番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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27章 魔人と神人

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 招き入れられた外見上は人が住めるように見えない建物の中は、木の温もりが感じるような作りであった。
 床も壁も柱も全てが木材で作られており、それも何千年も経っているとは思われない白木の素材だった。

 まるで新築の真新しい内装だ。しかし、外壁がそれを否定し、置かれている戸棚やテーブル、椅子などの家具が長年使用されてきた雰囲気を醸している。
 普通であれば床や壁に黒くツヤが出ていてもおかしくはない。それにいくら人が住んでいようが四千年という時は木材を乾燥させ朽ちらすだろう。

 これが大魔女エリザベートの力というのだろうか。死してもその効力は衰えることはなく、永遠の生命と言っても過言ではない二人の為にその力を奮った。
 次元の違う力とはこのことだろう。

「好きなところに座って」

 ロビンは四人がけのテーブルを指して言った。
 好きなところと言われても、きっとラフテリアが好む定位置というものがあるだろう。シェリーはその言葉を素直に受け取れず、玄関口で立ち止まったままだ。

「6番目はエリーのところに座るといいよ」

 そんなシェリーの腕をラフテリアが引っ張っていく。ということは、シェリーの手を握っているカイルも必然的についていくことになった。

「ここがエリーの場所。いつもここで落書きをしていたんだよ」

 シェリーに座るように促した席のテーブルの天板は、そこだけ異様に黒い。ラフテリアは落書きをしていたと言っているので、インクがこぼれた跡なのかと思いながらシェリーは席につく。

 席についたシェリーはテーブルの天板の上に指を這わした。いつも無表情がデフォルトのシェリーがとても嫌なものを見てしまったかのように、歪んでいる。

「うーん?呪いかな?」

 シェリーの隣に座ったカイルの言葉だ。

 呪い。テーブルの天板の上には無数の傷が付けられており、その傷が長い年月のホコリやゴミなどによって黒く見えていたのだ。

「『アレク死ね』が一番多いですね」

 どうやら、個人的に呪いたい人物がいたようだ。ただ、これは文字を彫られただけなので、呪詛というものではない。ただ単に心の声を吐き出していたのだろう。

 シェリーはその一角だけ黒ずんているテーブルの文字を読んでいく。折り重なり、文字としては判読は難しいが、シェリーにはチートな真理の眼がある。折り重なった線を排除し、文字として読みとるのだ。

「ラフテリア様。ラフテリア様への文句が書かれていますが?何をされたのですか?」

 シェリーが指し示したところには、黒い線が入り混じって文字としての判読はできない。

「え?何が書いてあるの?」

 ラフテリアは興味津々な感じで、テーブルに齧りつくように見ているものの、ラフテリアには判読できないようだ。

「『ラフテリア。許さない』ですね。あとは、『絶対に今度は勝つ』ですか」

 すると、ラフテリアはケラケラと笑い出した。

「エリーは弱かったからね。私には一度も勝てなかったよ」

 どうも、エリザベートはラフテリアと手合わせをしていたらしい。

「一番最初に死んだときに死んだフリでもしとけばよかったのに、私を殺そうとするから、また死ぬことになったんだからね」

 まるで大魔女エリザベートを殺したと言っているような言葉が聞こえてきた。

「もしかして、ナディア様が言っていた、愛し子を殺した人でなしとは、ラフテリア様のことだったのですか?」

「人でなし?そうだね。私はヒトじゃないから。アハハハハ」

 ラフテリアはシェリーの質問の答えよりも、人でなしという言葉に反応して、笑っている。魔人は人ではないと。

「赤き女神様の愛し子を手に掛けたのは、リアですよ」

 笑っているラフテリアの代わりに、ロビンが答える。そのロビンはトレイに大きめのカップを4つ乗せ、4つの浅い皿に多種多様の果物が乗せられていた。いや、白く霜が降りていることから、凍らせた果実のようだ。

「でも、こちらで共に過ごされていたのですよね」

 共に過ごしていたというのに、ラフテリアが殺した?これはラフテリアが狂気的に暴れたということだろうか。それであれば、納得もできる。

「うーん。順番が違うかな」

 ロビンはカップと凍った果物が乗せられた皿をテーブルの上に置きながら、首を傾げている。

「冷たいお菓子!」

 凍った果物を見たラフテリアはシェリーの向かい側の席に座り、フォークを握って果物に突き刺している。
 そんなラフテリアを嬉しそうに見ながら、ロビンはラフテリアの隣に座った。

「聖女のお披露目の日に僕が殺されて、魔人化したリアが暴れて、エリザベートを殺した」

 これはカウサ神教国最大の汚点であり、終わりなき生の始まりの日の話だ。しかし、何故、この場にエリザベートが居たのだろうか。

 いや、カウサ神教国の聖女のお披露目の日に、ラース公国の女神の愛し子であるエリザベートが足を運ぶ。
 これは敵情視察だったのか、それとも屈するという意味だったのだろうか。

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