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26章 建国祭

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「そもそも第0師団とは無理があるでしょう。人族に諜報をさせるなんて、何のために第4師団があると思っているのです。なくても良いと判断された師団を貴女が立て直す意味などないでしょう」

 一般人であるシェリーが何を勝手なことを言っているのかということだ。
 恐らく彼は第3師団を別けることを反対している者の一人なのだろう。

「はぁ」

 シェリーのため息が聞こえてきた。第0師団の内容と訓練方法等を黒狼クロードに書かせ、それを翻訳したものを第3師団長に渡したはずであり、その内容を一度は目を通したものの、始めから否定的な視線で読んでいるため、肝心なところを抜かして読んでいることに、ため息が出たのだ。決してシェリーの背後でピリピリと殺気立っている彼らにではない。

 シェリーは鞄から一枚の紙を取り出して、目の前の第3師団をまとめる者たちに見えやすいように掲げる。

「何を言われようが構いませんが、第0師団を再編することに国王陛下から許可と師団長と同等の権限を譲渡されています」

 第3師団長であるツヴェークは一度目にしているため驚きはしないが、背後に控えている第3副師団長は信じられないという視線を掲げられた紙に向けている。

「それはおかし過ぎるのではないのですか?軍事に一般市民の意見を取り入れ権限まで与えるとは……それにじ「フォレスタ副師団長!」……」

 ツヴェークは第3副師団長の名を呼び、それ以上言葉にすることを止めた。

「国王陛下が決定されたことに、我々が口出しをすることはならない」

 いち軍人として国王であるイーリスクロムがサインをしてまで決めたことに、異を唱えることはあってはならないとツヴェークは言うが、フォレスタと名を呼ばれた男はとても不服そうな表情をしている。

「それから、ナヴァル公爵邸に呼び出されたときに気づかなかったのか?そもそも一般人は第一層には入れないし、陛下と共に同じ席につくこともできない。理解したら、黙って待機していろ」

 ツヴェークの言葉は一部は正しいが、正しくないところもある。ハッキリと言えば、今のシェリーに身分というものはなく、一般人であるので、フォレスタの言い分が正しい。……が、血筋というものから見れば、他国の国主の姪にあたるため、国王と同じ席につける。ただ、イーリスクロムがそのようなことを考えて同じ席に大人しくついたのかと言えば、違うだろう。やはり一番は勇者ナオフミの子という勇者の影に対して脅威を感じたからに他ならない。

 部下であるフォレスタに口を閉じるように強く言ったツヴェークはシェリーに向かって頭を下げた。

「部下が申し訳ないことを口にした」

 確かにツヴェークに渡した第0師団のあり方を書き出した資料を読んでおきながら、その重要性を理解していないことは、副師団長として上に立つ者としては如何なものかと思わざる得ない。
 いや、恐らくツヴェークが頭を下げているのはフォレスタが言おうとしたその先の言葉だろう。何をフォレスタが口にしようとしたのか、それは『人族の姿をしておきながら黒をまとっているとは、まるでおとぎ話の魔人のようだ』と。
 実際フォレスタはナヴァル邸から第3師団の詰め所に戻ってきたときに、上司であるツヴェークに言っていたのだ。

 『あの魔人の姿をした者と何を取り引きしたのですか』と。

 まるで、悪魔との取り引きをした愚か者を見るような目で上官であるツヴェークを見て問いただしていたのだ。
 しかし、ツヴェークとしては気になる女性の写真を受け取っただけとは言葉にすることはできないので、正当な取り引きだと言うことに留めたのだ。

 フォレスタとしてはそこも気に入らなかった。上官であるツヴェークが外部の全く関係ない一般人の言葉に素直にうなずき、第3師団長という地位を捨てて、第0師団長に収まることも、そして魔人のように黒をまとった女性がまるで己が全ての中心であるかのように事を決め、進めていくことも気に入らなかった。

 それを口にしようとしていたのだが、ツヴェークがフォレスタの言葉を遮り、シェリーを貶す言葉はシェリーの耳には入らなかった。いや、これは星神ステルラの加護によるものだった。

 黒髪を理由にシェリーをおとしいれようとする言葉は星神ステルラの加護により、シェリーの耳には入れないようにツヴェークが止めに入るという行動が行われたのだ。

 神の加護は絶対だ。星神ステルラの願いを乗せた加護は誰にも知られることもなく役目を果たしていた。

「シェリー・カークス。本日をもって私は第3師団長の任を辞し、第0師団長としての任につく。国王陛下から直接的な任務はシェリー・カークスから指示を仰ぐようにと言われているので、よろしく頼む」

 そう言ってツヴェークは下げていた頭をさに下げて言い切った。これはシェリーの下につくということだろうか。

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