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27章 魔人と神人
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「そうですか。その辺りは国によるのかもしれません」
シェリーは殺気混じりのロビンの言葉に淡々と答える。国によるとはやはり、カウサ神教国の影響を受けた国。そして、同じ神を崇めるエルフ神聖王国が勢力を伸ばしていく過程で、カウサ神教国の思想も広まって行ったのだろう。
「国によるかぁ。そうだよね。元カウサ神教国だなんて、死の神を崇めているほどだしね」
死を望んだカウサ神教国の民は死の神の祝福を得て、死のない種族に変貌してしまったのだから、カウサ神教国の姿を知っているロビンからすれば、お笑いぐさだ。
ロビンの死の神という言葉に、シェリーはふと思い出し、言葉にした。
「ロビン様。女神ステルラ様に祈っては如何でしょう?」
「女神ステルラ?確か……エリザベートが星の女神と言っていたかな?」
女神ステルラ。星の女神であり、導きの女神でもあるが、黒というものを人々から忌避されていることに対して、静かな怒りを顕にしている女神だ。
その女神の祝福を与えられたシェリーは、ひどい目にあったのだ。そのような女神をシェリーはロビンに祈ってはどうかと勧めた。
「そうです。今晩にでも星に願ってみては如何でしょう。もし、行き過ぎた祝福であれば、オスクリダー様に祝福の軽減を願ってください」
シェリーは遠い目をしてロビンに助言する。きっとひどい目に遭った日々を思い出しているのだろう。いや、人から見れば羨ましい祝福だ。人から好意を向けられる祝福なのだから。
「行き過ぎた祝福って……そんなに力がある女神だったんだ。それなら、もっと有名かと思ったのだけど」
有名。神の力は人々の信仰の度合いに比例する。名が浸透すればするほど、人々はその名を口にし、祈りを捧げる。そうすれば、神の力も増すのだが、ロビンが大魔女エリザベート以外から聞いたことがないと、首を傾げていた。
「いいえ。黒に対する忌避感が浸透していることに、不満をお持ちですので、力が入りすぎていると思われます」
「そうか。そんな神もいらっしゃるのか。今晩にでもお願いしてみるよ」
機嫌が悪かったロビンはニコニコといつもの表情に戻った。ラフテリアの聖女としての役目を果たしたいという願いを叶えたいが、人々の態度に怒りを覚え、人々を殺そうとしてしまうという矛盾を、なんとか解決できそうだという感じなのだろう。
「ああ、そうだったね。魔人を連れて行きたいということだったね」
ロビンは悩みが解決できそうだと、シェリーがお願いしていた本題を思い出したように言った。
「うーん。南側に来てしまったからね。僕が行って聞いてこようか?」
ロビンはシェリーの代わりに聞いて来ようと口にした。そのことにシェリーは首を横に振る。
「私が願い乞うべきですので、許可がいただければ、私が行きます」
シェリーはラフテリアとロビンから許可をもらいに来ただけで、交渉までしてもらおうとは思っていなかった。
それにミゲルロディアから来てくれそうな人物のピックアップはされているので、シェリーはその人達に片っ端から声を掛ければいいだけだった。
「それがね。さっきも言った通り、転移が使えないんだよ」
転移が使えない。正確には転移が使えるのは、ラフテリアとロビンの絶望の始まりの地である北側の海岸のみと決められているからだ。それを破ると、現存している魔導兵から攻撃されてしまうことになる。
「しかし、ここに来るときは転移を使っていましたよね」
確かにロビンは村と称したラフテリアとロビンしか住んでいない場所に、転移で移動してきた。
「ここはね。未だにエリザベートの結界が機能しているから、攻撃対象には入らないんだよ」
ということはだ。このラフテリア大陸で転移で移動できる場所は北の海辺とラフテリアとロビンが住まうこの場所のみということだ。それ以外は魔人であっても転移は使えず、自力で移動しなければならなかった。
「だからね。ちょっと行ってラース公国に出向いてもいいという魔人を連れてくるよ。少し、ここで待っていて」
ロビンにここまで言われてしまえば、シェリーは頷くしかない。そして、シェリーが共に向かおうと言わなかったのには理由がある。
シェリーはマップ上でラフテリアとロビンの移動速度を目にしていたことだ。それは大陸の南側から北側に移動する速度が尋常ではなかったからである。その間、雪に埋もれながらであったが、カイルが歩いてミゲルロディアがいた町に向かっていた。しかし、辿り着く前にシェリーと合流してきたのだ。
その人外過ぎる速度は、流石に魔人だと言わざる得ない。
「では、ここで少し待たせていただきます」
ロビンはこの言葉を聞いて、未だに上の空のラフテリアを抱え、立ち上がった。勿論、ロビンが護るべきラフテリアと共に行動するためだ。
「そうだね。ここはもう持ち主が居ないから、気に入った物があったら、持っていっていいよ」
シェリーの時間を潰すために、興味ありそうなことを口にして、ロビンは長きにわたって開いたことがなかった、木の扉から外に出ていったのだった。
シェリーは殺気混じりのロビンの言葉に淡々と答える。国によるとはやはり、カウサ神教国の影響を受けた国。そして、同じ神を崇めるエルフ神聖王国が勢力を伸ばしていく過程で、カウサ神教国の思想も広まって行ったのだろう。
「国によるかぁ。そうだよね。元カウサ神教国だなんて、死の神を崇めているほどだしね」
死を望んだカウサ神教国の民は死の神の祝福を得て、死のない種族に変貌してしまったのだから、カウサ神教国の姿を知っているロビンからすれば、お笑いぐさだ。
ロビンの死の神という言葉に、シェリーはふと思い出し、言葉にした。
「ロビン様。女神ステルラ様に祈っては如何でしょう?」
「女神ステルラ?確か……エリザベートが星の女神と言っていたかな?」
女神ステルラ。星の女神であり、導きの女神でもあるが、黒というものを人々から忌避されていることに対して、静かな怒りを顕にしている女神だ。
その女神の祝福を与えられたシェリーは、ひどい目にあったのだ。そのような女神をシェリーはロビンに祈ってはどうかと勧めた。
「そうです。今晩にでも星に願ってみては如何でしょう。もし、行き過ぎた祝福であれば、オスクリダー様に祝福の軽減を願ってください」
シェリーは遠い目をしてロビンに助言する。きっとひどい目に遭った日々を思い出しているのだろう。いや、人から見れば羨ましい祝福だ。人から好意を向けられる祝福なのだから。
「行き過ぎた祝福って……そんなに力がある女神だったんだ。それなら、もっと有名かと思ったのだけど」
有名。神の力は人々の信仰の度合いに比例する。名が浸透すればするほど、人々はその名を口にし、祈りを捧げる。そうすれば、神の力も増すのだが、ロビンが大魔女エリザベート以外から聞いたことがないと、首を傾げていた。
「いいえ。黒に対する忌避感が浸透していることに、不満をお持ちですので、力が入りすぎていると思われます」
「そうか。そんな神もいらっしゃるのか。今晩にでもお願いしてみるよ」
機嫌が悪かったロビンはニコニコといつもの表情に戻った。ラフテリアの聖女としての役目を果たしたいという願いを叶えたいが、人々の態度に怒りを覚え、人々を殺そうとしてしまうという矛盾を、なんとか解決できそうだという感じなのだろう。
「ああ、そうだったね。魔人を連れて行きたいということだったね」
ロビンは悩みが解決できそうだと、シェリーがお願いしていた本題を思い出したように言った。
「うーん。南側に来てしまったからね。僕が行って聞いてこようか?」
ロビンはシェリーの代わりに聞いて来ようと口にした。そのことにシェリーは首を横に振る。
「私が願い乞うべきですので、許可がいただければ、私が行きます」
シェリーはラフテリアとロビンから許可をもらいに来ただけで、交渉までしてもらおうとは思っていなかった。
それにミゲルロディアから来てくれそうな人物のピックアップはされているので、シェリーはその人達に片っ端から声を掛ければいいだけだった。
「それがね。さっきも言った通り、転移が使えないんだよ」
転移が使えない。正確には転移が使えるのは、ラフテリアとロビンの絶望の始まりの地である北側の海岸のみと決められているからだ。それを破ると、現存している魔導兵から攻撃されてしまうことになる。
「しかし、ここに来るときは転移を使っていましたよね」
確かにロビンは村と称したラフテリアとロビンしか住んでいない場所に、転移で移動してきた。
「ここはね。未だにエリザベートの結界が機能しているから、攻撃対象には入らないんだよ」
ということはだ。このラフテリア大陸で転移で移動できる場所は北の海辺とラフテリアとロビンが住まうこの場所のみということだ。それ以外は魔人であっても転移は使えず、自力で移動しなければならなかった。
「だからね。ちょっと行ってラース公国に出向いてもいいという魔人を連れてくるよ。少し、ここで待っていて」
ロビンにここまで言われてしまえば、シェリーは頷くしかない。そして、シェリーが共に向かおうと言わなかったのには理由がある。
シェリーはマップ上でラフテリアとロビンの移動速度を目にしていたことだ。それは大陸の南側から北側に移動する速度が尋常ではなかったからである。その間、雪に埋もれながらであったが、カイルが歩いてミゲルロディアがいた町に向かっていた。しかし、辿り着く前にシェリーと合流してきたのだ。
その人外過ぎる速度は、流石に魔人だと言わざる得ない。
「では、ここで少し待たせていただきます」
ロビンはこの言葉を聞いて、未だに上の空のラフテリアを抱え、立ち上がった。勿論、ロビンが護るべきラフテリアと共に行動するためだ。
「そうだね。ここはもう持ち主が居ないから、気に入った物があったら、持っていっていいよ」
シェリーの時間を潰すために、興味ありそうなことを口にして、ロビンは長きにわたって開いたことがなかった、木の扉から外に出ていったのだった。
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