番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
705 / 797
27章 魔人と神人

692

しおりを挟む

 シェリーは淡く光に満たされたトンネル内を進んでいる。いや、カイルに抱えられて進んでいた。

「いい加減に下ろしてもらえませんか?」
「神というヤツに攫われるかもしれないよね」
「はぁ、そんなことはありません」

 白き神に干渉されたことが、カイルにとってかなりトラウマになってしまっているようだ。神という存在に対してかなり敏感になってしまっている。
 そんなカイルにシェリーは呆れるようなため息が出てしまっていた。

「神という存在は、このように簡単に応えてもらえるものなのか?白き神が我々に応えてくれることはなかったのに?」

 先ほどと同じ質問がモルテ王から出てきているが、それはカウサ神教国の民たちがどれほど白き神に助けを求めても、助けてくれなかったことを言っているようだ。

 後ろから着いてくるモルテ王にシェリーは、またしてもため息を吐き出す。あの白き神に何を求めているのだという呆れたため息だ。

「シェリーはその白き神に気に入られているからだ」
「ああ、聖女ということが重要なのか」

 モルテ王は聖女という部分で納得した。白き神は聖女という存在を重要視していることは事実だが、それは世界の浄化を行う歯車という位置づけでしかない。

「では、モルテ様も普通に応えていただけるということか?」
「モルテ様ですか。そうですね。直ぐに調子に乗るので、頸椎を一本抜くぐらいの感覚で対応した方がいいですよ」

 シェリー自身、死の神モルテ神に何かを頼むことはないが、程々に会っているため『そうだ』と答えた。それも、モルテ神との対応の仕方まで言っている。

「け……頸椎?どのような御姿をしていらっしゃるかは知らないのだが?」

 死の神モルテ神と闇の神オスクリダー神から創られたモルテ王ですら、モルテ神の姿を見たことがないようだ。それは仕方がない。顕れれば地上に死を振りまいてしまう存在なのだから。

 いや、一度だけ地上に顕れたことがあった。それは大魔女にモルテ王の名付けを促すため。そのたった一度だけ、モルテ神は地上に姿を顕したのだった。

「人の骨格標本に不釣り合いな豪華な王冠と王笏をもたせれば、信仰対象ができあがります」

 シェリーは誰でも想像し易い言葉で説明した。が、何処となくトゲがある言い方にも思える。それではみすぼらしい裸の王様だ。
 その身を覆う重そうなマントも付け加えるべきだ。

 しかし、一度だけモルテ神の姿を垣間見たことがあるカイルは頷いて納得している。とは言っても、ユールクスのダンジョンに顕れたモルテ神の姿に身を伏すしかなかった。だからその姿を認識できたのも一瞬のみ。
 言われてみれば、そのような感じだったなというニュアンスだ。

「モルテ様にお会いしたいのですか?」

 シェリーは信仰する神であり、己を作り変えた存在に会いたいのかと確認する。

「いや、そうではなく。永遠の命というものは死は与えられないのかと思ってな」

 モルテ王はおかしなことを疑問に思っているようだ。永遠の命に死なんて存在しないだろう。
 死という概念はないと考えられる。

「永遠の命の死ですか?もしかしてモルテ国の人々と同じ様に死が在る者にならないのかということですか?」
「そうだ」

 モルテ国の民である吸血鬼族の者たちは、今まで死の無い生を生き続けていた。だが、シェリーの言葉がきっかけで、モルテ神の考えを変えさせ、死のある存在に現在はなっている。

 そう言われ、シェリーは考える。
 そもそも『永遠の命』というのは、どういう概念に基づいて位置づけられているのか、わからない点だ。

 強いていうのであれば、魂だけの存在といえば、シェリーが時々呼び出す英雄たちの存在だ。

 昨日会った大魔女エリザベートがおかしなことを言っていたとシェリーは思い出す。

『死んだ私に意識というものがあるのか、わからないことね。意思があるのかと言えば、ここで貴女と話をしている時点で、証明しているけれど』

 意志があると。世界の記憶から構築された存在に意志がある。
 そして、ロビンは死人というには中途半端な状態であったが、シェリーのスキルで発動した術で姿を現した。それもシェリーと会ったことをラフテリアの側にいるロビンが覚えている。

 ということは、シェリーが術に定めた『世界の記憶』という物が何かという話になってくる。

 もしそれが記憶を保持した魂と定義付けられていたとすれば、この世界の死は肉体の死であり、魂の死は存在せず、輪廻転生の概念もないとなってしまう。
 しかし、シェリーや他の変革者たちを転生させたということは、転生の概念は存在する。

 何か矛盾が生じているのではないのか。

 シェリーはそこで考えるのを止めた。でないと、この後に取る行動は一つしか無くなってしまうからだ。

「それで、モルテ王は何を願いたいのですか?」

 永遠の命を持っているモルテ王は、己の死をモルテ神に願うのか?そのような雰囲気がシェリーの声ににじみ出ていたのだった。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

婚約破棄はこちらからお願いしたいのですが、創造スキルの何がいけないのでしょう?

ゆずこしょう
恋愛
「本日でメレナーデ・バイヤーとは婚約破棄し、オレリー・カシスとの婚約をこの場で発表する。」 カルーア国の建国祭最終日の夜会で大事な話があると集められた貴族たちを前にミル・カルーア王太子はメレアーデにむかって婚約破棄を言い渡した。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。 でも、なんだか周りの人間がおかしい。 どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。 これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

婚約破棄後のお話

Nau
恋愛
これは婚約破棄された令嬢のその後の物語 皆さん、令嬢として18年生きてきた私が平民となり大変な思いをしているとお思いでしょうね? 残念。私、愛されてますから…

処理中です...