708 / 774
27章 魔人と神人
695
しおりを挟む
「シェリー。これどう見ても、死んでいるようにしか見えないけど?」
カイルが、朽ちてバラバラになった骨を見ながら言った。それは誰の目にも明らかだ。骨が生きているように動くのであれば、それはスケルトンという魔物でしかないと。
「だから言ったではないですか。シュロス王は永遠の命を願ったと」
そう言って、シェリーは抱えているカイルの腕から飛び降りる。そして、残骸が散らばっている床から、何かを探しているのか、かき分けていた。
「何かあるのか?」
シェリーの行動に疑問を持ったモルテ王が尋ねる。ぱっと見た感じでは、そこにシュロス王となるモノはなさそうだ。
「強いて言うのであれば、魂の容れ物ですかね。肉体が老化し限界がきたとなれば、魔導兵のように外装をまとった人形に入れるか、元の肉体の再構築を模索すると思うのです」
シュロスは以前言っていた。この力が使えるのは、この肉体だからではないのかと。
ならば、シュロスとしては、肉体が朽ちたあとに再構築する手段を模索したはずだ。
死からの再生。ゲームならではの考え方を。
そのために一旦、魂が肉体から離ることで、死という状態を作り出すために、魂を入れる容れ物を用意したはずだ。
ただ、何かの残骸と骨が散らばっている状態だということは、失敗したか、シュロスの意図をアーク族が正確に理解していなかった可能性がある。
「肉体の再構築?聖女の力のように死者を生き返らすってことかな?」
カイルは肉体の再構築という意味が理解できず、シェリーが死者を生き返らすことと同じかと尋ねた。それに対しシェリーは首を横に振る。
「流石に聖女の力では、骨に血肉や神経や臓器を与えて、人の形にまでするのは無理ですね。それこそ魔女や神の領域です」
「え?それはエリザベートが出来て、シェリーには出来ないってこと?」
「生き返らす条件に縛られていますので」
条件。シェリーが使う聖女の力は、死して4半刻以内という条件に縛られている。いや、箍を外したラフテリアはその条件を覆してきたが、ラフテリアが普通かと問えば、魔人だからということになる。
「あ、多分これです」
シェリーは残骸の中から小さな丸い玉を掴み上げた。見た目はラムネの瓶に入っているビー玉のように、球状の黒い玉だ。
それをとても嫌そうにつまみ上げている。
「自分が悪心にまみれているじゃない」
シェリーは独り言のように呟く。
黒い玉。それは長年この状態から解放されなかったシュロスの怨嗟の塊なのだろう。黒いモヤをまとっている。
「シェリー。それをどうするのかな?」
シュロス王というには、小さな塊の存在にカイルもモルテ王も困惑気味だ。いや、結局のところ二人はシェリーの言葉を真に理解出来ていなかっただけだ。
神が与えた永遠の命という状態をだ。
「取り敢えず、浄化します。このまま復活して、魔王だったとしても頷ける状態ですから……浄化で魂そのものが消滅しても、面倒くさくなくいいですし」
魔王がどのような存在かは見たことはないものの、何千年という時を孤独に生きた者の恨みは如何ほどのものか、想像しがたいことだ。
シェリーは黒い小さな玉を覆うように白い光で満たす。壊れてしまってもいいというシェリーの心がにじみ出ているのか、この空間を白一色に染め上げるほど、強い光を放っている。
いや、もし復活しても、ゲーム脳のシュロスとの会話の成り立たなさを思い返すと、壊れてしまえば良いという感情が強く出てしまっているのだろう。
浄化と言うには些か、殺意が混じっているようだった。
どれほど時間が過ぎただろうか。太陽の日が遮られた国であり、洞窟の中のため、正確な時間はわからない。
シェリーが浄化している間、時間を持て余したカイルとシュロス王が、散らばった残骸から骨を骨格標本のように床に並べ、それ以外の残骸を元の姿らしき形に床に並べる時間が過ぎていた。
「ああ、そっちですか。まぁ、魔導兵を見ればなんとなく、予想はできていましたが……」
シェリーは、空色の丸い玉を指でつまむように持ちながら、床に並べられたモノを見ている。
そして、何故か意気投合したように、満足気な表情をしているカイルとモルテ王の足元には骨格標本があるが、一部欠けているところがある。長年の放置でもろくなってしまったのだろう。
その骨の横には鎧のような物が並べられている。
全身を覆うフルプレートアーマーのような感じだが、隣に並べられている骨格の人が着るには、小さすぎる大きさだった。
いや、骨が着るにはぴったりな大きさと言い換えよう。
「これをどうする?」
カイルは埋葬するのかという意味で聞いたが、シェリーは答えず、何かを感じ取ったのか、斜め上に視線を固定したまま動かなくなった。
「シェリー?」
どうしたのだろうと、カイルは声をかけるが、シェリーの言葉にこの場の空気が一転したのだった。
「上空を旋回している?」
カイルが、朽ちてバラバラになった骨を見ながら言った。それは誰の目にも明らかだ。骨が生きているように動くのであれば、それはスケルトンという魔物でしかないと。
「だから言ったではないですか。シュロス王は永遠の命を願ったと」
そう言って、シェリーは抱えているカイルの腕から飛び降りる。そして、残骸が散らばっている床から、何かを探しているのか、かき分けていた。
「何かあるのか?」
シェリーの行動に疑問を持ったモルテ王が尋ねる。ぱっと見た感じでは、そこにシュロス王となるモノはなさそうだ。
「強いて言うのであれば、魂の容れ物ですかね。肉体が老化し限界がきたとなれば、魔導兵のように外装をまとった人形に入れるか、元の肉体の再構築を模索すると思うのです」
シュロスは以前言っていた。この力が使えるのは、この肉体だからではないのかと。
ならば、シュロスとしては、肉体が朽ちたあとに再構築する手段を模索したはずだ。
死からの再生。ゲームならではの考え方を。
そのために一旦、魂が肉体から離ることで、死という状態を作り出すために、魂を入れる容れ物を用意したはずだ。
ただ、何かの残骸と骨が散らばっている状態だということは、失敗したか、シュロスの意図をアーク族が正確に理解していなかった可能性がある。
「肉体の再構築?聖女の力のように死者を生き返らすってことかな?」
カイルは肉体の再構築という意味が理解できず、シェリーが死者を生き返らすことと同じかと尋ねた。それに対しシェリーは首を横に振る。
「流石に聖女の力では、骨に血肉や神経や臓器を与えて、人の形にまでするのは無理ですね。それこそ魔女や神の領域です」
「え?それはエリザベートが出来て、シェリーには出来ないってこと?」
「生き返らす条件に縛られていますので」
条件。シェリーが使う聖女の力は、死して4半刻以内という条件に縛られている。いや、箍を外したラフテリアはその条件を覆してきたが、ラフテリアが普通かと問えば、魔人だからということになる。
「あ、多分これです」
シェリーは残骸の中から小さな丸い玉を掴み上げた。見た目はラムネの瓶に入っているビー玉のように、球状の黒い玉だ。
それをとても嫌そうにつまみ上げている。
「自分が悪心にまみれているじゃない」
シェリーは独り言のように呟く。
黒い玉。それは長年この状態から解放されなかったシュロスの怨嗟の塊なのだろう。黒いモヤをまとっている。
「シェリー。それをどうするのかな?」
シュロス王というには、小さな塊の存在にカイルもモルテ王も困惑気味だ。いや、結局のところ二人はシェリーの言葉を真に理解出来ていなかっただけだ。
神が与えた永遠の命という状態をだ。
「取り敢えず、浄化します。このまま復活して、魔王だったとしても頷ける状態ですから……浄化で魂そのものが消滅しても、面倒くさくなくいいですし」
魔王がどのような存在かは見たことはないものの、何千年という時を孤独に生きた者の恨みは如何ほどのものか、想像しがたいことだ。
シェリーは黒い小さな玉を覆うように白い光で満たす。壊れてしまってもいいというシェリーの心がにじみ出ているのか、この空間を白一色に染め上げるほど、強い光を放っている。
いや、もし復活しても、ゲーム脳のシュロスとの会話の成り立たなさを思い返すと、壊れてしまえば良いという感情が強く出てしまっているのだろう。
浄化と言うには些か、殺意が混じっているようだった。
どれほど時間が過ぎただろうか。太陽の日が遮られた国であり、洞窟の中のため、正確な時間はわからない。
シェリーが浄化している間、時間を持て余したカイルとシュロス王が、散らばった残骸から骨を骨格標本のように床に並べ、それ以外の残骸を元の姿らしき形に床に並べる時間が過ぎていた。
「ああ、そっちですか。まぁ、魔導兵を見ればなんとなく、予想はできていましたが……」
シェリーは、空色の丸い玉を指でつまむように持ちながら、床に並べられたモノを見ている。
そして、何故か意気投合したように、満足気な表情をしているカイルとモルテ王の足元には骨格標本があるが、一部欠けているところがある。長年の放置でもろくなってしまったのだろう。
その骨の横には鎧のような物が並べられている。
全身を覆うフルプレートアーマーのような感じだが、隣に並べられている骨格の人が着るには、小さすぎる大きさだった。
いや、骨が着るにはぴったりな大きさと言い換えよう。
「これをどうする?」
カイルは埋葬するのかという意味で聞いたが、シェリーは答えず、何かを感じ取ったのか、斜め上に視線を固定したまま動かなくなった。
「シェリー?」
どうしたのだろうと、カイルは声をかけるが、シェリーの言葉にこの場の空気が一転したのだった。
「上空を旋回している?」
29
お気に入りに追加
1,016
あなたにおすすめの小説
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる