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27章 魔人と神人
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しおりを挟む「また、神や世界か……その言葉を聞くと、エリザベートが帰ってきたと思える。それで、ここに黒の聖女がいるのが関係するのか?」
異様な気配をまとった男はシェリーに視線を向けた。その目には何故ここにいるのだろうという疑問の色が見える。
「そうなのよ。アーク族と一戦やるって言うから、私の集めた資料をあげようと思ったのよ」
「面白そうな話だな。聞かせろ」
ラフテリアとは別の意味で強者と言える男はエリザベートに招かれて、魔女の家の中に入ってきた。
死の王。ルナティーノ・トールモルテ。
「まだ先の話ですよ。まずは情報と力を得なければ、何もなりません」
今すぐにでも戦いに行きそうなほど、殺気をまとったモルテ王にシェリーはため息交じりで言う。
「それでも良い。話を聞かせろ。黒の聖女」
モルテ王はシェリーの斜め横になる一人掛けのソファーに腰を降ろした。エリザベートはそんなモルテ王を見て、懐かしそうな視線を向けながらシェリーの向かい側に腰を降ろしたのだった。
「話と言われましても……長い話になりますよ」
「構わぬ……が、アイラを連れてくればよかったか?」
アイラ。それはシェリーが手土産としてモルテ王に贈った番の名だ。
「絶っっ対に連れて来ないでください」
シェリーが眉間にシワを寄せながら言った。それほど会いたくないというこどだ。
「いや、目の前でいちゃつかれると腹が立つ」
これはカイルがシェリーを膝の上に抱きかかえていることを言っている。
「いちゃついてはいません。まぁアイラさんの教育が上手くいったようで、よかったです」
シェリーはアイラを外に連れ出せる程に成ったことに、シワが寄っていた眉間がいつもの無表情に戻る。
しかし、それとは正反対にモルテ王の眉間にシワが寄る。
「世界の楔から解き放たれた者は、エリザベートでわかっていたが、もう少しなんとかならぬのか?」
「……」
「……」
ここには世界の楔から解き放たれながらも、番に捕まってしまった者が二人いるが、その二人は無言を返す。
「どうにもならないかと。だから、こうやって捕まえているんだ」
カイルがシェリーを抱えながら捕まえていると言う。確かに、番である彼らを平気で置いていくシェリーは捕まえておかないと、どこかに行ってしまうだろう。
「そういうものか?」
「そういうものだ」
何故か、カイルとモルテ王の意見があった。いや、それほど楔から解き放たれた番は扱いが難しいということだ。
「そんなことはどうでもいいので、話をしてもいいでしょうか?」
「良くないと思うよ。シェリー」
「どうでもいい訳が無い」
シェリーが話を進めようとすると、意見が合った二人から否定の言葉が出てくる。しかし、その否定の言葉も手を叩く音で遮られた。
パンパンと両手を叩いた者に視線を向けると、呆れたような顔をしたエリザベートがいたのだ。
「どうでもいいわよ。そんな話は別の機会にしてよね。それより、ルティー。番を世界に与えられたの?元死体の貴方が?」
元死体。モルテ王自身も世界の楔から解き放たれた存在であり、番を得ても囚われるはずはないのだが、番に固執する姿が見られる。そのことにエリザベートは疑問を覚えた。
元死人で、それも首と胴が別だった者をモルテ神とオスクリダー神の手によって新たな存在に成った者だ。そんな存在が番に固執するのかと。
「ああ、黒の聖女に与えられた」
そう言って、モルテ王はシェリーを見る。ただシェリーは連れてきただけの話なのだが、モルテ王からすれば、白き神から見放された国の王に、黒の聖女から与えられたと認識したのだろう。
「はぁ、それは白き神からモルテ王の交渉材料として、与えられたのです。モルテ王もまた世界にとって重要人物なのでしょう」
「白き神が私に?我々を見捨てたのに?」
どれだけ願っても助けてはくれなかった白き神が、今更何のために、己に番を与えたのか。モルテ王の内側からフツフツと怒りが湧き出ている。それと呼応するようにモルテ王の影が歪に蠢きだした。
「そうですね。私が思うに、白き神以外の神から生み出された存在はモルテ王だけではないのでしょうか?」
シェリーの言葉にエリザベートもモルテ王もハッとする。この世界は人もそうだが、神さえも白き神から創られた存在である。他の神が何かを生み出そうとはしたことはなかった。
「白き神とって、それは喜ばしいことだったのではないのでしょうか?」
「「喜ばしい?」」
神を否定しているエリザベートと白き神を否定しているモルテ王は意味がわからないという顔をしている。
言っている本人のシェリーも白き神の言葉を代弁しているつもりであるものの、合っているかは不明だ。
「今日お会いした時に話をしたのですが、神々を成長させるためにワザと世界に危機感をばら撒いたと言っていました。なので、モルテ神とオスクリダー神から創られた唯一の神人になるモルテ王は白き神にとって重要人物なのだと思います」
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