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26章 建国祭

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「人の心が動力源というのは可能なのでしょうか?」

 そのような曖昧なものをどう装置に取り込み稼働させるのか。ツヴェークは首を傾げながら疑問を口にする。

 しかし、シェリーは人の心が及ぼす影響を知っているので敢えて口にすることはなかった。そう、この世界は人の悪しき心によって魔の物が発生し、環境でさえ変えてしまう。もし、アーク族が人の心というものが持つエネルギーを抽出するすべを持っていたというのであれば、それを魔道具に転用することも可能だろう。
 だが、本当にそのようなことが可能なのだろうか。

「さて、俺にはわからないことだが、その古代装置は定期的に浄化をしなければ、ならなかったと記載されていた。だが、その浄化装置に不具合が出たため、水源の魔道具と汚水の浄化層の魔道具以外使えなくなったとあった。だから、あってもガラクタにすぎない」

 クロードは使えない魔道具はゴミとして切り捨てればいいと言っているものの、その魔道具を廃棄していなかったあたりは、いつか使える日が来るのではないのかと内心思っていたのかもしれない。
 しかし、水源と汚水の浄化という魔道具が今も動いているということは、これは人の心が動力ではなく、人の魔力が動力源のため、動くことができているのだろう。

「一つ聞きたいのですが」

 シェリーはクロードに向かって尋ねる。

「その手記というものを読めたのですか?」

「……」

 シェリーは失礼な物言いをした。いや、クロードはこの世界の文字を書けなかったのだ。読めるかどうかも怪しいものだ。

「よ……読めたぞ」

 読めたとい言いつつも目をオロオロさせ、脂汗をたらしているクロードがいる。

「読むぐらい……専門用語じゃなければ、読める」

 専門用語ということは、日常会話で使うような言葉は読めたのだろう。しかし、その手記というものは、クロードの態度から読めなかったのではないのだろうか。
 読めなくても内容を知っているということは、誰かに読んでもらったということになるのだが、この国でクロードを慕うものは多く、その辺りは困りはしなかったのだろう。それにクロードには番もいたのだから、番の彼女が率先してクロードのサポートをしていたと思われた。

「そうですか。結界機能が回復すれば、それなりに利点もありそうですが、どうも物理的に壊れているようなので、利用価値は低そうですね」

 物理的に壊れているのは第二層に施された結界であって、第一層も魔道具は壊れてはいない。しかし、シェリーにとって第二層の結界が重要であって、第一層の結界はさほど重要ではない。
 あまり利になる話ではなかったと、シェリーはため息を吐きながら、次の質問をクロードにした。

「それから、第0師団が使用していた建物はどこですか?」

「ん?それは王城の地下だ」

「王城の地下!!」

 シェリーの問いに素直に答えたクロードの言葉にツヴェークは驚いた声を上げた。まさか、第0師団……一万規模の団員を収容できる地下があるとは知らなかったのだろう。

「あの地下な。すっげー面白いんだ。周りは強固な岩盤で守られているから、別のところから侵入される心配はないし、かなり広いが動く歩道オートウォークもあるし、中枢制御室には流石に入れなかったが、温室も広い訓練場もある」

 クロードは少年のように目をキラキラさせて、地下の施設の話をしているが、それは元々アーク族が使用していた場所だと思われる。

「それで、そこにはどうやって入るのですか?」

 その様な施設であるなら、専用キーが必要になるはずだ。中枢制御室があるようなところに誰もかもが入れるとは思われない。

「その管理は第3師団長のシンヴェレスに任せていた……ん?ということは、今は誰も管理していないということか?」

 シンヴェレスという名は以前もクロードの口から出てきたが、クロードが死んでそれなりの歳月が過ぎ去り、討伐戦という多くの者の命を奪っていった戦いがあった後だ。その者もまた生きてはいない。
 それ故、第0師団の存在は忘れされ、管理されているはずだった国の重要事項も忘れされ、クロードという存在をシェリーが喚び出さなければ、きっと誰にも知られることなく、無いモノとして扱われていただろう。

「あー。これぐらいの黒いカード状の魔道具に魔力を登録すれば入れるのだが、お前知らないか?」

 クロードがツヴェークに尋ねてみるも、ツヴェークは首を横に振るのみ。しかし、古代に作られたものとしては、とてもハイテク感ある。そもそも鍵は必要ではなかった。登録した魔力が鍵だったのだ。


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