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27章 魔人と神人
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しおりを挟むシェリーは淡く光に満たされたトンネル内を進んでいる。いや、カイルに抱えられて進んでいた。
「いい加減に下ろしてもらえませんか?」
「神というヤツに攫われるかもしれないよね」
「はぁ、そんなことはありません」
白き神に干渉されたことが、カイルにとってかなりトラウマになってしまっているようだ。神という存在に対してかなり敏感になってしまっている。
そんなカイルにシェリーは呆れるようなため息が出てしまっていた。
「神という存在は、このように簡単に応えてもらえるものなのか?白き神が我々に応えてくれることはなかったのに?」
先ほどと同じ質問がモルテ王から出てきているが、それはカウサ神教国の民たちがどれほど白き神に助けを求めても、助けてくれなかったことを言っているようだ。
後ろから着いてくるモルテ王にシェリーは、またしてもため息を吐き出す。あの白き神に何を求めているのだという呆れたため息だ。
「シェリーはその白き神に気に入られているからだ」
「ああ、聖女ということが重要なのか」
モルテ王は聖女という部分で納得した。白き神は聖女という存在を重要視していることは事実だが、それは世界の浄化を行う歯車という位置づけでしかない。
「では、モルテ様も普通に応えていただけるということか?」
「モルテ様ですか。そうですね。直ぐに調子に乗るので、頸椎を一本抜くぐらいの感覚で対応した方がいいですよ」
シェリー自身、死の神モルテ神に何かを頼むことはないが、程々に会っているため『そうだ』と答えた。それも、モルテ神との対応の仕方まで言っている。
「け……頸椎?どのような御姿をしていらっしゃるかは知らないのだが?」
死の神モルテ神と闇の神オスクリダー神から創られたモルテ王ですら、モルテ神の姿を見たことがないようだ。それは仕方がない。顕れれば地上に死を振りまいてしまう存在なのだから。
いや、一度だけ地上に顕れたことがあった。それは大魔女にモルテ王の名付けを促すため。そのたった一度だけ、モルテ神は地上に姿を顕したのだった。
「人の骨格標本に不釣り合いな豪華な王冠と王笏をもたせれば、信仰対象ができあがります」
シェリーは誰でも想像し易い言葉で説明した。が、何処となくトゲがある言い方にも思える。それではみすぼらしい裸の王様だ。
その身を覆う重そうなマントも付け加えるべきだ。
しかし、一度だけモルテ神の姿を垣間見たことがあるカイルは頷いて納得している。とは言っても、ユールクスのダンジョンに顕れたモルテ神の姿に身を伏すしかなかった。だからその姿を認識できたのも一瞬のみ。
言われてみれば、そのような感じだったなというニュアンスだ。
「モルテ様にお会いしたいのですか?」
シェリーは信仰する神であり、己を作り変えた存在に会いたいのかと確認する。
「いや、そうではなく。永遠の命というものは死は与えられないのかと思ってな」
モルテ王はおかしなことを疑問に思っているようだ。永遠の命に死なんて存在しないだろう。
死という概念はないと考えられる。
「永遠の命の死ですか?もしかしてモルテ国の人々と同じ様に死が在る者にならないのかということですか?」
「そうだ」
モルテ国の民である吸血鬼族の者たちは、今まで死の無い生を生き続けていた。だが、シェリーの言葉がきっかけで、モルテ神の考えを変えさせ、死のある存在に現在はなっている。
そう言われ、シェリーは考える。
そもそも『永遠の命』というのは、どういう概念に基づいて位置づけられているのか、わからない点だ。
強いていうのであれば、魂だけの存在といえば、シェリーが時々呼び出す英雄たちの存在だ。
昨日会った大魔女エリザベートがおかしなことを言っていたとシェリーは思い出す。
『死んだ私に意識というものがあるのか、わからないことね。意思があるのかと言えば、ここで貴女と話をしている時点で、証明しているけれど』
意志があると。世界の記憶から構築された存在に意志がある。
そして、ロビンは死人というには中途半端な状態であったが、シェリーのスキルで発動した術で姿を現した。それもシェリーと会ったことをラフテリアの側にいるロビンが覚えている。
ということは、シェリーが術に定めた『世界の記憶』という物が何かという話になってくる。
もしそれが記憶を保持した魂と定義付けられていたとすれば、この世界の死は肉体の死であり、魂の死は存在せず、輪廻転生の概念もないとなってしまう。
しかし、シェリーや他の変革者たちを転生させたということは、転生の概念は存在する。
何か矛盾が生じているのではないのか。
シェリーはそこで考えるのを止めた。でないと、この後に取る行動は一つしか無くなってしまうからだ。
「それで、モルテ王は何を願いたいのですか?」
永遠の命を持っているモルテ王は、己の死をモルテ神に願うのか?そのような雰囲気がシェリーの声ににじみ出ていたのだった。
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