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26章 建国祭

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 シェリーは天性の才能というものは持っていない。在るのは神々からの加護とこの世界ではない知識だけだ。
 だから、失敗と成功を繰り返して、自分の物にしていくことで、多種多様な魔術やスキルを極めていったのだ。失敗をすれば何が駄目であったかを自己分析し、再び繰り返して自分の望む形に修正していく。

 だからこそ、本来聖女とは戦う存在でないにも関わらず、次元の悪魔を倒すほどの力を得ているのだ。

 元々魔導師としての才能がないシェリーでは、普通の魔導師より転移をするために行う微細な調整が複数に渡って存在している。そこにスーウェンが言っている理屈とシェリーが用いる魔術の齟齬が存在しているのだが、シェリーが自分の転移の方法を開示していないので、誰も知ることがない事実だった。

 転移をする時に普通の魔導師であるのならば、陣に登録座標が組み込まれる。しかし、シェリーはオリバーが仕込んだ決まった転移陣を用いている。ここには座標は組み込まれていない。座標を決めていたのはシェリー自身だ。当たり前だという感じだが、転移陣にシェリー自身を組み込むことで陣を発動しているのだ。
 一番重要な座標を事前に入手したものではなく、シェリーのチート級のスキルと合わせることにより、転移の自由度を上げようというのだ。

 シェリーはシェリー自身の道を行くという行動だ。

「あ……いいえ、私は否定しているのではなく……すみません。置いていかれるのだけは嫌です」

 シェリーに冷たい視線を向けられるのも耐え難いが、番の側にいることができないことは、それ以上なのだろう。スーウェンは転移の危険性を伝えることをあきらめたのだった。

 その姿にシェリーはため息を大きく吐き、転移を発動させる。地面に広がっていた転移陣が輝いた瞬間、その場からシェリーたちの姿は消え去っていた。



「目測で1000メルメートル。計算がずれた?」

 シェリーは落下しながらも冷静に地上との距離を測り、考えを巡らせていた。先程より十分の一の高さにはなったが、転移する場所としては問題がある高度だった。

「グレイ!空の駆け方を教えろ!」

 事前には聞いていたものの、本当に空に放おり出されてオルクスが慌ててグレイに、声をかけている。

「え?空間を蹴ればいい」

 問われたグレイは己のおかれた状況が理解できず、適当に返事を返している。

「火山に登ったぐらいの高さか?いや、もっと低いか」

 リオンは己の知識を総合させて、どれほどの高さから落下しているのか、記憶と照らしあわせているものの、難しいようだ。

「こんな上空に転移など、普通はあり得ません」

 魔導師が転移に多少の誤差が現れるのは地上での出現位置がずれるくらいで、どう失敗したとしても、上空に転移されることがあり得ないとスーウェンは、先程の転移陣に問題があったのかと記憶をたどるも、普段シェリーが使っている転移陣と変わりがなかったことに唸っている。

「さっきより低くなったね。シェリー」

 シェリーとミゲルロディアとの会話をしているときも、4人と合流したときも存在感を消していたカイルだったが、落ちていくシェリーをしれっと抱え込んでいた。

「君たちはそのまま落ちて行くと良いよ」

 シェリーの他のツガイに対して、カイルが言い放った言葉は『そのまま落下して潰れた蛙のようになればいい』という副音声が聞こえてきそうだ。その言葉と同時にカイルは背中に一対の白い翼を生やし、降下速度を落とした。

「カイル!てめぇ!何で空を飛んでいるんだ!」

 距離が離れていくオルクスがカイルに向かって文句を言っている。

「オルクス。カイルは竜人だから翼ぐらい持っているだろう」

 グレイは当たり前のことで何を文句を言っているのかと、ため息をついている。そして、空中でくるりと身体を回転したかと思うと、赤い毛並みの大型犬の姿になっていた。

「わふっ!」

 やはり獣化の姿だと人の言葉を話せない。しかし、そのようなことはグレイは気にせずに、空中がまるで地面のように地上に向かって駆け出していく。先に地上に下りて、地上にいる者たちに説明をするのだろう。

 幾人かが人が空から落ちてきていることに、空を指さしている者たちがいるのだ。

「カイルの奴、絶対にこうなることを知っていたよな」

「そうですね。しかし、私は浮遊の魔術が使えるので、お二人は自力で着地してくださいね」

 空を睨み付けているオルクスに対して、スーウェンは余裕の笑みを見せる。

「なんだと!リオン。もう地面に近づいているがどうするんだ?」

「初代様から空中を自由に移動できないと、悪魔には対抗できないと言われて叩き込まれたから問題ない」

 リオンは慌てる事無く、この状況を分析していたが、そこには慌てる理由は無かったため、冷静だったのだ。

「え?まさか俺だけ飛べないのか?」
「いえ、飛べませんよ」
「飛べるわけではない」

 オルクスが自分だけ飛べないことにショックを受けていると、二人からそうではないとつっこまれたのだった。

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