暗闇の空間の奥はほのかに青白く光っている。その奥から話し声が聞こえ、禍々しい気配と共に暗闇に向って近づいて来ていた。
「穢らわしい大地が光っているなど、まさに王の御業ですね」
狭い空間を声が反響しているようにエコーがかかりながら、聞こえてきた。
「大地が煌々しく光るなど、我らが王に違いない」
どうやら、シェリーが行った浄化の光が、この場を覆っている丘全体を光らせていたらしい。しかし、シェリーの浄化は強い力を持っているとはいえ、上空にある空島から見えるほど光るだろうか。
いや、建物が逆さまになっているということは、元々空島の大地であった土が、丘の上の層にある可能性が高い。
ということは、シュロスが空島の大地に何か仕掛けをしていてもおかしくはないだろう。
「しかし、おいたわしい。王は長きに渡って、このような穢らわしい地に囚われ続けなければならなかったなど」
言葉を聞く限り、王という存在に固執しているものの、普通に会話が成り立ちそうだ。
魔王討伐線を戦った者たちから聞く、完全体の悪魔という存在ではないように思える。ということは、アーク族がこの地に降りてきたのだろうか。
暗闇とほのかに光る場所との境界に人影が現れた。
いや、人影というと語弊がある。その人物を型取るように青いスジのような物が光って浮かんでみえる。その異様さだけでも、人外がいることが窺える。その異様な存在が、先程の会話から二人以上は居ると予想できた。
「暗い。『暗闇を祓う光よ。我らに導きの灯火を与え給え』」
その言葉と共に丸く円状に光が描かれ、そこから球状の光の玉が複数現れた。
そして、部屋全体に散らばっていき、空間全体を仄かに光で満たした。
先ほどカイルが出した光の魔法より明るさがなく、どこか薄暗い印象だ。
「これは……まさに玉座の間です」
「伝承のとおり全てが青い」
薄暗い光でも、この空間が青いガラスのような壁に、覆われていることはわかる。しかし、この言葉から、今現在の空島では、シュロスが創った青いガラスのような建物は存在していないと伺えた。
仄かに光る空間に青い血管のような紋様を皮膚にまとった存在が入ってくる。先程青い光が人の形に光って見えていたのは、皮膚が闇のように漆黒だったため、余計に浮き出たように見えたらしい。
造形的には人型と分類されるだろうが、頭からは黒い角が生えており、一瞬オーガの変異種のように見えなくもない。だが、その背には一対のコウモリのような薄い膜の翼を折りたたむように背負っている。
完全体の悪魔と呼ばれる存在だ。
「しかし、王は何処に行かれたのでしょうか?」
「迎えが遅いと出ていかれてしまったのか?」
二体の完全体の悪魔は周りを見渡しながら、薄暗い空間を進んでいる。しかし、シェリーは五体いると言っていた。ということは、見張りとして他の三体は外にいるのだろう。
「視界が悪いですね。闇を打ち払う術でもこの暗さとは、王の力の強大さを窺えますね」
「おい、あそこを見ろ」
一体の完全体の悪魔がある一点を差す。そこは先程カイルとモルテ王が暇つぶしに、遺跡で眠る遺骨のように綺麗に骨を並べていたところだ。
慌てて二体の完全体の悪魔は駆け寄っていく。
「陛下。大変長らくお待たせてしまい、申し訳ございません。陛下をこの穢らわしい大地からお救いすべく、参上仕りました」
二体の完全体の悪魔が青い床に跪き、頭を垂れ、迎えに来たことを述べた。
だが、それに応える言葉は返ってこない。
「陛下?」
「もしかして、あまりにも迎えが遅いことに、お怒りなのですね。そのお怒りは存分に向けてください。王を地に縛り付けた白き神に」
怒りの矛先が違うように感じる。アーク族に地に落ちれば、ただの鳥人だという呪を与えたのは、白き神だ。それはアーク族に対してであって、シュロス自身に掛けられた呪ではない。
だが、その言葉にも完全体の悪魔が、陛下と呼ぶモノは応えない。
そう、彼らが頭を垂れているのは、ただ骨に過ぎない。ここは『返事がない。ただの屍だ』という字幕が、流れるところだ。
ただの骨から返答がないことに、焦りだす完全体の悪魔たち。まさか、王に無視されるとは予想外だったのだろう。
その姿を、肩を揺らして見ている者がいる。いや、声を押し殺してお腹を抱えていた。
この空間を、更に濃い闇で満たしたモルテ王だ。モルテ王の側には死んだ魚の目をして、何もない空間を見ているシェリーに、口元に手を持ってきて、笑いをこらえているものの、シェリーをしっかりと抱えているカイルがいた。
何を必死に、ただの骨に声を掛けているのだと。
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