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27章 魔人と神人
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人外の、それも神から視線を向けられたモルテ王は、思わず一歩下がる。
『そなたもわたくしの加護を求めるのであれば、与えましょう』
「加護とはどのようなものだ?」
実際、モルテ王は死の神と闇の神から力を与えられ、生かされた存在だ。実際、神の加護と言われても己と民たちの姿が変わり、不死という存在になったことのみ。そして、つい最近では民たちの暴走を抑える薬を死の神モルテから与えられたのみだ。
あまり実感がないというもの。
『わたくしは星の女神ステルラ。漆黒の闇の中でも空に目を向ければ、星は小さき光を放ち、迷い人に道を指し示しましょう』
星の女神ステルラは己の存在意義を言う。
振り返ってモルテ王を見ていた女神ステルラは立ち上がって、宇宙の海を入れ込んだような目で、覗き込むように見上げる。
そして朗らかに笑みを浮かべた。
『オスクリダー様の加護が強すぎて、わたくしの加護など些細なもの。しかし、闇が濃いほど星の瞬きはよく見えるもの。……そうですね……黒を排除した国の愚かな王子よ。そなたが世界から黒に対する認識を変えるべきだと、わたくしは思います。ですから、『黎旦の導きの業』を与えましょう』
それだけを言って女神ステルラは姿を消した。そして加護を与えられたモルテ王は呆然としている。
いや何の加護が与えられたのかと、困惑しているのだろう。そもそも加護と言いつつ『業』とついている。
その前にだ。絶対に女神ステルラは、黒を排除したカウサ神教国のことを恨んでいたに違いない。
「夜明けへの導きですか。ステルラ様もモルテ王に酷なことをおっしゃいますね」
シェリーが女神ステルラがモルテ王に与えた業というものを口にした。夜明けへの導きとは何をもって夜明けと言っているのだろう。
「どういう意味だ?」
もちろん加護という名の業を受けたモルテ王にも意味がわかってはいない。
「ステルラ様は黒が否定されていることに、ご不満だったようで、多分それを払拭するようにという意味だと思います。普通は夜明けとは使わないでしょうが、ステルラ様としての夜明けなのでしょうね」
自分たちが撒いた種は、自分たちで始末をつけろということだ。
シェリーの言葉にモルテ王は大きくため息を吐き出す。自分たちの過ちは理解していると。白き神を崇めていても、結局自分たちを助けてなどくれなかったと。
「わかった。それが我々の業であるなら、受け入れよう。大公ミゲルロディア。それではそのお披露目パーティーとやらで再会しよう」
「は?」
モルテ王はソファーの席に戻ったミゲルロディアに、決定したように再会を口にする。
シェリーは本当にモルテ王が、あのモルテ王が国外に出て、他国の式典に出席するのかと、思わず地の声が出てしまった。
「黒の聖女よ。神を神として至らしめた王のところに参ろうか」
モルテ王は眼球が黒く濁り、異様に赤い瞳をシェリーに向けて言う。その姿を見てシェリーは、女神ステルラの無理難題に、ため息がこぼれ出そうになった。
どう見ても人外だ。そんな存在が人々に受け入れられるのであれば、もっと早くに受け入れられていただろう。なぜなら、モルテ国は四千年という長きに渡って、存在していたのだから。
いや、四千年という時間が必要だったのかもしれない。カウサ神教国が滅亡し、エルフ神聖王国が世界を支配し、すでにカウサ神教国が存在している頃を知っているのは、モルテ国の者たちと、魔人ラフテリアと剣聖ロビンのみである。
人々から忘れ去られた存在となった。
だが、神々からすれば、些細な時間なのかもしれなかった。
モルテ王から、シュロスを掘り起こすことを言われ、シェリーはため息を飲み込みながら、カイルの膝の上から降りる。
「ミゲルロディア大公閣下。私へのご依頼は完了したということでよろしいでしょうか?」
「シェリーミディア。君への依頼は、魔の大陸から魔人を連れてきてもらうこと。あちらで知り合いになった三人に来てもらったことで、防衛も強化できる。助かった。依頼報酬は冒険者ギルドを通じて送っておくので、受け取ってくれたまえ」
「わかりました」
シェリーはコクリと首を縦に降って頷いて、ミゲルロディアの言葉に了承した。
そして、カイルと共にモルテ王の近くに行き、魔石を床に落とす。
「なんだ?これは?」
シェリーの行動に、理解できなかったモルテ王が尋ねる。普通に転移をするのであれば、魔力で転移の陣を描く必要があるからだ。
「魔石に転移の陣を写して、転移をする方法です」
「……意味がわからないが?エリザベートの魔術も変わっていたが、これほどおかしな転移をしたことはなかったな」
その言葉にシェリーはイラッとした。そして、無言のまま転移の陣を展開させる。いつもであれば、シェリー一人分の大きさにしか展開しない陣は、いつもの倍以上に展開されている。
「ふむ。不完全な陣だな」
「ちっ!」
オリバーに作ってもらったシェリー専用の転移の陣を簡単に読み取ってしまうモルテ王。不完全さもまた読み取ってしまった。
その不完全さはシェリーの不出来なことを示すことだった。
しかし、今ではあまり使われていない陣形術式を瞬時に読み取るとは、モルテ王が人であった頃の魔術形態がどういうものかを示しているのだった。
「転移!」
少し苛ついたシェリーの声が室内に響き渡る。その転移で去っていく三人をただ一人見送っていたミゲルロディアは笑みを浮かべていた。
「モルテ王まで動かすとは、我が姪ながら恐ろしいものだ。さて、私は私のすべきことをしようか」
黒髪の青年はタールを流し込んだような目を細めて、これから起こる未来を想像する。
己の役目はラースの国を護ることだと。
『そなたもわたくしの加護を求めるのであれば、与えましょう』
「加護とはどのようなものだ?」
実際、モルテ王は死の神と闇の神から力を与えられ、生かされた存在だ。実際、神の加護と言われても己と民たちの姿が変わり、不死という存在になったことのみ。そして、つい最近では民たちの暴走を抑える薬を死の神モルテから与えられたのみだ。
あまり実感がないというもの。
『わたくしは星の女神ステルラ。漆黒の闇の中でも空に目を向ければ、星は小さき光を放ち、迷い人に道を指し示しましょう』
星の女神ステルラは己の存在意義を言う。
振り返ってモルテ王を見ていた女神ステルラは立ち上がって、宇宙の海を入れ込んだような目で、覗き込むように見上げる。
そして朗らかに笑みを浮かべた。
『オスクリダー様の加護が強すぎて、わたくしの加護など些細なもの。しかし、闇が濃いほど星の瞬きはよく見えるもの。……そうですね……黒を排除した国の愚かな王子よ。そなたが世界から黒に対する認識を変えるべきだと、わたくしは思います。ですから、『黎旦の導きの業』を与えましょう』
それだけを言って女神ステルラは姿を消した。そして加護を与えられたモルテ王は呆然としている。
いや何の加護が与えられたのかと、困惑しているのだろう。そもそも加護と言いつつ『業』とついている。
その前にだ。絶対に女神ステルラは、黒を排除したカウサ神教国のことを恨んでいたに違いない。
「夜明けへの導きですか。ステルラ様もモルテ王に酷なことをおっしゃいますね」
シェリーが女神ステルラがモルテ王に与えた業というものを口にした。夜明けへの導きとは何をもって夜明けと言っているのだろう。
「どういう意味だ?」
もちろん加護という名の業を受けたモルテ王にも意味がわかってはいない。
「ステルラ様は黒が否定されていることに、ご不満だったようで、多分それを払拭するようにという意味だと思います。普通は夜明けとは使わないでしょうが、ステルラ様としての夜明けなのでしょうね」
自分たちが撒いた種は、自分たちで始末をつけろということだ。
シェリーの言葉にモルテ王は大きくため息を吐き出す。自分たちの過ちは理解していると。白き神を崇めていても、結局自分たちを助けてなどくれなかったと。
「わかった。それが我々の業であるなら、受け入れよう。大公ミゲルロディア。それではそのお披露目パーティーとやらで再会しよう」
「は?」
モルテ王はソファーの席に戻ったミゲルロディアに、決定したように再会を口にする。
シェリーは本当にモルテ王が、あのモルテ王が国外に出て、他国の式典に出席するのかと、思わず地の声が出てしまった。
「黒の聖女よ。神を神として至らしめた王のところに参ろうか」
モルテ王は眼球が黒く濁り、異様に赤い瞳をシェリーに向けて言う。その姿を見てシェリーは、女神ステルラの無理難題に、ため息がこぼれ出そうになった。
どう見ても人外だ。そんな存在が人々に受け入れられるのであれば、もっと早くに受け入れられていただろう。なぜなら、モルテ国は四千年という長きに渡って、存在していたのだから。
いや、四千年という時間が必要だったのかもしれない。カウサ神教国が滅亡し、エルフ神聖王国が世界を支配し、すでにカウサ神教国が存在している頃を知っているのは、モルテ国の者たちと、魔人ラフテリアと剣聖ロビンのみである。
人々から忘れ去られた存在となった。
だが、神々からすれば、些細な時間なのかもしれなかった。
モルテ王から、シュロスを掘り起こすことを言われ、シェリーはため息を飲み込みながら、カイルの膝の上から降りる。
「ミゲルロディア大公閣下。私へのご依頼は完了したということでよろしいでしょうか?」
「シェリーミディア。君への依頼は、魔の大陸から魔人を連れてきてもらうこと。あちらで知り合いになった三人に来てもらったことで、防衛も強化できる。助かった。依頼報酬は冒険者ギルドを通じて送っておくので、受け取ってくれたまえ」
「わかりました」
シェリーはコクリと首を縦に降って頷いて、ミゲルロディアの言葉に了承した。
そして、カイルと共にモルテ王の近くに行き、魔石を床に落とす。
「なんだ?これは?」
シェリーの行動に、理解できなかったモルテ王が尋ねる。普通に転移をするのであれば、魔力で転移の陣を描く必要があるからだ。
「魔石に転移の陣を写して、転移をする方法です」
「……意味がわからないが?エリザベートの魔術も変わっていたが、これほどおかしな転移をしたことはなかったな」
その言葉にシェリーはイラッとした。そして、無言のまま転移の陣を展開させる。いつもであれば、シェリー一人分の大きさにしか展開しない陣は、いつもの倍以上に展開されている。
「ふむ。不完全な陣だな」
「ちっ!」
オリバーに作ってもらったシェリー専用の転移の陣を簡単に読み取ってしまうモルテ王。不完全さもまた読み取ってしまった。
その不完全さはシェリーの不出来なことを示すことだった。
しかし、今ではあまり使われていない陣形術式を瞬時に読み取るとは、モルテ王が人であった頃の魔術形態がどういうものかを示しているのだった。
「転移!」
少し苛ついたシェリーの声が室内に響き渡る。その転移で去っていく三人をただ一人見送っていたミゲルロディアは笑みを浮かべていた。
「モルテ王まで動かすとは、我が姪ながら恐ろしいものだ。さて、私は私のすべきことをしようか」
黒髪の青年はタールを流し込んだような目を細めて、これから起こる未来を想像する。
己の役目はラースの国を護ることだと。
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