650 / 774
27章 魔人と神人
637
しおりを挟む
大魔女エリザベートのことを、グローリア国の祖とオリバーが言っていたということは、グローリア国の王族に嫁したということだ。
ただ、それが番であったというだけだ。
シェリーはロビンの後を追うように、玄関扉をでながら、言葉にする。
「これはナディア様から教えられたことなのですが、いつまでも愛し子がすねているのが可哀想だから、番と強制的に会わせたらしいです」
シェリーはとても嫌そうに言った。それはシェリー自身にも降り掛かったことである。番に強制的に出会わされれば、いくらシェリーが否定しようが、5人の番がシェリーを囲い込むようにシェリーの屋敷に居座っている事実。
それが、大魔女エリザベートの身にも起こったと。
玄関を出て、木の根に絡みつかれた小屋のような建物を横目に、シェリーとカイルはロビンとラフテリアの背中を追っていく。
ここで過ごした大魔女エリザベートは何を思い、ここでロビンとラフテリアと共に過ごしたのだろうか。
アレクという婚約者と仲違いし、己を殺したラフテリアと共に過ごそうと思った心境は、まともであったとは思えない。
だから、あの呪詛のような落書きが残っているのだろう。
「その辺りはオリバーに聞けばわかるんじゃないのかな?」
大魔女エリザベートを己の祖というぐらいだから、名ぐらい覚えているだろうと。
「オリバーは王族の血筋ですが、王族ではありません。詳しく知っているかどうか……それに王族は最初に加護を得た神から名をもらう風習があったそうです」
「変わった風習だね。いや、ラースの名を名乗りたくなかったからかな?っということは、始まりの王がラースならグローリア国の王族もラースの名を持っているんじゃないのかな?」
カイルの説も一理ある。元々はラースの公族から始まったのであれば、その名を隠す為に神から名を与えてもらったという説。だが、何のために名を隠す意味があったのか。
「ほら、オリバーもルークに女神ナディアの加護が一番強くて大きいみたいなことを言っていなかった?オリバー自身も女神ナディアの加護があるって……あっただったね」
確かにオリバーはその身に女神ナディアの血族を示す印は現れないようにされているが、女神ナディアの加護は受けていたと。
「だったら、オリバー・カークスの間にラースの名が入っていてもおかしくはないよね。確か、以前オーウィルデイア殿がラースから外すという言葉を使っていたから、ラースという名は重要な名前じゃないのかな?」
女神ナディアとその想い人のラースの血を引くグローリア国の王族。ラースの名は女神ナディアにとって特別の名だ。
生まれ落ちた時に、神の中でも力を持つ女神ナディアからの加護を受け取り、別の神に与えられた名でラースの名を上書きする。その事により女神ナディアの血族である印が消えるというのであれば、赤き魔女はラースの名を名乗り続けていた可能性があるのではないのか。
シェリーの中では瞬時に一つの仮説を立てた。
確かに神からの印を消すことは普通はできない。シェリーが幼い双子の妹に対し魔眼を封じたのも女神ナディアとラースの名を用いて封じたのだ。
ならば、他の神から与えられた名で力を封じるまではいかないももの、女神ナディアの血族という印は消すことができるのではないのか。
「カイルさん。それは思ってもみませんでした。凄いです」
シェリーはカイルの言葉に感心して、素直に褒めた。
褒められたカイルは一瞬、あまりにも聞き慣れないシェリーの言葉に思考を停止してしまったが、直ぐにシェリーに褒められたことを理解し、満面の笑みを浮かべる。
「お役に立てて嬉しいよ。お礼はシェリーからのキスでいいよ」
「しませんよ」
「恥ずかしがらなくていいよ」
「その説どこまで引っ張る気ですか?」
シェリーはため息を吐いて、少し褒めただけで調子に乗ったカイルを横目で見る。シェリーを独り占めしていることで、機嫌がいいのは問題ないが、チラチラ見え隠れする独占欲が、シェリーは鬱陶しいとため息を吐くのだ。
「じゃ、彼女みたいに抱きついてきて欲しいな」
彼女とは勿論ラフテリアのことだ。ロビンと共に歩くことが嬉しいのか、ロビンの周りを回って飛びついている。
シェリーにあれをしろということなのだろう。両手を広げて構えているカイルをシェリーはジト目で見た。
「嫌ですよ」
シェリーにはカイルに抱きつくという選択肢は始めから存在しない。あのオリバーに泣きつく劣化版シェリーに対しても、あれは普通はしないと貶したほどだ。
「あれも駄目。これも駄目ってシェリーはわがままだなぁ」
「はぁ。わがままではなく、私が絶対にしないことをわかって、言っていますよね」
ため息交じりのシェリーの言葉に、カイルはクスクスと笑い始めた。
「わかっているけど、もしかしたら俺を認めてくれたかもって、期待ぐらいしてもいいよね」
期待。それは己を頼れる存在だと認められたのであれば、ツガイとしても認められたのではという、カイルの淡い期待のことだった。
ただ、それが番であったというだけだ。
シェリーはロビンの後を追うように、玄関扉をでながら、言葉にする。
「これはナディア様から教えられたことなのですが、いつまでも愛し子がすねているのが可哀想だから、番と強制的に会わせたらしいです」
シェリーはとても嫌そうに言った。それはシェリー自身にも降り掛かったことである。番に強制的に出会わされれば、いくらシェリーが否定しようが、5人の番がシェリーを囲い込むようにシェリーの屋敷に居座っている事実。
それが、大魔女エリザベートの身にも起こったと。
玄関を出て、木の根に絡みつかれた小屋のような建物を横目に、シェリーとカイルはロビンとラフテリアの背中を追っていく。
ここで過ごした大魔女エリザベートは何を思い、ここでロビンとラフテリアと共に過ごしたのだろうか。
アレクという婚約者と仲違いし、己を殺したラフテリアと共に過ごそうと思った心境は、まともであったとは思えない。
だから、あの呪詛のような落書きが残っているのだろう。
「その辺りはオリバーに聞けばわかるんじゃないのかな?」
大魔女エリザベートを己の祖というぐらいだから、名ぐらい覚えているだろうと。
「オリバーは王族の血筋ですが、王族ではありません。詳しく知っているかどうか……それに王族は最初に加護を得た神から名をもらう風習があったそうです」
「変わった風習だね。いや、ラースの名を名乗りたくなかったからかな?っということは、始まりの王がラースならグローリア国の王族もラースの名を持っているんじゃないのかな?」
カイルの説も一理ある。元々はラースの公族から始まったのであれば、その名を隠す為に神から名を与えてもらったという説。だが、何のために名を隠す意味があったのか。
「ほら、オリバーもルークに女神ナディアの加護が一番強くて大きいみたいなことを言っていなかった?オリバー自身も女神ナディアの加護があるって……あっただったね」
確かにオリバーはその身に女神ナディアの血族を示す印は現れないようにされているが、女神ナディアの加護は受けていたと。
「だったら、オリバー・カークスの間にラースの名が入っていてもおかしくはないよね。確か、以前オーウィルデイア殿がラースから外すという言葉を使っていたから、ラースという名は重要な名前じゃないのかな?」
女神ナディアとその想い人のラースの血を引くグローリア国の王族。ラースの名は女神ナディアにとって特別の名だ。
生まれ落ちた時に、神の中でも力を持つ女神ナディアからの加護を受け取り、別の神に与えられた名でラースの名を上書きする。その事により女神ナディアの血族である印が消えるというのであれば、赤き魔女はラースの名を名乗り続けていた可能性があるのではないのか。
シェリーの中では瞬時に一つの仮説を立てた。
確かに神からの印を消すことは普通はできない。シェリーが幼い双子の妹に対し魔眼を封じたのも女神ナディアとラースの名を用いて封じたのだ。
ならば、他の神から与えられた名で力を封じるまではいかないももの、女神ナディアの血族という印は消すことができるのではないのか。
「カイルさん。それは思ってもみませんでした。凄いです」
シェリーはカイルの言葉に感心して、素直に褒めた。
褒められたカイルは一瞬、あまりにも聞き慣れないシェリーの言葉に思考を停止してしまったが、直ぐにシェリーに褒められたことを理解し、満面の笑みを浮かべる。
「お役に立てて嬉しいよ。お礼はシェリーからのキスでいいよ」
「しませんよ」
「恥ずかしがらなくていいよ」
「その説どこまで引っ張る気ですか?」
シェリーはため息を吐いて、少し褒めただけで調子に乗ったカイルを横目で見る。シェリーを独り占めしていることで、機嫌がいいのは問題ないが、チラチラ見え隠れする独占欲が、シェリーは鬱陶しいとため息を吐くのだ。
「じゃ、彼女みたいに抱きついてきて欲しいな」
彼女とは勿論ラフテリアのことだ。ロビンと共に歩くことが嬉しいのか、ロビンの周りを回って飛びついている。
シェリーにあれをしろということなのだろう。両手を広げて構えているカイルをシェリーはジト目で見た。
「嫌ですよ」
シェリーにはカイルに抱きつくという選択肢は始めから存在しない。あのオリバーに泣きつく劣化版シェリーに対しても、あれは普通はしないと貶したほどだ。
「あれも駄目。これも駄目ってシェリーはわがままだなぁ」
「はぁ。わがままではなく、私が絶対にしないことをわかって、言っていますよね」
ため息交じりのシェリーの言葉に、カイルはクスクスと笑い始めた。
「わかっているけど、もしかしたら俺を認めてくれたかもって、期待ぐらいしてもいいよね」
期待。それは己を頼れる存在だと認められたのであれば、ツガイとしても認められたのではという、カイルの淡い期待のことだった。
10
お気に入りに追加
1,016
あなたにおすすめの小説
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!
杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!!
※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。
※タイトル変更しました。3/31
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる