614 / 796
26章 建国祭
601
しおりを挟む
一方その頃シーラン王国-王都メイルーンではシェリーたちが去った後、一人残されたグレットは片手を黒い巨体の右肩のところに突き刺していた。
「残念だったッスね。俺には魔眼は効かないッスよ」
そう言って、右手を巨体の肩から引き抜き、その手には黒い塊を持っていた。グレットはその黒く丸い塊をぐしゃりと握り潰す。
シェリーの刀でも突き刺せなかった次元の悪魔の魔核をいとも簡単にグレットは壊したのだ。流石、蛇人と言ったところか。いや、過酷な討伐戦を生き抜いた者ということだ。
グレットは先程次元の悪魔が落ちてきた空を見上げる。何もない冬の白群色の空が頭上に広がっているだけで、次元の悪魔が出てきた空間など既に閉じて存在していなかった。
「うーん?これはどう考えれば良いっすかね?」
グレットは何か引っかかるようだ。しかし、考えてもわからないものは、わからないと、グレットは周りを見渡す。
新人教育は副師団長のルジオーネ辺りが指揮をとってしているだろうから、グレットは対処できていない次元の悪魔がいるか探しているのだ。
そのグレットに声をかける者がいる。
「グレットが始末してくれたのか」
その声に視線を向けると、同じ蛇人であるヒューレクレトがいた。
「第5師団長。お疲れ様っす!」
「お前いつも言っているがその言葉遣いをなんとかしろ!」
スラーヴァル公爵家の当主であるヒューレクレトからすれば、代々この国を支えてきた一族として、その軽薄な態度が許せないのだろう。
「それで第5師団長はどおしたんっすか?確か南地区の担当だったすよね」
ここは北地区のため、南地区の警備を担当していたヒューレクレトがいるのがおかしいとグレットは尋ねる。勿論、ヒューレクレトの小言は聞こえてはいるが、いつものもとなのでグレットは無視をする。
「はぁ、南地区は第6副師団長が全て受け持つから、手薄な北地区に行くように言われたのだ」
どうやらルジオーネは南地区を新人教育の場として用いるようだ。しかし、一般市民が多く住む南地区での戦闘行為は如何なものかと思えるが、政治的観点から見れば、一番都合がいいのが、南地区だったのだろう。
いや、確かシェリーとユーフィアの通信の背後で侍女のセーラがルジオーネに魔道結界を持っていくと言っていたのはこのためだったと思われた。
「そうなんっすね。でも、この近くにはリベラ軍部指令総監もいるっすから、すでに北地区には次元の悪魔はいないっすね」
そう、この北地区には先程までシェリーと共にいたリベラ大佐がいる。討伐戦の英雄の一人に挙げられる彼女であれば、次元の悪魔など、ゴブリンを捻り潰すが如く簡単に討伐したことだろう。
「なんだ?リベラ大佐がいるのか?ならば、西地区に行った方が良かったか?」
「どおっすかね。ここから戦闘の音が聞こえないっすから、終わっているかもしれないっすね。東地区は派手な音が聞こえるっすから、ナヴァル公爵夫人が出ているっぽいっすね」
北地区から西地区と東地区はそれなりに距離があるが、グレットには戦闘の音が分かるらしい。
「しかし、第5師団長。通信機で連絡とればいいじゃないっすか」
このようなことはグレットに聞かずとも、手が足りないところはないのかと通信すればいいのだ。そもそも今回の為にユーフィアに通信機を作ってもらったと言っても過言ではない。
「むっ。魔道具は好まん」
ヒューレクレトの好みの問題だけだった。これだと、通信機の意味がない。
「そう言えば、お前はなぜ空を見上げていたのだ?」
自分の都合の悪いことを言われたために、ヒューレクレトは話題を変えた。ヒューレクレトがグレットに声をかける前に確かに空を見上げていた。ヒューレクレト自身何かと直感というものを信じるタイプだ。この直感がグレットの大したことがない行動が気になると告げたのだ。
「あ、それっすか?いや、普通に現れたなっと思っただけっす」
普通に現れた。次元の悪魔の名の由来通り、次元を切り裂いて空間を超えて現れたのだ。そこに何を疑問に思うことがあるのだろう。
「まぁ、普通だったな。それが気になったのか?」
「いや、それが年末に団長の家に現れた次元の悪魔と話を聞く限り違うと思ったっす」
「それは、帝国が送り込んできたという、次元の悪魔のことだろう?」
確証は無いものの状況的判断から、帝国の仕業だと決めつけた事件のことだ。
「それなんっすけど、団長の屋敷に現れた次元の悪魔は無理やり空間を固定化して、開き続けたところに、巨体が侵入して転移門が壊れたと聞いたっす。だけど、今回は空はきれいなままっす」
そう言ってグレットは空を見上げ、それに釣られるようにヒューレクレトも青い空を見上げた。
「これは帝国ではない第3者が関わったとみるべきっす。確信は無いっすけど」
グレットは状況から次元の悪魔を送り込んだのは、第3者だと予想したのだった。
「残念だったッスね。俺には魔眼は効かないッスよ」
そう言って、右手を巨体の肩から引き抜き、その手には黒い塊を持っていた。グレットはその黒く丸い塊をぐしゃりと握り潰す。
シェリーの刀でも突き刺せなかった次元の悪魔の魔核をいとも簡単にグレットは壊したのだ。流石、蛇人と言ったところか。いや、過酷な討伐戦を生き抜いた者ということだ。
グレットは先程次元の悪魔が落ちてきた空を見上げる。何もない冬の白群色の空が頭上に広がっているだけで、次元の悪魔が出てきた空間など既に閉じて存在していなかった。
「うーん?これはどう考えれば良いっすかね?」
グレットは何か引っかかるようだ。しかし、考えてもわからないものは、わからないと、グレットは周りを見渡す。
新人教育は副師団長のルジオーネ辺りが指揮をとってしているだろうから、グレットは対処できていない次元の悪魔がいるか探しているのだ。
そのグレットに声をかける者がいる。
「グレットが始末してくれたのか」
その声に視線を向けると、同じ蛇人であるヒューレクレトがいた。
「第5師団長。お疲れ様っす!」
「お前いつも言っているがその言葉遣いをなんとかしろ!」
スラーヴァル公爵家の当主であるヒューレクレトからすれば、代々この国を支えてきた一族として、その軽薄な態度が許せないのだろう。
「それで第5師団長はどおしたんっすか?確か南地区の担当だったすよね」
ここは北地区のため、南地区の警備を担当していたヒューレクレトがいるのがおかしいとグレットは尋ねる。勿論、ヒューレクレトの小言は聞こえてはいるが、いつものもとなのでグレットは無視をする。
「はぁ、南地区は第6副師団長が全て受け持つから、手薄な北地区に行くように言われたのだ」
どうやらルジオーネは南地区を新人教育の場として用いるようだ。しかし、一般市民が多く住む南地区での戦闘行為は如何なものかと思えるが、政治的観点から見れば、一番都合がいいのが、南地区だったのだろう。
いや、確かシェリーとユーフィアの通信の背後で侍女のセーラがルジオーネに魔道結界を持っていくと言っていたのはこのためだったと思われた。
「そうなんっすね。でも、この近くにはリベラ軍部指令総監もいるっすから、すでに北地区には次元の悪魔はいないっすね」
そう、この北地区には先程までシェリーと共にいたリベラ大佐がいる。討伐戦の英雄の一人に挙げられる彼女であれば、次元の悪魔など、ゴブリンを捻り潰すが如く簡単に討伐したことだろう。
「なんだ?リベラ大佐がいるのか?ならば、西地区に行った方が良かったか?」
「どおっすかね。ここから戦闘の音が聞こえないっすから、終わっているかもしれないっすね。東地区は派手な音が聞こえるっすから、ナヴァル公爵夫人が出ているっぽいっすね」
北地区から西地区と東地区はそれなりに距離があるが、グレットには戦闘の音が分かるらしい。
「しかし、第5師団長。通信機で連絡とればいいじゃないっすか」
このようなことはグレットに聞かずとも、手が足りないところはないのかと通信すればいいのだ。そもそも今回の為にユーフィアに通信機を作ってもらったと言っても過言ではない。
「むっ。魔道具は好まん」
ヒューレクレトの好みの問題だけだった。これだと、通信機の意味がない。
「そう言えば、お前はなぜ空を見上げていたのだ?」
自分の都合の悪いことを言われたために、ヒューレクレトは話題を変えた。ヒューレクレトがグレットに声をかける前に確かに空を見上げていた。ヒューレクレト自身何かと直感というものを信じるタイプだ。この直感がグレットの大したことがない行動が気になると告げたのだ。
「あ、それっすか?いや、普通に現れたなっと思っただけっす」
普通に現れた。次元の悪魔の名の由来通り、次元を切り裂いて空間を超えて現れたのだ。そこに何を疑問に思うことがあるのだろう。
「まぁ、普通だったな。それが気になったのか?」
「いや、それが年末に団長の家に現れた次元の悪魔と話を聞く限り違うと思ったっす」
「それは、帝国が送り込んできたという、次元の悪魔のことだろう?」
確証は無いものの状況的判断から、帝国の仕業だと決めつけた事件のことだ。
「それなんっすけど、団長の屋敷に現れた次元の悪魔は無理やり空間を固定化して、開き続けたところに、巨体が侵入して転移門が壊れたと聞いたっす。だけど、今回は空はきれいなままっす」
そう言ってグレットは空を見上げ、それに釣られるようにヒューレクレトも青い空を見上げた。
「これは帝国ではない第3者が関わったとみるべきっす。確信は無いっすけど」
グレットは状況から次元の悪魔を送り込んだのは、第3者だと予想したのだった。
10
お気に入りに追加
1,023
あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。
鍋
恋愛
男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。
実家を出てやっと手に入れた静かな日々。
そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。
※このお話は極端なざまぁは無いです。
※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。
※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。
※SSから短編になりました。

愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!

どんなに私が愛しても
豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。
これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる