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26章 建国祭
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第6師団のグレットが第三者が関与した襲撃ではないのかと予想した状態と全く同じ状況にラース公国の公都グリードも陥っていた。いや、シーラン王国よりも状況は悪い。
20体程の次元の悪魔に公都グリードが囲われている状態だった。正確には風竜ディスタによって、人が少ない場所に叩き落とされたのだが、囲まれていることには変わりない。
元々討伐戦の生き残りが多くいる獣人の王国と違い。ほどんどの住人が人族であり、討伐戦を経験した者といえば、大公であるミゲルロディアの弟である、オーウィルディアとその戦友であるディスタのみだった。
本当であるならこのような状況に陥った場合に対して、シェリーは布石を打っていたのだ。
だが、その布石となる勇者ナオフミと聖女ビアンカはこの公都に居なかった。おそらく、シェリーが双子の娘に行ったことが、ナオフミの癪に障ったのだろう。
ただでさえ、この世界の者たちを恨んでいるナオフミだ。家族というべき娘に『一族の掟』というものに従って、己の居ない間に行われたことが許せなかった。ならば、この地に留まることを良しとはせず、元いたところに戻ってしまったのだろう。
その穴埋めを魔導師であるラースの一族が補っているものの、元々彼らは戦う者ではなく、女神ナディアに仕える聖職者の立場の者たちだ。押し止めることで精一杯だった。
そこで一際目立っているのが、深くフードを被った男性だった。体格から若い男性ということが窺える以外、その身を包んだ外套により隠されどこの誰だかわからなかった。
ただ、右手に持つ細い剣はレイピアと呼ばれる対象物を突き刺すための刀剣に見える。
そのレイピアを4メル程の黒い巨体に突き刺し、そのまま抜き去るかと思いきや、腕を上に振るい切り裂いた。外套をまとう姿からは、己の倍以上の巨体を屠るようには見られない。
「兄上」
そこに外套まとった者に声をかける存在がいた。オーウィルディアだ。
巨漢と言っていい肉体を鎧で覆い、身の丈程の槍を担いで外套をまとった者に近づいて行く。
声を掛けられた者はレイピアに付いた黒い巨体の青い体液を飛ばす様に振るい、オーウィルディアの方に顔を向けた。
「なんだ?」
声からは目の前にいるオーウィルディアより若い声だが、その声質には威厳という物を感じとることができる。
「シェリーちゃんが来てくれたから、どうにかなりそうです」
「そうか」
フードから覗き見れるその容姿は、一見すると青年の人族に見えるが、タールを流し込んだような白目のない瞳がその人物を魔人だと証明していた。
大公であるミゲルロディア自らが剣をとり、公都の危機に対応していた。
「女神ナディア様にお伺いしたところ、これ以上の襲撃はないそうです。それから勇者ナオフミは当てにするなともおっしゃられました。白き神の文句が出ておられたことから、ナディア様の白き神への当てつけともとらえられます」
「そうか」
ミゲルロディアはオーウィルディアの報告にただ一言のみを返し、周りを見渡している。他の戦況を確認しているのだろう。
「報告に挙げられた魔眼持ちは5体ですが、それほど強力な個体はいないようです。一族の者たちで対処可能ですが、戦いに不慣れな者たちばかりなのが心許ないということが、私個人の意見です」
「そうだろうが、これぐらいで魔眼の力に頼ろうものなら、ナディア様に叱咤されることだろう。一族の者たちには敵を押し止めるだけでいいと伝えておけ」
そう言ってミゲルロディアは次の標的に向かって駆け出していた。
魔眼を使えば個人が持つ力以上の能力を発揮して、敵を屠ることができる。しかし、闇雲に魔眼を使えば、人体は過度な影響を受け、その身を己自身で破壊することになる。だから、使い所は見極めなければならない。
今回はミゲルロディアは魔人と成った己が剣を持つことで、いともたやすく敵を倒すことが出来たため、魔眼を使う必要性がないと判断した。
そして、これ以上の敵が増えないと言う神託と姪であるシェリーが助っ人に来たということが決めてとなり、次元の悪魔を足止めする者たちと、討伐する者たちとで、この公都グリードの被害を最小限にしようというミゲルロディアの考えだった。
そんなミゲルロディアの背中を見送るオーウィルディアは大きくため息を吐いた。
「はぁ。結局兄上に言い出せなかったわ」
曇天に塞がれた空を見上げたオーウィルディアの視界に白くふわりとした雪が映り込んだ。
「グレイシャルがナディア様のお力で犬になってしまっただなんて」
結局報告にはシェリーが助けに来てくれたとしか言わず、グレイの大型犬化について報告することは保留にしたのだった。
20体程の次元の悪魔に公都グリードが囲われている状態だった。正確には風竜ディスタによって、人が少ない場所に叩き落とされたのだが、囲まれていることには変わりない。
元々討伐戦の生き残りが多くいる獣人の王国と違い。ほどんどの住人が人族であり、討伐戦を経験した者といえば、大公であるミゲルロディアの弟である、オーウィルディアとその戦友であるディスタのみだった。
本当であるならこのような状況に陥った場合に対して、シェリーは布石を打っていたのだ。
だが、その布石となる勇者ナオフミと聖女ビアンカはこの公都に居なかった。おそらく、シェリーが双子の娘に行ったことが、ナオフミの癪に障ったのだろう。
ただでさえ、この世界の者たちを恨んでいるナオフミだ。家族というべき娘に『一族の掟』というものに従って、己の居ない間に行われたことが許せなかった。ならば、この地に留まることを良しとはせず、元いたところに戻ってしまったのだろう。
その穴埋めを魔導師であるラースの一族が補っているものの、元々彼らは戦う者ではなく、女神ナディアに仕える聖職者の立場の者たちだ。押し止めることで精一杯だった。
そこで一際目立っているのが、深くフードを被った男性だった。体格から若い男性ということが窺える以外、その身を包んだ外套により隠されどこの誰だかわからなかった。
ただ、右手に持つ細い剣はレイピアと呼ばれる対象物を突き刺すための刀剣に見える。
そのレイピアを4メル程の黒い巨体に突き刺し、そのまま抜き去るかと思いきや、腕を上に振るい切り裂いた。外套をまとう姿からは、己の倍以上の巨体を屠るようには見られない。
「兄上」
そこに外套まとった者に声をかける存在がいた。オーウィルディアだ。
巨漢と言っていい肉体を鎧で覆い、身の丈程の槍を担いで外套をまとった者に近づいて行く。
声を掛けられた者はレイピアに付いた黒い巨体の青い体液を飛ばす様に振るい、オーウィルディアの方に顔を向けた。
「なんだ?」
声からは目の前にいるオーウィルディアより若い声だが、その声質には威厳という物を感じとることができる。
「シェリーちゃんが来てくれたから、どうにかなりそうです」
「そうか」
フードから覗き見れるその容姿は、一見すると青年の人族に見えるが、タールを流し込んだような白目のない瞳がその人物を魔人だと証明していた。
大公であるミゲルロディア自らが剣をとり、公都の危機に対応していた。
「女神ナディア様にお伺いしたところ、これ以上の襲撃はないそうです。それから勇者ナオフミは当てにするなともおっしゃられました。白き神の文句が出ておられたことから、ナディア様の白き神への当てつけともとらえられます」
「そうか」
ミゲルロディアはオーウィルディアの報告にただ一言のみを返し、周りを見渡している。他の戦況を確認しているのだろう。
「報告に挙げられた魔眼持ちは5体ですが、それほど強力な個体はいないようです。一族の者たちで対処可能ですが、戦いに不慣れな者たちばかりなのが心許ないということが、私個人の意見です」
「そうだろうが、これぐらいで魔眼の力に頼ろうものなら、ナディア様に叱咤されることだろう。一族の者たちには敵を押し止めるだけでいいと伝えておけ」
そう言ってミゲルロディアは次の標的に向かって駆け出していた。
魔眼を使えば個人が持つ力以上の能力を発揮して、敵を屠ることができる。しかし、闇雲に魔眼を使えば、人体は過度な影響を受け、その身を己自身で破壊することになる。だから、使い所は見極めなければならない。
今回はミゲルロディアは魔人と成った己が剣を持つことで、いともたやすく敵を倒すことが出来たため、魔眼を使う必要性がないと判断した。
そして、これ以上の敵が増えないと言う神託と姪であるシェリーが助っ人に来たということが決めてとなり、次元の悪魔を足止めする者たちと、討伐する者たちとで、この公都グリードの被害を最小限にしようというミゲルロディアの考えだった。
そんなミゲルロディアの背中を見送るオーウィルディアは大きくため息を吐いた。
「はぁ。結局兄上に言い出せなかったわ」
曇天に塞がれた空を見上げたオーウィルディアの視界に白くふわりとした雪が映り込んだ。
「グレイシャルがナディア様のお力で犬になってしまっただなんて」
結局報告にはシェリーが助けに来てくれたとしか言わず、グレイの大型犬化について報告することは保留にしたのだった。
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