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26章 建国祭

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 シェリーはあまりにも耳鳴りのうるささに両耳を押さえる。

「シェリー?どうかしたのか?」

 シェリーの不可解な行動をグレイが目にして、声を掛ける。そのことでシェリーは気がついた。音が小さく聞こえたのだ。ということは、耳鳴りは体調の不良ではなく、外部から発せされた音だと。

 シェリーは発生源を探すべく辺りを見渡すが、建物や遠くに見える外壁。王城がある第一層や第二層の丘。そこに何ら異常は見られない。
 ならばと空を仰ぎ見る。まだ太陽が東に傾いている空は一見では何もないように見える。
 しかし、シェリーの目に歪みが見えた。あのラース公国で初めて遭遇した次元の悪魔が顕れたときのような空間の歪みが。

「グレイさん!下ろしてください!来ます!」

 シェリーのあまりにもの真剣な声にグレイは思わずシェリーを抱きかかえている手を緩める。そして、シェリーはグレイから飛び降りるように地面に立ち、直ぐ側を通り過ぎようとした軍人を掴み、引き止めた。

「うぉ!ラースの嬢ちゃんじゃないっすか」

 顔見知りの第6師団の蛇人のグレットだった。そのグレットにシェリーは詰め寄って焦ったように言う。

「ユーフィアさんが作った通信機を出してください!」
「え?」
「持ってますよね!早く間に合わなくなります!」

 そのシェリーの慌てた姿に、グレットも釣られるように慌てて懐から四角い白い石板を取り出し、直ぐ様シェリーに奪われた。ただの白い石板にしか見えないモノにシェリーは魔力を通し、石板を起動させる。
 そこには数々の名前が記されていたが、その名前を指で画面を滑るように触れながら反転させていく。そして、シェリーはその石板に向かって叫んだ。

「頭上から敵襲!国民の避難と討伐戦経験者は武器を構えてください!」

 シェリーが言い切る前に青い空に黒いヒビが入る。そのヒビがシェリーから見るに10程はあるだろうか。そのヒビを押し広げるように空間が割れ、黒い手が縁を掴んだ。

「ヤバいっす!師団長どこっすか!」

 シェリーの隣で空を見上げてたグレットが慌てて白い石板に向かって叫んだ。クストの指示を仰ごうとしたのだろう。

『グレット。嬢ちゃんに捕まったのか。隊長クラスは個人の采配で動け!それ以下は……クソッ!数が多い!嬢ちゃん!頭上の結界に防御機能はあるのか?』
「ありません。機能は浄化と回復です。ユーフィアさんに渡した“アルテリカの火”であれば、防御可能です」
 
 確かに“アルテリカの火”であれば、エルフ族の攻撃すらも耐えることができた。ならば、次元の悪魔の攻撃も耐えうるだろうが、それを起動させるには時間が足りない。

『あれか!第三層にいる隊長以下の者は各地区の教会前広場に国民を誘導しろ!』

 白い石板から何かを思い出したクストの命令が聞こえてきた。教会前であれば、かなりの広さがあり、人を集めるのには有効ではあるものの、防御としては心もとない。

『あと南地区は西公園と東公園。東地区は技術者ギルド。西地区は冒険者ギルド。北地区は騎士養成学園と魔術学園に設置してある魔道具を国民が避難後に起動させろ!』

 これはもしかしてユーフィアの魔道具のことだろうか。炎王がコピペするように増産した魔道具の防御範囲は100メルメートル。王都を囲うには全く持って足りないが、建物一棟分であれば、余裕で囲うことができるだろう。
 ナヴァル公爵家襲撃事件を受けて、ユーフィアが増産したものなのかもしれない。

 そして、クストの命令に応じるように次々と了解の返事が返されていると同時に、周りの軍人の動きが変わり、街の人々を誘導する声が響き渡ってきた。
 ただ、頭上の空間のひび割れは大きくなり、そこから漆黒の巨体の半分ほどが既に出ている。頭部がなく血管の様な赤い紋様のモノと青い紋様のモノが見受けられる。未だにその色の違いの意味はわからないが二種類の存在がいる。
 だが、この十体の次元の悪魔の中で魔眼持ちがいるかどうかは地上からでは確認できない。

 この王都に居る者たちの中で、どれ程次元の悪魔と戦える者がいるかわからないが、シェリーは自分の頭上にある空間のひび割れから巨体を押し出してこようとしている次元の悪魔に狙いを定め、落ちてきた瞬間に叩き切るために黒刀を亜空間収納のカバンから取り出す。
 しかし、刀を抜こうとした柄をカイルに押し止められてしまった。

「なんですか?」

「あれぐらいは俺がヤるからシェリーは身体を休めているといい」

 カイルはこれ以上シェリーを戦わせたくないようだ。だが、そのカイルの言葉も止められてしまった。

「これぐらいであれば軍に任せてくださいッス。それに、二体か三体ぐらいは新人に任せたいッス。あと、通信機だったッスか?それ返して欲しいッス」

 グレットがシェリーに白い石板を返して欲しいと手を差し出していた。確かに次元の悪魔と戦える者を育てることは必要だろうが、この状況で教育ができるような余裕はあるのだろうか。

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