番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
647 / 796
27章 魔人と神人

634

しおりを挟む
「この辺りはエリザベートから詳しくは聞かなかったけれど、意見の相違が起こったのだと思う。エリザベートは婚約者に裏切られたと言っていたけど、世間的にはエリザベートは死んだことにされていたんだよ。だって、リアがあの教皇以外を殺したのだから」

 ロビンはかなり教皇のことを嫌っているようだ。これは己を殺したというより、己の番であるラフテリアを良いように使おうとしたことに対して、気に食わないという感じだ。そして、生かしてしまったことへの憤りだろう。

「ただ、変な噂が流れていたようだったけど、何だったかな?忘れちゃったな」

 変な噂と聞いてシェリーはふと思い出した。確かにおかしな話を炎国で聞いた。

「炎国に住む妖精がおかしな噂話をしていました。虐殺を行った花嫁と逃げた大公の姪がいたと」

「ああ、そんな感じだね」

 これは炎王の側にいる妖精様と言われている、人と同じ姿をした女性が言っていたことだ。その時代から生きていたのであれば、妖精としてもかなり上位クラスだと思われる。そんな妖精からの言葉だ。この噂が流れていたのは本当のことだったのだろう。

「ということは、その現場を見ていた人が生きていたということですか?」

「そんなもの、あの教皇に決まっている。ラフテリアを貶めて敵国を貶める。いいきっかけだったのだろうね」

 真実を知るのはただ唯一生き残った教皇のみ、残りは物言わぬ死体の山。事実は虚実へと変化したのだ。

「そんなことで、色々誤解が生まれたのだろうね。でも、護り手の僕から言わせれば、大切な人から否定されてしまえば、今まで維持してきたものなんて、どうでも良くなると思うんだよ。今まで築いてきた地位も名誉もどうでもよくなる」

 エリザベートは女神ナディアの愛し子。ならば、愛し子を護るべき存在を一族として側におくのは当然のこと。 

「恐らく婚約者の彼はエリザベートの護り手だったんじゃないのかな?すべてを否定したエリザベートに、赤き女神を否定したエリザベートに、多くの神々を崇める国を作り、居場所を与えようとしたんじゃないのかな?僕はリアの為にこの安寧の地を作り上げたのだから」

 そのアレクという人物は、多くの神々を崇めるグローリア国を築いた。栄光をその名に掲げた国をだ。全てはエリザベートのためだったとすれば?王族に必要な条件に髪と目の色を指定したのは、アレク自身の色ではなかったのだろうか。
 いつかたどり着くだろうエリザベートに、居場所を与える為に一国を築いたのであれば、その愛はなんて重いのだろう。
 しかし、結果として何千年経った後に大魔女エリザベートはグローリア国にたどりつき、その生命に終止符を打った。

 それはアレクという人物の行動に間違いはなかったと、歴史は証明しているのだった。 

「安寧の地ですか?」

 シェリーはこの家を見て確かに安寧の地と言われればそうだろうと、納得をする。何千年経とうが、まるで新築のような室内。それは人という枠組みを外れ、永劫と言って良い時を生きる二人には必要な場所だ。

「そう、この大陸に上陸するには北の浜辺ただ一箇所のみ。それ以外の場所から上陸しようとすれば、エリザベートが空島から持ち出した魔導兵から攻撃されるんだよ」

「え?」

「シェリーの言っていたとおりだったね。すごいね。」

 カイルはシェリーの言っていた、北の海辺以外に転移すると排除対象になるということは、流石に大げさだと内心思っていたが、ロビンの言葉に流石はシェリーだと、嬉しそうにシェリーを褒めた。

 しかし、シェリーはまさか本当に排除対象になるとは思っておらず、驚きの言葉を上げた。いや聞き慣れない空島の魔導兵というものが気になったのだろう。

「ロビン様。魔導兵とはどのようなものなのですか?」

「ん?今の時代は魔導兵は降って来ないのかな?」

 とても恐ろしい言葉が聞こえてきた。空から魔導兵が降ってくる?

「空島から何かが降ってくるということは……」

 空島から何かが降ってくることはないと否定しようとしたシェリーは、悪魔という存在は空島から降ってきたと言っていいのだろうかと、言いどもってしまった。

「今、詳細がわからないことがあるので言及は控えます」

「そうなんだね。昔はね。北側に魔導兵が降ってくることがあったんだよ。まぁ、落ちてきた衝撃で壊れているんだけどね」

 空島の高度から落ちた経験があるシェリーはそれは壊れるだろうと納得する。いや、壊れるとはどういうことだろうか。

「魔導兵とは人ではないのですか?」

「それって、上空を旋回する魔道具に攻撃性をもたせたものかな?」

 シェリーの疑問にカイルが質問を上書きをした。どうやら、カイルには心当たりがあるようだった。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。 私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。 その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。 完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...