上 下
704 / 716
27章 魔人と神人

691

しおりを挟む
 転移で着いたところは、薄暗い場所だった。空が雪雲に覆われているのかとシェリーは上に視線を向けるが、そこは雪雲というよりも、黒い雲に覆われていた。

 その空を見てシェリーは転移が成功したことに大きくため息を吐き出す。そう、マップ機能で転移してきたのだ。
 三度目の正直という感じなのだろう。

 モルテ王を連れて空中落下という事態をさけられたのだ。

「もう少し下でもいいってこと」
「シェリー。でも結果的によかったよね」

 転移をしてきたところは、小高く丘になっている場所だったのだ。カイルが結果的によかったと言ったのは、本当に地面を目指して高度の設定をして転移をすると、土の中に転移されることになっていたということだ。

「何の話をしている?」

 勿論、モルテ王からすれば、話の内容は意味がわからないものだ。まさか位置はわかっても、高度が適当だったとは思いもよらないだろう。

「この世界の高さの基準が空島だという話です」

 シェリーは答えて、崖になっているところから降りる。しかしその答えでもモルテ王は首を傾げていた。

「全く意味がわからない」
「一度、転移で空島の高度から落ちたということだ」

 そんなモルテ王にカイルが一言いって、シェリーの後に続くように、地面に降り立つ。

「空島から……」

 そんなモルテのつぶやきを聞きながら、シェリーは丘の周りを歩きだした。ここがモルテ王が千年前に空島を落とすために、投げた残骸が丘になったところで間違いはない。

 問題はどこから掘り出すかだ。

 丘と言っても標高100メルメートルはある。普通に山と言っていい高さだ。
 ということは周囲は1キロメルkmほどある。無策に山を掘り進めると無駄に山を削ることになる。

 しかし、どうやって山を削るつもりなのだろうか。

 シェリーは戦闘に関しては色々スキルを作って特化しているが、穴を掘るということには対応しているとは思えない。

「この辺りが一番近いですかね」

 シェリーは丘の一点をさして言った。そしてシェリーは鞄から一輪の青い花を取り出す。青い薔薇のように見えなくもないが、花弁が水のように揺らめいていた。

 その緑の茎をぶすっと地面に刺した。

「土の神。グラニート様。ここをズバッと切り分けてください」

 神頼みだった。
 それもかなり高圧的に、シェリーは言っている。

「お礼はこの水を生み出す花です。これ以上の礼はしません」
『いやぁ~。これだけのものを移動させるのに、これぽっちで……』
「ありません。さっさとここを切り裂いてください」

 誰もいない空間にシェリーは、クソ虫でも見る視線を向けながら言っている。シェリーは土の神に何かされたのだろうか。かなり、ぞんざいな言い方だ。

 そして神の声が聞こえた時点で、カイルがシェリーを抱え込んでいる。いつもどおりの行動だ。

「また神か」

 そしてシェリーたちの後ろにいたモルテ王は呆れている。

『よいか?神の力を簡単に使うものではないのぅ』

 土の神は存外まとものようだ。

「ぐちぐち言っていないで、さっさとやってください」
『いや~せめて酒を~』
「酒を与えるとそのまま消え去るので、駄目です。水でやってください」

 水を生み出す花を対価として差し出したのは、酒の代わりだったようだ。それも土の神グラニートは対価だけ持って、去っていくタイプだったようだ。それはシェリーもぞんざいな扱いになるだろう。

『酒~。ほら、フォルテが異界の酒が美味かったと……』
「異界の酒は炎王と取引してください。そうですか……成功報酬で、これもつけようと思いましたが、他の方に頼みます」

 シェリーは鞄から白い実を取り出す。大きさは小指の先ほどの丸い木の実だ。
 すると突然、目の前の土の壁が避けた。いや、大きなトンネルが出来た。二人ほどが並んで歩けるほどの大きさはある。
 それも流石、神の仕事なのだけあって、綺麗に土が整えられている。

「酒の実かぁ。確かにエーゼルの花とセットだね」

 カイルにはシェリーが取り出した白い実が何かわかったようだ。
 酒の実と水を生み出す花。これは己で酒を作れと言っているようなもの。
 土の神に対しての扱いがかなり酷い。

 シェリーは水を生み出す花の側の地面に白い実を埋め込んだ。ゴリッと。

 すると花と木の実は土の中に消えていく。土の神が対価を受け取ったのだろう。

「神という存在はこうも簡単に、願いを叶えてくれるものなのか?」
「それはシェリーが聖女だからだね」

 その聖女のシェリーはというと、カイルの腕を叩いている。

「カイルさん。私を下ろしてください」

 シェリーは土の神が、丘を切り裂いた先に行きたいようだ。
 しかし、カイルはシェリーを下ろさないままトンネルの中に進み出す。明り取りの光の魔法をつけて、トンネル内を照らす。

 ただ、トンネルの中も淡い光で満たされていた。流石、神が作り出したトンネルというものだった。



________
遅くなりましてすみません。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悠久の機甲歩兵

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:278pt お気に入り:32

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:965

転生腐女子令嬢は二人の♂♂の受けとなった。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:3,231

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:511pt お気に入り:2,061

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:115

【完結】訳あり追放令嬢と暇騎士の不本意な結婚

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:156

処理中です...