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26章 建国祭

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「それは完全体の悪魔がダンジョン産だったということですね」

 シェリーはとても大まかな言い方をした。間違いではない。間違いではないが、些か問題発言と言って良い言いかただった。

「佐々木さん。その説明では理解も何もできないが?」

 もちろんシェリーに突っ込んだのは炎王だ。そして、白い板の向こう側ではイーリスクロムのため息が聞こえてくる。

「という、理解不能なことが起きているのに、情報の共有がされていないとはどういうことなのでしょうか?」

 シェリーは結局のところ、イーリスクロムに直接報告したにも関わらず、何も対策がされていないことを言いたいのだった。

『では君はどうやって情報を各国に伝えるのか聞いてみたいね。騎獣で移動するのにも限度がある。我々はエルフ族ではないのだよ』

 イーリスクロムは何事にも限界はあると言葉にする。そして、大陸の殆どを支配下に治めたエルフ族は、転移門という高度な技術を使って、広い領土をカバーしていった。そんなエルフ族とは一緒にしないで欲しいと言っているのだ。

「では、聖女云々の話はどうやって各国と話をつけていたのですか?」

 言われてみればそうだ。イーリスクロムは聖女をお披露目する為の場を設けると言っていた。ならば、その情報の通達はされているはず。

『はぁ。聖女の事は、それこそシャーレン精霊王国の管轄になる。我が国で聖女を囲う代わりに、各国への通達は教会を通して行われている』

 教会が存在する国はエルフ族を通して、情報が伝えられている。となれば、そこに疑問が出てくるのは必然的だ。

「それはもしかして、教会がない国には聖女云々は通達されていないということですか?」

 シェリーは白い板に向かって質問しながら、この場にいる二人の国主に視線を向けた。
 そう、炎国は光の女神を崇めているため、教会は存在しないし、黒を排除するきっかけになった白き神を主として掲げる教会の意を聞き入れるとも思われない。
 そして、ラース公国は女神ナディアを崇めている国だ。だからといって教会が無いかと言えば、存在する。それは、一番上座に座っているミゲルロディアの第一夫人だった者がエルフ族であったがために、作られたものだった。
 ならば、このあたりは伝わっているのだろうか。

「因みにお披露目の日は決まったのですか?」

『それは勿論、花の月の一日だ』

 イーリスクロムの答えにシェリーは炎王に視線を向け、どうだと無言の視線で問いかけてみるも、首を横に振って耳には入っていないことを表した。
 次いでミゲルロディアに視線を向ければ……。

「私は聞いておらぬな。しかし、国を離れていたが故に、耳に入っていないだけかもしれぬ」

 ミゲルロディアはそう言いながら、自分が居なかったときに大公代理であった、オーウィルディアに視線を向けるも、首を横に振られるしまつ。

「くそ狐。他人任せにしているツケが回ってきていますよ。炎国もラース公国も話は聞いてないそうです」

『え?それは困る』

 困るというのは勿論、聖女自身であるシェリーとそれなりに関係がある国であるからだ。今回はシェリーの我儘で聖女としてはギルドを通さなければ動かないと言っている。ただこれが聖女の我儘というのであれば、各国は受け入れられない。しかし、その後ろにラース公国や炎国がついているのであれば、話は別だ。

 聖女の後ろには鬼の国と言われる炎国。5千年間もの長きに渡って国を維持してきたラース公国。

 その国が聖女であるシェリーの言葉に準じているということが各国に多大なる好意的な印象を与えるのだ。そう、口が少々……かなり悪いシェリーをだ。

「困るのであれば、さっさと動いてください。確か転移門を使えるのでしたよね。イーリスクロム国王陛下」

 シェリーは貶している呼び方から、とても丁寧な名の呼び方に変えたが、聞き間違いようもなく一国の王をパシリにしようとしている。

『転移門を使えるのは否定しないけどね。一国の国王自ら動くのはありえないからね』

 一国の国王をパシリにすること自体がおかしいといわれたシェリーは、すぐさまイーリスクロムに言葉を返す。

「炎王は色々動いていますよ」

『そこは違うと思う』
「いつも言っているが俺は暇ではないからな。佐々木さん」

 二人から否定的な言葉を投げつけられたシェリーは大きくため息を吐く。

「はあぁ。事態は深刻だとミゲルロディア大公閣下が結論付けました。くそ狐の脳みそは腐っているのですか?今日のことをただ単に次元の悪魔が現れただけと捉えているのですか?」

『ただ単にとは思ってはいない。とは言っても現状ではどうしようもないだろう?』

 流石に一度に十体の次元の悪魔が襲撃してくれば、何かあると思って当然のこと。しかし、現状では何ができるのかといえば、何もできることはないとイーリスクロムは口にしたのだった。


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