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27章 魔人と神人

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「それに何もかも貴様が悪い!」

 シェリーは自分の声で意識が覚めた。いや、ずっと空島に居たので意識が覚めたというのもおかしなものだ。

 しかし、目を開けると、心配そうな顔をしているカイルと目が合う。この状況にシェリーは戸惑い、自分がどこにいるのかわからなくなった。そして視線を動かし、ここがどこか確認する。
 確か、空島に行く前の最後の記憶は、ラフテリア大陸の魔女の家に居たはずだと。

「ヴァンジェオ城?」

 見覚えのある一室の窓から見える空は真っ白だった。

「シェリー? 大丈夫? なにかされたのか?」

 横になっているシェリーの頬に触れて、同じベッドの中にいるカイルが、心配を通り越して、不安の心情が声に乗っていた。
 それは不安になるかも知れない。シェリーが普段使わない言葉遣いをして目を覚ましたのだ。

「あの神が何かしたのだろう? あの神がシェリーに何かしても、俺が無力なのが悔しい」

 カイルはそう言って、シェリーを抱きしめる。
 それもシェリーをギリギリと締めている。カイルの間違えている力加減に、状況が把握できていなかったシェリーは現実を確認できた。
 このままだと、絞め殺されると。

「カイルさん。苦しいです」

 身動きしようにもできないので、カイルを上目遣いで睨みながらシェリーは訴えた。
 するとカイルは更にシェリーを抱きしめ、言葉を漏らす。

「俺も悔しい」

 カイルから何か違う言葉が出てきた。
 今回の白き神の干渉は流石に長過ぎたのだろう。ラース公国に到着したのは夜中であり、窓の外が白いということは、太陽が昇って雪を白く反射させ、空もまだ青みを帯びていない時間帯だということだ。
 そして、カイルの様子から一睡もしていないのだと窺える。シェリーのことが心配しすぎて。

 シェリーは自分の死を感じ取ってしまうほどの圧迫感に、これは魔王に殺される以前にカイルに殺されそうだと悟った。
 だから番を縛り付けようとする者など必要ないと言わんばかりに舌打ちが出る。

「ちっ!」

 そしてシェリーはこの現状を打破することは出来ないのかと、思考を回転させるが、シュロスとの、白き神とのやり取りが、頭の中で思い出され、全く解決策が思い浮かばないのだった。

 だからシェリーはこの状況をカイルにそのまま伝えることにする。

「私……カイルさん……に……殺されそう……です」

 息も絶え絶えのシェリーの訴えに、流石のカイルも我を忘れ過ぎたと、ハッとなりシェリーを抱きしめる力を緩めた。だが決してシェリーを離そうとはしない。

「シェリー。ごめん。でもこのままシェリーがあの神に囚われ続けられたらと思うと、我慢がならなかった」

 カイルの言葉にシェリーは大きくため息を吐く。いや、やっとまともに空気を吸えることに大きく呼吸をしている。
 流石、番を抱き潰したと逸話が残る竜人族だ。これは己で番を殺して、一人で狂う事にもなるだろう。
 シェリーは若干涙目で深呼吸しながら納得していた。竜人の番への執着は異常だと。

「このままシェリーを連れて誰とも関わらない地に行きたい。他の番も神も居ないところに行きたい」
「無理ですよ」

 カイルの番への執着心が漏れ出ている言葉をシェリーはぶった切る。するとシェリーに否定されたにも関わらずカイルは、満面の笑みをシェリーに向けた。

「でも、こうしてシェリーがシェリーとして居てくれるのが一番いい。声をかけても何も返してくれないシェリーが怖かった」

 これはシェリーが目覚めるまで、シェリーに声を掛け続けていたということだろうか。
 しかし、怖いと言っても元々魔力を使い切って、倒れたシェリーに声をかけても無駄だとわかるはずだ。

「目が覚めなかったらどうしようとか。その内、ここにある身体も消え去って、あの神のところに逝ってしまったらどうしようとか、嫌な事ばかり想像してしまって……」

 ウジウジと言い出したカイルに、これは重症だとシェリーは遠い目をする。
 シェリーもシェリーで白き神から干渉を受け、精神を過去に飛ばされたが、カイルはカイルで白き神の力の鱗片を感じ、中身が無くなり身体だけここにあるシェリーに対して、不安しか出てこなかったのだろう。

「カイルさん。私は白き神から魔王を倒す使命を言い渡された聖女ですので、それは無いです」

 シェリーは真面目に、現実をカイルに突きつける。魔王を倒すまでは、聖女としてあり続けると。
 だがそれでカイルが納得するかといえば、しないだろう。カイルの不安は言葉では取り除くことは出来ない。

「シェリーから抱きしめて欲しい」
「は?」
「俺が抱きしめると、想いが募りすぎて力加減ができそうにないから、シェリーから抱きしめて欲しい」

 カイルの言葉にシェリーは遠い目をする。それはラフテリア大陸でカイルの要望をどちらかなら聞くという条件を出したときに、やったはずだと。

「シェリーはちゃんと動いている。俺の言葉が聞こえていると、わかればいい。そしてシェリーが生きているって感じたい」

 重症過ぎるカイルにシェリーは、それでいつも通りのカイルにもどってくれるのであればと、ため息を吐きつつ少し身をずらして、手を伸ばしてカイルを引き寄せた。
 子供を抱く母親のように抱き寄せた。

「言っておきますが、一番白き神からの嫌がらせを受けたのは、私ですからね」

 そんなシェリーは恨み言のようにカイルに囁く。
 だがそんな恨み言もカイルにとっては、番であるシェリーの言葉。番に抱きしめられ、番から言葉をかけられることは、至福のひとときであった。


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