番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
706 / 795
27章 魔人と神人

693

しおりを挟む
「その永遠を願った王に死の祝福は与えられないのかと思ってな」

 永遠を願ったシュロスに死の祝福を。

 確かに死の神モルテ神の祝福からは誰も逃れることはできない。しかし、創造主である白き神からの祝福を否定できるのかという問題がある。

 それにシュロスに死を与えることによって変化するものがある。一番大きな変化は空島の存在だ。
 シュロスの死を願うと、現在残存している空島の全てが落下する。その下に人が住まう街があれば、甚大な被害が出ることは予想ができた。
 そしてアーク族の問題だ。アーク族が完全体の悪魔化した者が、どれほどいるかわからないが、地上に落とされたことにより、一斉攻撃されると、対処が不可能になってしまうだろう。

「モルテ様よりも白き神の方が力はあるので、その願いが叶うかは微妙なところですね」

 シェリーはアーク族の問題を挙げずに、神自身の位の差をモルテ王に言った。
 アーク族の問題を挙げても、モルテ王はアーク族とは何かしらの因縁があるようなので、好戦的な意見しか出てこないであろうことを配慮してのことだった。

「神の力の差か。やはり、我々も信仰的象徴を作れば良いのか?」

 信仰的象徴。それは先程シェリーが言っていたモルテ神の姿のことだろうか。裸の王様の如く、骨格標本に王冠をかぶせ、王笏を持たせた像。
 それはなんとも言い難く、信仰人物の人骨を祀り上げたかのようになるだろう。

「良いのではないのでしょうか?」

 シェリーの返答も適当だった。

「神の姿を正確に象った像があるのは、ナディア様ぐらいでしょうから」

 神を象った像。恐れ多いことかもしれないが、人々から信仰の対象となるには、姿かたちがあった方が、祈りやすいものだ。
 そして、女神ナディアには神殿という女神ナディアを祀り上げる場所があり、そこに降臨することがあるため、女神ナディアの像は比較的に作りやすかったというのもある。

 ただ、ここでは口には出さなかったが、大陸の殆どの人々が信仰している白き神を象った像は存在しない。何故なら白き神の姿を正確に見たことがある存在はそこまで多くはないからだ。

 この世界の住人で最初に白き神の姿を見たのはシュロス王だろう。だが、彼は己のあり方に憤り、神という存在は曖昧にしか記憶していなかった。
 だから、サポーターとして己の道を指し示していた聖女が『白き神』と口に出したので、抽象的な白い人物の絵は存在している。

 次に白い神の姿を見たのは、ラフテリアとロビンだ。聖女として、聖女を守る剣聖として、彼らに使命を与えたときに、姿を顕した。だが、彼らはそのことを口にすることなく、別の大陸に隔離されたため、正確な白き神の姿を広めることはなかった。

 そして、歴代の聖女たちは言わずもがな。つがいという者に監禁される生活を強要されたため、白き神の姿が広まることはなかった。
 いや、彼女たちはきっと神を裏切り続ける自分自身が、神の姿を語ることなどおこがましいと、口にできなかったのだろう。

 だから白き神を象った物は何一つ存在していないのだ。

「青い壁」

 シェリーは見覚えのある凹凸がない滑らかなガラス質の壁に確信する。ここにシュロスの永遠の魂を入れる何かがあるのだろうと。

 恐らく建物の壁なのだろうが、落下時にどのような状態で落ちたのかは不明なため、入口がどこにあるのかわからない。

「ここ壊せますか?」

 この建物はシュロスの力で作られているため、壊せない可能性もある。そうなれば、この建物を掘り出さないといけないという面倒な工程が発生するのだ。

「私がやろう」

 カイルはシェリーを抱えているためか、モルテ王がその役目を申し出てきた。そして、カイルは一歩下がり、モルテ王が青みがかった滑らかな壁の前に立つ。

「これが黒の聖女が言っていた、青い建物か。そんな物があった記憶はないが、ここがそうなのだろうな」

 そう言ってモルテ王は青い壁に手を当てて、何かをブツブツと言い出した。すると壁に当てた手を中心に魔力で描かれた陣が展開される。
 それも一つではなく、平面上に複数並べられ、円を描くように大きく回転を始めた。まるでその全ての陣を合わせて一つの術式のように巨大な陣が回転している。

「初めて見る形態」
「お祖父様が使う術式にこのような陣形術式があったね」

 シェリーは見たことがないと言い。カイルは長命な竜人族だからか、祖父が使っている術式と似ていると言っている。
 四千年という時が、陣形術式を衰退させていったのだろう。

 いや、この間に陣形術式から詠唱術式に変更を促した人物がいるはずだ。
 シェリーはふと、白き神を恨みに恨んで、世界に一矢報いようとしたエルフ族の姿が浮かんだが、今はそのことを考えるべきではないと、頭を横に振って意識を目の前の成り行きに注視するのだった。



__________

 白き神の姿を写したもののくだりは、「俺にとってこの異世界は理不尽すぎるのでは?」で教会の建物の中の説明でされています。

そして、投稿が遅れてすみません。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな
恋愛
 四大公爵家の一つレナード公爵家の令嬢エミリア・レナードは日本人だった前世の記憶持ち。 記憶が戻ったのは五歳の時で、 翌日には王太子の誕生日祝いのお茶会開催が控えており その場は王太子の婚約者や側近を見定める事が目的な集まりである事(暗黙の了解であり周知の事実)、 自分が公爵家の令嬢である事、 王子やその周りの未来の重要人物らしき人達が皆イケメン揃いである事、 何故か縦ロールの髪型を好んでいる自分の姿、 そして転生モノではよくあるなんちゃってヨーロッパ風な世界である事などを考えると…… どうやら自分は悪役令嬢として転生してしまった様な気がする。  これはマズイ!と慌てて今まで読んで来た転生モノよろしく 悪役令嬢にならない様にまずは王太子との婚約を逃れる為に対策を取って 翌日のお茶会へと挑むけれど、よりにもよってとある失態をやらかした上に 避けなければいけなかった王太子の婚約者にも決定してしまった。  そうなれば今度は婚約破棄を目指す為に悪戦苦闘を繰り広げるエミリアだが 腹黒王太子がそれを許す訳がなかった。 そしてそんな勘違い妹を心配性のお兄ちゃんも見守っていて……。  悪役令嬢になりたくないと奮闘するエミリアと 最初から逃す気のない腹黒王太子の恋のラブコメです☆ 世界設定は少し緩めなので気にしない人推奨。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~

沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。 ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。 魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。 そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。 果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。 転生要素は薄いかもしれません。 最後まで執筆済み。完結は保障します。 前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。 長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。 カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...