678 / 774
27章 魔人と神人
665
しおりを挟む「そう言えば、ここにはマリーは入ってこないのだな」
ラフテリアとロビンが魔女の家に入ってきたにも関わらず、マリートゥヴァの姿が見えず、モルテ王は扉の方に視線を向けた。
しかし、その扉は既に閉まっており、扉が開く様子がない。いや、今までのことを見ると、エリザベートが出迎えない限り、扉は開くことはないのだろう。
そして、エリザベートはラフテリアとロビンを迎え入れた時点で扉を閉めてしまったので、それ以上の客は居ないということだ。
シェリーはモルテ王の言葉に身を固くする。一度死んで世界の楔と共に番である絆は切れてしまった。だから、そこまでマリートゥヴァに想いは持ち合わせてはいないと思っていた。
ただ、モルテ王とロビンとの関係性が分からず、ロビンに説明をさせようと思っていたのだ。
ここにきて、ロビンがラフテリアを大切に思っていると同様に、モルテ王もマリートゥヴァに対し、『大切な人』と口にしたのだ。
これは番としての重苦しい想いは無いが、今まで築き上げてきた関係性に変わりがなかったということなのだろうか。
カウサ神教国を共に守って行こうとした二人。そして、変わり果てた国民に居場所を与えるために王になったモルテ王。贖罪のためにラフテリアに仕えることを決めたマリートゥヴァ。
二人の道は別れてしまったが、全てが国のため変わり果てた国民のためだとすれば、互いに納得した形だったのだろう。
「マリーの全ては僕がもらったよ」
ロビンが左の胸に手を当てて言った。モルテ王をまっすぐに見て言葉にしたのだ。
言われたモルテ王はロビンが何を言っているのか、わからないという表情をしていた。
だが、ロビンの姿を上から下に見て、再び下から上に食い入るように見て、唸り声を上げる。
その唸り声にはどのような感情が込められているかわからない。いや、様々な感情が溢れ出し、唸り声として表に出てきてしまったのだ。
「この身体を与えられるには、誰かの犠牲が必要だったんだ。誰かを犠牲にしてまで元の姿に戻る意味はあるのか、でも元の姿に戻ればラフテリアの剣になれる。迷ったんだ。とても迷った。でもそれは駄目だと思った」
やはり、ロビンとしては誰かを犠牲にしてまで身体を得ることに戸惑いがあったのだろう。しかし、身体を得れば今までできなかった事ができる。
ロビンには人を犠牲にするという決断はできなかった。それを後押ししたのがマリートゥヴァだ。
「でもマリーが自分の身体を使って欲しいって言ってくれた。これが贖罪の形だって……」
そう言葉にしたロビンは大きく息を吐いた。それはこれから言う言葉の重さを少しでも軽くするかのように。
「マリーの最後の言葉を言うよ
『もう心残りはないのです。エフィアルティス様がお幸せに暮らして行けるとわかったのです。長年の苦しみから解放され、今では番も傍らにおられる。でも本音を言えば、たとえエフィアルティス様のお姿がモルテ王になられているとしても、わたくし以外の者と幸せになることに嫉妬を覚えます。きっとこのままでは、その番をこの手にかけてしまうでしょう』
これは僕に気にする必要はないと言いたかったのかもしれない。だけど、マリーの本心でもあったと思う」
ロビンの言葉を聞いている途中で、モルテ王は片手で顔を覆いうつむいてしまった。
番であったマリートゥヴァの想いはどれほど年月が経とうとも、共に過ごすことはなくとも、変わることはなかったと。
「そうか」
モルテ王の口からこぼれるような言葉が出てきた。マリートゥヴァが失われ、ロビンの身体へと変換された。普通であれば否定するべきところだ。そんなことはあり得ないと、魔人だろうとも、人の身体になれるはずがないと。
だが、モルテ神とオスクリダー神、そして大魔女エリザベートから創らえたモルテ王は、そのような事が起こり得るとわかってしまった。
一度その姿を目にすれば、理解させられる。白き神の手にかかれば、魔人の身体をロビンの身体に創り変えることなど、指先一つでできることだろうと。
「そうか。そうか。マリーは先に逝ってしまったのか……いや、先に死んだのは俺だが……だが納得はした」
納得はしたと言って顔を上げたモルテ王の表情は、納得したというより、決意したと表現した方がいいだろう。何かを決めた顔をしていた。
「約束を守ったということだな。マリー。俺は国と民を守る。マリーは聖女と剣聖に仕え、過ちを繰り返さないようにする。それが聖女と民への贖罪。道は違えども、思いは一つ」
これはマリートゥヴァとモルテ王との間に交わされた言葉なのだろう。マリートゥヴァはラフテリアに贖罪のために仕えていたが、それはラフテリアを見張り、カウサ神教国で起こった悲劇を三度繰り返さないという意味だった。
国を治める立場であった者たちの間で交わされた約束。
「マリー。俺も君が誰かと幸せになっている姿を見れば、良かったと思うだろうが、きっと嫉妬をしただろうな」
最後の言葉は独り言のように、ここにはいないマリートゥヴァに向けられたのだった。
___________
長かった。300話以上かかって、マリートゥヴァの最後の言葉が伝えられました。
白き神の言葉を違えなければ、きっと二人はよい統治者になれたことでしょう。
11
お気に入りに追加
1,016
あなたにおすすめの小説
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!
杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!!
※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。
※タイトル変更しました。3/31
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる