番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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26章 建国祭

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「あの?どちら様でしょうか?」

 ツヴェークはいきなり現れ、名乗ることに意味はないと言った男と知り合いであるような、似通った老人に問いかけた。それも不審者を見るような目をして。
 しかし、ツヴェークからしてみれば、己の結界をいとも容易く、己に感知されないように通り抜けてきた人物に対して、怪しい者を見るような視線を向けるのは致し方がないこと。

「ん?わしか?最近第4師団の顧問になった新参者じゃ」

 新参者……その言葉には語弊があるだろう。しかし、どこの誰かわからないツヴェークにとっては、その言葉が正しいと判断するしかない。いや、顧問と言っている時点で、軍部から要請があった要人だろうことは予想ができる。

「お名前を伺いしてもよろしいでしょうか?」

「今はイスラ・ヴィエントと名のっておるのぅ」

 今は……ということは、本名ではないと言っていることに等しい。また、ツヴェークは名を尋ねたにも関わらず、拒否られた感がある。

「お二人は親族か何かなのですか?」

 ツヴェークの質問の中にはそのような漆黒の髪に血のような赤い瞳を持った者が、という忌避的な言葉も匂わせているようにも聞こえた。

「ああ゛?!」
「こやつと血の繋がりが?どこをどうみれば、そんなように見えるのか、お前の目は腐っておるのか?」

 他種族との婚姻も一般的であるので、同じ色を持ちながら、種族が違う家族がいても何ら不思議ではない。しかし、当の本人たちからすれば、不快極まりないことだ。

「こんな変態と一緒にするな」
「こんな馬鹿犬と同じにしないでもらいたいのぅ」

 互いを貶し合っている二人が、睨み合い殺気をぶつけ合う。

「なんだ?喧嘩売ってんのか?」
「死人が殺せるか試してもよいぞ」

 隣同士で座りながらも殺気が放ち、一触即発かと言う時に、“パンッ”と手を叩く音が緊張の糸を断ち切る。シェリーが殺気立つ二人の気をシェリーの方に意図的に向けさせたのだ。

「役立たずのクロードさんは還ってください」
「ちょっと待て!」
「『解除』」
「まだ……」

 シェリーは容赦なくクロードを世界の記憶の中に還す。シェリーがスキルを解除した瞬間、クロードの姿は跡形もなく消え去り、そこには黒髪の老人しか存在していなかった。

 その老人は突如として跡形も無く消え去った旧友がいた場所を目に留めてから、シェリーの方に視線を向けた。

「そなた、何をしたのかのぅ」

「世界の記憶の残像の構成ですね。それを世界の記憶の海に還したに過ぎません」

 尋ねられたシェリーはいつも通り淡々と説明する。それが、この国の重鎮であった者でも変わらない。

「イスラ・ヴィエント閣下。お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 シェリーはついでとばかりに、初めて会い、互いに自己紹介もしていないイスラ・ヴィエントに質問する。シェリーの不躾な態度も怒ることなく、機嫌が悪そうな表情のままイスラ・ヴィエントは了承した。

「何かのぅ?」

 恐らく機嫌が悪そうな表情がイスラ・ヴィエントの普通なのだろう。表情に対して声には何も感情が乗っていなかった。

「閣下はこの国の危機的な状況をどこまでご存知なのでしょうか?」

「ふむ……おおよその状況は理解していると答えれば満足かのぅ」

 シェリーの機嫌を伺っているようで、小馬鹿にした感じの言い方に、シェリーの周りがざわつく。しかし、シェリーはそれを黙殺し、言葉を続けた。

「20年程前から行われていると思える大量殺戮もですか?」

「それはこの国で奴隷とした者たちの命を使ったものであっているかのぅ?」

 確かにイスラ・ヴィエントは把握をしていたようだ。

「言っておくがあやつらは、色々やっておるぞ。この国は付け入られやすいからのぅ」

 イスラ・ヴィエントから言わせれは、表に出てきてるのは氷山の一角にしか過ぎないということだ。やはり、第0師団を失い、王の耳であり百獣までもを失ったのだ。これは付け入られる隙が出来るというもの。

「なぜ、この様になっても静観されているのですか?」

 一国の重鎮であれば、口出しも可能だったはず。だが、イスラ・ヴィエントは事の成り行きを観ていただけだったと。

「ふん!オレ・・がこの国に留まっている理由はアヤツが、ここにいたからだ。そこの国がどうなろうと、オレの知ったことではない」

 国がどうなろうと知ったことではない。イスラ・ヴィエントはつまらない質問をするなという態度だ。

「知っておるか?あやつは、赤子と言っていい年で、海から自力で浜辺に上がってきたのじゃ。恐ろしいじゃろ?子供心に思ったものだ、本当の化け物とはアヤツのことを言うのだろうなと」


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