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27章 魔人と神人

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 ラフテリアとロビンが出ていった室内をシェリーは見渡す。見た目は本当に素朴な室内だ。

 玄関扉がダイニングテーブルから見え、何がはいっているのかよくわからない陶器の壺が並べられた戸棚の前には、人が入れそうなほどの大きな釜が床に置かれていた。その横には作業台と思われる腰の高さ程の天板がある台が置かれている。

 何かを作る為に、この家を建てたように思えるほど、大釜を中心に配置されている。きっとこの家にはラフテリアとロビン以外、招くことがなかったのだろう。

 ロビンは気に入った物があれば、持ち出していいと言ったものの、既に二千年は経っている。はっきり言って、このように家の形を保っていることが奇跡だ。

 一つ、ロビンが出ていったところではない扉がある。その先にもしかすれば、空島に関する物が残されているのかもしれない。

「カイルさん。手を離してください」

 今までシェリーの椅子のように存在感が無かったカイルに、シェリーは離すように言うも、カイルに動く様子はない。無視をしているのだろうか。

「はぁ。カイルさん」

 シェリーはため息を吐きつつ、再度カイルの名を呼ぶ。

「何かな?シェリー」

 いや、無視ではなかったようだ。これはただ単に、シェリーを離すことへの無言の拒否だったのだろう。

「何か役に立つ物があるか調べたいので、離してください」
「二人っきりになったのだから、もう少しこのままでもいいと思う」
「はぁ」

 シェリーから再びため息がこぼれ出る。ロビンが魔人を連れてくれば、そのままラース公国に戻らないといけない。ならば、それまでに何か必要な物を探しておかないといけない。
 いや、別に急ぐことではないのだが、ミゲルロディアのラフテリアに対する態度から、始まりの魔人はその後に出現した魔人とは違うのだろうということだ。
 あまり同じ空間にいるべきではない。シェリーはそう感じたのだった。

「カイルさん。ここは大魔女エリザベートの唯一残る魔女の家なのです。エリザベートが空島から何を集めていたのか知るにはいい機会なのです」

 唯一現存する魔女の家かどうかは確証はない。ただ、グローリア国の魔女の家が失われてしまったのであれば、今知っている中では唯一ということになる。

「うーん?俺が思うにシェリーが知りたいことは無いと思う」
「どういう意味ですか?」

 カイルはここには何も残されていないと推測した。しかし、周囲に視線を巡らせても、引っ越しをしたように全ての物が無くなっているわけではなく、生活していた時を切り取ったかのように、物はそのまま残されているのだ。

「今回は持っていなかったけど、大魔女エリザベートといえば、血のように赤い旅行鞄が有名だよね」

 赤い旅行鞄。それは大魔女エリザベートの話を描くなら必ず登場するアイテムだ。一番有名なのは、その四角く赤い旅行鞄で空を飛ぶという話だ。

 まだ騎獣に跨がって空を飛ぶということが、一般化されていなかった時代。浮遊の魔導術が一般に使われていた時代。

 かの魔女は赤い鞄に腰掛けて空を飛んでいた、そんな話が語り継がれている。

 しかし、それがどうしたのだろうか。

「その鞄ってシェリーの鞄と同じなんじゃないかと思ったんだよ。大事な物は持ち歩く感じで」

 大事な物。言われてみれば、シェリーが修行と称して呼び出した大魔女エリザベートは、四角い赤い鞄に腰掛けて顕れていた。シェリーが知る異世界では魔女はほうきに乗って空を飛んでいたと物語には描かれていたので、鞄である必要はないのかもしれない。
 そうなれば、その鞄の中には何が入っていたのかという話になるのだが、恐らくそのような物はグローリア国の地で魔女の家ごと消失したのだろう。
 だから、鞄の中身は知ることはできない。

 カイルの言うことが、的を得ていたのであれば、この魔女の家の中を探す意味はなくなってしまう。

 しかし、シェリーとしては諦めきれない。大魔女エリザベートの知は計り知れない。それを記した書物でも残っていればいいと思っていた。

「はぁ」

 シェリーはため息を吐き出す。結局のところ本人に聞くのが一番いいということになると。

「『亡者招来死者の召喚』」

 シェリーは再び、エリザベート・ラースを呼び出した。同じ日に同じ人物を呼び出すことは今までなかった。顕れるかどうかはわからなかったが、エリザベートが世界の記憶に戻ってしまったきっかけは、白き神の出現だったので、ある程度は大目に見てくれるだろうというシェリーの算段だった。

「今度はなに?さっきはあまりにもの力に意識が無くなったわ。死んだ私に意識があるのかはわからないけれど」

 機嫌が悪そうに、赤い髪をかき上げながら、空間から滑るように顕れた大魔女は、奇妙な事を言ったのだった。

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