番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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26章 建国祭

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 時は少し戻り、シェリーはルークとは正反対のVIP席にリベラに案内されていた。シェリーたちがいる場所は日よけの天幕がついており、周りからは隔離されていた。
 しかし、対面にいるルークの姿はその場所からよく見えた。元々一番前に陣取っていたので、目につくのは勿論のことだが、キラキラとした金髪の横に遠目からは黒に見える髪の少年がいれば、どうしても目についてしまう。

「あれ?以前会った子と違う子だよね」

 シェリーの隣にシレッと座ったカイルが、ルークの隣の少年の事を言った。以前会った子と違う。遠目から見てもクストの血が流れていることがわかる少年だが、以前会ったのは、昔から何かとシェリーを敵視している方の息子だ。

「あれは次男のミュゼル君です。師団長さんの血が流れているとは思えないほど、良い子です」

 シェリーが良い子ということは、長男のヴァリーと違ってということだろう。そして、シェリーが褒めるということは珍しいことだ。
 この言葉の裏にはルークと仲良く話している姿から出てきているのだろう。シェリーが初めて目にするルークの友達。実際に友達かと言えば、ルークが先輩と呼んでいたことから違うと思えるが、シェリーからすればルークと仲良く話していることが重要であって、関係性は問題ではなかった。

 シェリーはルークを遠目から堪能していた。だから、気がつくのが遅れたのだ。いや、視界の端に展開されたマップ機能に複数の小さな魔力反応を感知していた。しかし、あまりにも小さく拳程の大きさ程しかなく、それが地図上に放射状に複数移動していた。
 ここは窪地であり、石の頑丈な壁に囲まれた場所であるため、それぐらいの魔力の塊であるのであれば、幾層にもなった石の壁は通り抜けられないとシェリーは判断したのだ。

 だが、闘技場の壁を過ぎても進み続ける不可解な魔力の塊に疑問を覚え、上を見上げるが、日よけの天幕が邪魔をしていた。そうここはVIP席であるため、周りを天幕で囲まれた一角だった。それが仇となった。

 シェリーは慌てて席を立ち、天幕を出て空を見上げる。複数の何かが雨の様に落ちて来ていたのだ。

『雨が降るのよ』

 女神ナディアの言葉がシェリーの脳裏に蘇ってきた。シェリーの真理の目でその空から落ちてくるモノを視る。


『魔導弾』
 目標に向かって自律誘導によって自ら進路を変えながら、魔石の推進装置によって飛翔する誘導弾。

 これは魔力によって打ち出されたミサイルだった。

 唖然と空を見上げるシェリーにカイルが声をかけようとした瞬間シェリーの姿はその場には無かった。

 シェリーはというと、ルークの元に転移をしていた。ルーク指定の転移。
 だた、ルークの魔力を感知出来るほどの距離でないと転移出来ない欠点はあるものの、この場においてはこの転移が役に立つ。
 ルークの前に転移をしてきたシェリーはルークを標的にしたかのように、迫ってきている魔導弾に対して、『最小の盾』を使って弾き返そうと六角形の盾を数枚を並べた。大きさは小さいが全ての攻撃を防ぐ結界だ。

 『最小の盾』に魔導弾が接触した瞬間、弾くと思っていた魔導弾はシェリーの眼の前で爆散した。そう爆散だ。
 それも中から鋭利な小石のような破片が四方八方と飛び散っている。これは散弾ミサイルというものと言えよう。しかし、この瞬間のシェリーにはその様な事は関係ない。背後にいるルークに向かって飛び散る凶器を防ぎきらなければならない。
 時間があるのであれば、如何様にも手を打つこともできたが、直に使えるモノと言えばシェリー自身の身体だった。
 『最小の盾』を正面で構えていたことで、内臓の損傷は無かったものの、右腕が肘の下から飛ばされ、左の太ももが半分えぐれ、左目にかすり、立っていることが不思議な程だった。

 しかし、満身創痍と言っていい状態のシェリーは笑みを浮かべルークを振り返る。

「るーちゃん大丈夫?怪我は無かった?るーちゃんはおねえちゃんが守るから側にいるのよ?」

 シェリーの目には脳内処理されいつものルークに見えていたが、ルークの顔は真っ青で、隣にいるミュゼルはこのような状況に初めて直面したため、ワタワタとしていたが、突如として恐怖に襲われた。それは目の前に現れた殺気をまとう強敵の存在に恐怖したのだ。

 この世界で強者に挙げられる種族の一つである竜人にだ。

「シェリー!早く治療を!」
「シェリー。腕を持ってきたから早く付けてくれ。頼む」

 カイルとオルクスに治すように言われるシェリーだが、その言葉に首を横に振る。しかし、止血をしていない傷から血は流れ落ち続けていた。

 これはカイルが懸念していたシェリーの悪いクセだ。シェリーにとって、命の優先度はルークが一番だ。黒のエルフの予言であったシェリーの死。
 予言の元はシェリーのこういうところから来ているのだろう。だから、カイルはルークを睨みつける。番であるシェリーの命より最優先にするものなど無いと。

 そのカイルが口を出す前にオルクスがルークの側にいるミュゼルを怒鳴りつける。これはオルクスとしてルークを怒鳴るとシェリーに嫌われることになると忖度をしたため、隣にいたミュゼルに怒りを向けたのだ。

「おい!青狼のクソガキ。ルークを連れて頑丈な建物まで突っ走れ!それぐらい出来るだろ!」

 己の父親と変わらない強者から向けられた殺気と言葉に、ミュゼルのフサフサの尻尾は内側に丸まる。強者には逆えないというものが本能として刻まれている獣人にとって、二人から殺気を向けられたミュゼルは彼らに逆らうことは出来ない。

「青狼。ルークを抱えて立ち去れ!」

 カイルのこの言葉にミュゼルは狼を目の前にして逃げ出すウサギのようにルークを肩に担いで、その場を去っていった。ここにはとどまりたくないと言わんばかりに。

「シェリー。ルークはあの青狼が守ってくれるから、シェリーはその傷を早く治そう」

 カイルは先ほどとは打って変わって、泣きそうな顔でシェリーに懇願した。この傷は放置すると流石に危険だと。
 懇願するカイルとシェリーの右腕を止血のために押さえながら吹き飛ばされた腕をつけようとするオルクスに向かってシェリーはため息を吐く。まるでこんなことで動揺することが鬱陶しいと。

「はぁ。この魔武器は獣人には通じないようなので、ミュゼル君であれば、避けられるかもしれませんが、これはルーちゃんが掠れば、ただでは済まない武器なのですけど?」

 心配する二人に向かってシェリーはルークの身の安全が最優先なのに、なにを勝手なことをしてくれたのだと文句を言ったのだった。


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