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27章 魔人と神人

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「上空を旋回しているかは僕は知らないけれど、エリザベートが言うには、空島同士でも争い事があるらしく、他の空島への牽制のために攻撃術式を組み込んだ魔道具が、島の周囲に展開してるらしい」

 どうやら空島同士で仲がいいというわけではなく、何かの権力的争いがあるようだ。

「南に一つだけ残された空島には、いくつか空島の周囲を飛んでいる魔道具があるから、それのことのようだね」

 いや、もしかすると、元々は対竜人対策だったのかも知れない。大昔に空の覇権を竜人とアーク族が争い、南側の空島が破壊され、今ではゴミのような残骸しか残っていない現状が、戦いの激しさを物語っていた。

「で、エリザベート曰く、腹が立ったから、島の周囲にある魔導兵を根こそぎ取ってきたと言っていたね」

「……根こそぎということは、そもそも空島に魔導兵が残っていないのでは?」

「根こそぎって周囲に展開しているヤツだけで、流石に全部ってことはないと思うんだけど……もしかして、大陸の周囲に設置してある魔導兵が現存する全て?いやそれはないよね。新しく作ればいいのだから。ハハハハハ……エリザベートならやりかねない」

 ロビンは、から笑いをしながら、最後にはテーブルに肘をついて項垂れてしまった。

 しかし、シェリーは魔導兵という物の存在すら知らなかった。これはオリバーが興味を持ちそうな話であり、そんなモノが空島から降ってくるというのであれば、オリバーの地下室に一つぐらいはありそうなものだ。
 だが、シェリーが知らないということは、オリバーのコレクションの中には存在しないということだ。因みに、ルークに危害を加えるような物は、オリバーはシェリーに報告義務が課せられているため、危険物は陽子のダンジョンへと破棄されているのが現状だ。

「ロビンの言う通り、新しいものを作ればいいと思うよ。作ればたくさんできるから」

 ラフテリアは項垂れているロビンを慰めるように、言っていいるものの、それはラフテリアの希望であって、現実的ではない。

 ただ、もし魔導兵を増やせない理由があるとすれば、どうだろう。何かしらの要因があり、作ることができない。

 そこでシェリーはふと、ユーフィアの魔道具を模倣しながらも、完璧に模倣できない『ハルナ アキオ』という人物を思い出す。

 同じ様に作っていても、それは本物以上にはならないという現象だ。
 その部分を解消するためにユーフィアは術式を発動させる心臓部と言って良い、陣を原盤という形で作り、商品は原盤を魔道具に印刷することで、術式の陣として成りさせている。だからユーフィアの商品は量産が可能であり、水準がブレないのだ。

 それに黒のエルフのアリスだ。彼女は色々な物を作り出した。教会の時を刻む基準となる時計を、簡単に各地に移動ができる転移門を、他にも多種多様な物を作り上げたが、転移門は現状最初にアリスが作った数から増えず、主要都市から離れたところに転移門があるのが現状だ。そう、つくり手が死ねば、誰かに引き継がれることがなく、新たに作られることはない。

 そして、黒狼クロードの言葉だ。空島には内部構造が存在し、そこが島の中枢だと言っていた。その中に入るシステムも入出管理がされたカード型のキーが必要だという話だった。
 その形状や使用がシェリーの昔の記憶をチリチリと刺激する。

「空島にいた変革者は誰?」

 シェリーはここにいる誰に話しかける訳でもなく、まるで大きな独り言のように呟く。

『シュロスだね』

 ここにはいないモノの声が聞こえて来た。

「あっ!神さま!」

 その声にラフテリアは反応し、両手を組んで天に向かって祈るようなポーズをした。

「神さま。神さま。ラフテリアは昨日、黒いモヤモヤをキレイにしました」

 ラフテリアは天井に向けて子供の絵日記のような報告をした。まるで、母親に良いことをしたよと褒めて欲しい子どものように、笑顔で言っている。もし、タールを流し込んだような淀んだ目でなければ、キラキラと輝いていたことだろう。

『ちゃんと見てるよ。私の最初の聖女』

 その言葉と共に窓がない室内に風が通り抜けた。

「ふあぁ!ロビン!ロビン!神さまが褒めてくれた!」

 ラフテリアは嬉しさのあまり、隣に座っているロビンに抱きつく。そして、『嬉しいよぅ』と言ってロビンの胸に顔を埋めていた。

 その向かい側のシェリーは『お前誰だよ』という視線を天井に向け、カイルは聞こえて来た声に慌ててシェリーを抱き寄せ膝の上に、抱え込んだ。

 二組の男女の態度の差が酷い。

『君もその子の様に、もっと素直にならないとね』

 ここには居ない存在の声はクスクスと笑いながら消えていった。

 素直になるように言われたシェリーは、唯一素直になれそうな子供時代から過酷だったのに、それは無理な話だと、ため息を吐くのだった。

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