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27章 魔人と神人

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『俺は兵士になることになったんだ!』

 太陽を映したような髪が風に煽られ、目に映る風景は青色のみ。空の中で嬉しそうに話す男は、念願の夢が叶ったかのように、全身で喜びを現している。その男の背中の白い一対の翼が大きく羽ばたいていた。

『そう……なの……ね』

 その背後では空の中に浮かんだ地面に足を付けた女性の顔色が優れない。嬉しいはずの報告がまるで、悪夢かと言わんばかりの表情だ。

『俺は……俺たちはシュロス様の兵となって、シュロス様と永遠に白き神に仕える神兵となるんだ!』

 永遠……その言葉に女性は両手で顔を覆い、肩を震わせている。

『神兵となれば、永遠の命になるんだ!凄いだろう!母さん』

 空の中にいる男が振り返って、空の中の地面の上にいる女を見下ろした。そこには立っておれず、膝を付いて地面を濡らしている母と呼ばれた女がいた。

『母さんも泣くほど、喜んでくれるんだ!』






 神兵になることを喜んでいた男は、両手を鎖に繋がれ、一人の男の前にいた。空を映していた瞳には、恐怖と怒りの色が浮かんでいる。

『我らが神の使徒となる証を折るとは、どういうことですか!』

 鎖に繋がれた男の空を飛んでいた翼は男の足元に落ちている。
 しかし、男の質問に目の前の男は答えない。ただ、鎖に繋がれた男に手を掲げたのだった。




「という記憶が入ってきました」

 山のようになった残骸が白い炎に包まれた光景を目の前にして、シェリーは先程、鎧の中身に触れて見たことを言葉にした。それは魔導兵だった者の記憶だったのだろう。

「これは予想外。大陸の周りにいる魔導兵も処分した方がいいかな?」

 シェリーの話を聞いたロビンは、大陸の守護を押し付けている魔導兵をどうするべきか悩んでいるようだ。

「別に意識があるわけではないので、それはロビン様にお任せします。ただ、一度役目を終えたモノは、解放してもいいのではないのですか?」

 意識は無くても心は存在する。心という物を動力源にしようとしたシュロスという者の力の所為だ。なんて矛盾があるモノが存在しているのだろう。

 白い炎が弱まってきたことを確認したシェリーは、円柱の柱のところに足を進める。そこはシェリーが、上の階層に行くための手段だと予想したところだ。

「シェリー。何かをするのなら、俺がやるから」

 シェリーの行動を止められなかったカイルは、シェリーが何かをする前に言う。シェリーが触る度に何かが起こっている。それを事前に防ぐためでもあるが、シェリーを守るためでもある。

「はぁ」

 段々と過保護になっているカイルにシェリーはため息を吐く。シェリー自身が対処できないほどではない。だが、カイルにとってこの場所は、未知な部分が多すぎた。この円柱に何が仕込まれているのか全く理解できないのだから。

「取り敢えず、そこの三角のマークを押してください。何も起きないと思いますけど」

 三角のマーク。それはシェリーにとっては見慣れたエレベーターの上行きを示すマークだ。

 シェリーに言われたカイルは左手の人差し指で押す。勿論右手には何があっても対処できるように大剣を逆手で掴んでいた。

「押したけど……」

 カイルは言われた通り押したものの、何も起こらない。

「やはり黒いカード型の鍵が必要なのでしょう」

 黒狼クロードが言っていた、魔力を登録する魔道具だ。シェリーはここで考える。本当であれば、空島の機構を調べたいところだが、魔導兵の真実を知ってしまった今となっては、知らなくてもいいと思う自分と、知らなければならないと思う自分がいる。

「魔女の知を借りるべきですか」

 3000年生きた魔女。空島の残骸から何かを集めていた魔女。空島と行き来していたらしい魔女なら、空島の情報を持っているはずだ。

 シェリーは振り返って、魔女と旧知である二人に言う。

「今から、大魔女エリザベートを召喚します。しかしそれは世界の記憶から構築していますので、本物の大魔女エリザベートではありません。きっとお二人から見たら違和感を感じるかもしれませんが、許してください」

 シェリーがやっていることは、人によれば死者を冒涜していると言われかねないことだ。しかし、それは死人を召喚しているわけではなく、ただの世界が持つデータからの再構築である。
 シェリーは初代聖女であり初代魔人であるラフテリアを敵に回してはいけないことを重々承知していた。そのラフテリアはエリザベートを友として扱っているので、機嫌を損ねないように事前に言ったのだ。ロビンにも言っているようだが、ロビンは知っているため、これはラフテリアに向けて言った言葉だった。

「うん。ロビンから聞いて知っているよ」

 シェリーの心配をよそに、ラフテリアは既にロビンから聞いていたようだ。

「エリーの魔術はキラキラしてきれいだったって、話してくれるんだ」

 聞いている話は、シェリーの言いたいことと少しズレていたようだった。
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