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27章 魔人と神人
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しおりを挟む『やっと、そこまでたどり着けたね』
シェリーの耳にはここには存在しない声が聞こえた。それに対してシェリーは思わず舌打ちをする。
「ちっ!」
全ては始めの変革者がやらかしたことだったのだ。
『僕もそのチョコレートっていうのを食べてみたいなぁ。そっちに喚んでよ』
「嫌ですよ。あちらに行けば食べれますよね」
シェリーは声を掛けた存在が召喚を望んでいるというのに拒み、異界に行けばいいだろうと言う。
あの存在は佐々木を異界に連れて行ったのだ。行き来には何も不自由しないと思われる。
『えー。本体で行くよ―』
「ちっ!」
喚んでくれないのであれば、世界に多大なる影響を及ぼす存在のまま、降臨すると脅したのだ。
「シェリー!」
シェリーのいつもの独り言に、カイルは慌ててシェリーを抱きかかえる。何モノにも奪われないように。
カイルに抱えられ、膝の上に座らされたシェリーは大きく諦めのため息を吐く。本体で来るという脅しを拒否する方法は存在しない。
「すみません。白き神がここに来ます」
その言葉に反応が別れた。ラフテリアは満面の笑みを浮かべた。その瞳がタールを流したように黒く濁ってなければ、きっとキラキラ輝いていたことだろう。
そして、エリザベートといえば、引きつった笑みを浮かべていた。白き神とはこの世界の創造主。それが、女神ナディアの気軽さのように地上に降臨するというのだ。
シェリーは深呼吸して、無心の境地で呪を口にする。
「『夢の残像』」
ただの幻想を展開するだけのスキルだ。そこに干渉する存在がなければだ。
ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。そして、ただの木の香りがする室内が白い花に満たされていた。いや、そこは屋外であり花畑だった。上を見上げれば闇が空を覆い、二つの月が中天に浮いていた。
「チョコレートというものを所望しよう」
エリザベートの向かい側、シェリーの斜め90度の位置に何もかもが真っ白な存在が存在していた。その姿を確認したシェリーは舌打ちをして、キャンディー型に透明なフィルムに包まれたチョコレートを、大袋に入ったままテーブルの上に差し出す。皿に出すこともなく、炎王から取り引きしたままの状態だった。
白き存在は手慣れたようにプラスティック製の大袋を開け、キャンディー型のチョコレートを包みから出して食べている。絶対にこれは食べ慣れている感じだ。
そんな白き存在の正面に座っていた世界の記憶でしかない赤き大魔女の姿は、かき消えていた。これはシェリーの術の重複ができなかったのか、白き神の力に耐えきれなかったのかわからないが、その場には髪の毛一本も存在していなかった。
そして、敬愛する白き神が目の前にいるとわかったラフテリアというと、月明かりの中、白い花が揺れている花畑に頭を伏した姿でいる。
己が同じ席につくべきではないと、その身を伏していた。ロビンもラフテリアに倣うように隣で跪いていた。
いつもラフテリアと同じ様にその身を地に押し付けられるように、伏すしかなかったカイルといえば、シェリーを膝の上に抱えたまま、普通に椅子に座っている。それに一番驚いているのが、カイル自身だった。
「あ、君がそのまま居れることに驚いている?」
チョコレートを口に運びながら、カイルに白い絵の具を流し込んだような目を向ける。いや、顔を向けているが、瞳がない目ではカイルを見ているかどうかは判断できなかった。
「君の位が上がったからだね。それは、シエロに認められたからだよ。天空の力は君に新たな力を与えただろう?」
どうやら、カイルはシェリーと番の儀を行い、天空神シエロに番として縁を結んでもらったときに、新たな力を得て、神に屈することがなくなったようだ。いや、それは白き神が力を押さえているのが一番の要因でもある。
「そんなことはどうでもいいので、何をしにここに来たのですか?エリザベートが強制的に世界の記憶に還ってしまったではないですか」
シェリーはカイルのことはどうでもいいと、ぶった切る。そして、白き神に話しているのに邪魔をしにきた理由を聞いた。
「もちろん。褒めに来たんだよ」
「必要ありません」
この世界の創造主であり、神々ですら頭を下げる存在である。一部を除くが……その白き神が真実の鱗片にたどり着いたシェリーを褒めてあげようと言っているのだ。それをシェリーはズバッとぶった切る。
「そう言わないで欲しいな。最初の異界からの変革者。あれはいい意味でも悪い意味でも世界を変えてくれたよ」
「どこにいい意味があるのですか?全くありませんよね」
「あれは世界に危機感をもたらした。それは凄いことだったんだよ」
この言い方ではまるで危機感をもたらしたことが良いことのように言っている。それの何が良かったのか。
「神々への祈りですか。人はどうしようも無いときに祈ってしまうものですから……それが神々の力となったと言いたいのですか?」
シェリーの言葉に白き神は朗らかに微笑んで肯定したのだった。
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