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26章 建国祭
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シェリーのため息が室内に響き渡った。
第5師団長のヒューレクレトが国王であるイーリスクロムよりも黒狼クロードの方が上位であるような態度を取っていたぐらいだ。死して尚、黒狼クロードという存在は、この国にとって影響力を大きく持つらしい。
そして、イーリスクロムが軍部に口出すことを避けたがっていたことは、軍内部からの反発があったからなのだろう。
しかし、今回のことはイーリスクロムが自ら動いてくれたおかげで、統括師団長を動かして、悪魔の不完全体の始末が行われた。イーリスクロムは国王として己にできることを行ってくれたようだ。
軍内部のことまでは流石にシェリーが口出すことはできないので、改めてツヴェークに現状と行って欲しいことをシェリーは言うことにする。
「第3し……第0師団長さん。マルス帝国は恐らくサウザール公爵の意によって動いていると思われます。本当であれば、サウザール公爵の周りを探って欲しかったのですが、今はマルス帝国に入国すること自体が危険だと判断しました」
「どういうことだ?人族であれば、入国許可は取得可能なはずだ」
シェリーがこれからの仕事に関わる話をするため、今まで第3師団長と言っていたが、第0師団長と言い直し、本来であれば行って欲しかったことを口にした。それは帝国の裏の皇帝と言われているサウザール公爵の周辺調査だった。
しかし、騎士として訓練を行ってきた者に対してシェリーは危険と口にした。
騎士としても軍人としても職について殉じることは、立場上覚悟していることだろう。にも関わらず、シェリーは情報収集よりも人命を優先させた。
「ええ、可能です。夏に一度マルス帝国に入国しましたので、行き来は問題ありません」
ツヴェークの言葉をシェリーは肯定する。そのことはシェリー自身が確認しているため、問題視はしていなかった。では、何をシェリーは問題視しているのかと言えば。
「帝都ウランザール内には監視用の魔道具が至るところにありました。夏に行ったところでは不具合の塊という感じでしたが、今現在どうなっているかは、わかりません。そして、その監視に引っ掛かれば、制御石を用いてこちらの情報を引き出されることになるでしょう」
「監視用の魔道具と言われても私にはどのような物か理解できないが、帝国内で捕まれば恐らく二度とこの国には戻ってこれないということは理解している」
ツヴェークも帝国の軍部が普通ではないことぐらい情報を持っているようだ。
「これは第5師団長さんが感じた違和感だったそうですが、年末に行われた帝国の者の王都内からの排除の際に、帝国の者から次元の悪魔のような異臭がしたらしいのです」
「その言葉に嫌な予感しかしないが……」
「帝国は恐らく人を次元の悪魔に変える何かしらの力を得ているようなのです」
シェリーの言葉にツヴェークはお手上げたと言わんばかりに天井を仰ぎ見た。そう、第3師団は魔術師団と言っていいほど、魔術師ばかりで構成されている。
そう彼らは魔術師なのだ。次元の悪魔に対抗できるのは魔導師であって魔術師ではない。魔導師とは複数の属性を混合させる術を用いる存在だが、ツヴェークはまだ、その域に手を掛けることができていない。
ということは、もし次元の悪魔が現れても対処のしようがないのだ。
「そして、その前に起こったナヴァル公爵家での保護をしていたエルフ族の女性の魔力を使った転移門の発動とその転移門を通じての夜襲に続き、次元の悪魔の襲撃。このことによ「ちょっと待ってくれ!」……」
ツヴェークはシェリーの言葉を遮って、話を中断させた。
「今、とんでもない事をサラッと流そうとしなかったか?」
「これは第6師団長さんから直接、連行してきた国王陛下に報告してもらいましたので、ナヴァル公爵家の件は処理済です」
ツヴェークはシェリーの言葉に頭がいたいと言わんばかりにこめかみを押さえだす。
「質問なのだが、エルフ族の女性の魔力を使った転移門とはどういうモノだ?」
「そのままですが?」
シェリーは何も説明は必要ないと言わんばかりの態度だが、そもそも一般的に転移門という物は存在せず、使用できる者もほんの一握りの者だけなので、どういう仕組かは理解し難いものだ。
「私が知る転移門は遥か昔に存在したエルフ神聖王国時代の産物だ。それも使用権限が決められているので、どういう物かが理解できない」
一般論からいえば、使われることのない遺跡に近い産物なので、転移門と言われてもピンと来ないのだろう。
「ユーフィアさん曰く、膨大な魔力を使って空間の固定化を行い、現在地と目的地の空間を繋げると言っていましたが、空間の固定化は解除するとその反動で空間圧縮が起こり、その被害は甚大になるそうです」
「それを帝国が自由に使えると言っているのか?」
「自由ではなく、エルフ族という高魔力の存在を媒体にしなければ成り立ちません」
シェリーの言葉にツヴェークは背もたれに身を預け、それはエルフ族のさえいれば自由に転移門なるものを使えると言っているのではないのかと、ため息を吐いたのだった。
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