579 / 797
26章 建国祭
566
しおりを挟む
クストの言葉にシェリーは思い出したかのように、カバンから書類が入っている大きめの封筒を取り出し、ヒューレクレトに差し出す。
「これは奴隷にされたエルフ族の一覧です。今王都の中に居ないのであれば、入れないように徹底させてください。しかし第6師団長さん、仕事が早いですね。王都内にエルフ族の奴隷がいるかどうかを早々に調べ上げられるなんて」
やはり、ナヴァル公爵邸の敷地内で転移門の固定が行われたことには相当な危機感を抱いたのだろう。
「ユーフィアに頼めば直にわかった。奴隷の制御石の波長は独特らしいから、その中で高魔力者はいないと言われた」
魔神リブロの加護を得たユーフィアには王都内の魔力感知など容易いことなのだろう。
「だから、転移門で王都内に現れる次元の悪魔は存在しない」
転移門ではと条件をつけたのは勿論名前の由来となっている次元の狭間から突然現れるからだ。そうなれば、武力を行使して倒すしかない。
「そうですね。ですが、第5師団長さんの言葉の意味を考えてください。人とは逸脱した力を使おうとして爆ぜた肉体から悪魔のような異臭がしたと」
「ん?さっきも言ったがその話は初耳だ。ヒューレクレト。これを上に挙げて無視をされたのか?」
険しい表情のクストがヒューレクレトに尋ねる。クストも薄々ながらこのことに対する危機感を感じているようだ。
「無視というか。今はそんなことに構っている場合ではないと言われた。国王陛下にも取り次いでもらおうとしたが、忙しいと言われて断れ……何とかアポイントメントをとって、イスラ・ヴィエント閣下に相談すれば、今が肝心なときだから動けとしか言われず、追い返されてしまったのだ」
イスラ・ヴィエントという御仁も薄々何かを掴んでいるのだろう。討伐戦に参戦せずに静観していたと言われる人物は、もしかしたら初めからその討伐戦が何者かの意図によって作られた戦いだとわかっていたのかもしれない。
しかし、ヒューレクレトはそれなりに動いていたようだ。だが、所詮一師団長の言葉を真剣に取り合ってくれたのは、今では外部の者であるイスラ・ヴィエントという御仁だけだった。
「恐らくその異常な力を得た者たちは、次元の悪魔に成る者たちだと予想できました。これはオリバーにも確認したことで間違いはないと思います。何らかの力を得た者たちが次元の悪魔に成るということです」
「「な!」」
「え?聞いていないけど?」
「それって少し無理がありますよね?」
「今度は人が次元の悪魔に成るって言っているのか?」
「そもそも頭はどこに行ったんだ?」
シェリーの言葉にクストとヒューレクレト以外からも声が上がった。それは事が起こったときに、カイル以外がシェリーの側にいなかったために、他の4人は何も知らず、カイルから距離を取っていたため情報の共有が行われていなかった為に起こった当然の結果だった。
「帝国の者たちの排除は一番に掲げ、行わなければならないことです」
シェリーはそう締めくくった。人が次元の悪魔に成ると聞いても、実際に変化途中を見たグレイとオルクスは多少なりとも理解はできるようだが、他のクストとヒューレクレトは難しいそうな顔をしており、スーウェンとリオンは困惑したような顔をしている。
「嬢ちゃん。あの魔導師長がそう言ったのか?」
クストが【あの魔導師長】と称したのは勿論オリバーのことである。
「そうと言いましたが?」
シェリーは何度も同じことを言わせないで欲しいと言葉にする。だが、クストとヒューレクレトからすれば、その事が大事だったようで、段々焦ったような顔色になってきた。
「おい、祭り本番まで残り1日半だ。時間がないぞ。どうするクスト」
「警備の配置を見直そうにも次元の悪魔となると戦える者は決まってくるからな」
師団長である二人は真剣に考え始めたが、祭りの期間は10日程あり、決して次元の悪魔が現れるとは決まってはいない。しかし、突然次元の悪魔を送り込んできた帝国に絶対という言葉はあり得ず、その対策は打っておかないといけない。
だが、残り1日半で何ができるだろうかということだ。次元の悪魔の核を破壊することのできる存在もまた、ほんの一握りしかいない。
「ユーフィアさんに通信機を作って貰えばいいのでは?」
シェリーがどうすべきか思案している二人に対策案を言った。
そして、ユーフィアに作ってもらったスマホモドキを二人に見せる。
「これはルーちゃん専用に繋がる通信機です。ユーフィアさんなら一定周波数で通信できる物を作れるのではないのでしょうか?これを隊長クラスに持たせて、何かあれば通信機で報告し、師団長さんたちが対応するでいいのではないのですか?」
その言葉に師団長二人は顔を合わせて、二人の声が重なった。
「「通信機という物の詳しい説明を!」」
1日でユーフィアがどれほど量産できるか分からないが、通信機が第5師団と第6師団に導入されることは確定したようだ。
「これは奴隷にされたエルフ族の一覧です。今王都の中に居ないのであれば、入れないように徹底させてください。しかし第6師団長さん、仕事が早いですね。王都内にエルフ族の奴隷がいるかどうかを早々に調べ上げられるなんて」
やはり、ナヴァル公爵邸の敷地内で転移門の固定が行われたことには相当な危機感を抱いたのだろう。
「ユーフィアに頼めば直にわかった。奴隷の制御石の波長は独特らしいから、その中で高魔力者はいないと言われた」
魔神リブロの加護を得たユーフィアには王都内の魔力感知など容易いことなのだろう。
「だから、転移門で王都内に現れる次元の悪魔は存在しない」
転移門ではと条件をつけたのは勿論名前の由来となっている次元の狭間から突然現れるからだ。そうなれば、武力を行使して倒すしかない。
「そうですね。ですが、第5師団長さんの言葉の意味を考えてください。人とは逸脱した力を使おうとして爆ぜた肉体から悪魔のような異臭がしたと」
「ん?さっきも言ったがその話は初耳だ。ヒューレクレト。これを上に挙げて無視をされたのか?」
険しい表情のクストがヒューレクレトに尋ねる。クストも薄々ながらこのことに対する危機感を感じているようだ。
「無視というか。今はそんなことに構っている場合ではないと言われた。国王陛下にも取り次いでもらおうとしたが、忙しいと言われて断れ……何とかアポイントメントをとって、イスラ・ヴィエント閣下に相談すれば、今が肝心なときだから動けとしか言われず、追い返されてしまったのだ」
イスラ・ヴィエントという御仁も薄々何かを掴んでいるのだろう。討伐戦に参戦せずに静観していたと言われる人物は、もしかしたら初めからその討伐戦が何者かの意図によって作られた戦いだとわかっていたのかもしれない。
しかし、ヒューレクレトはそれなりに動いていたようだ。だが、所詮一師団長の言葉を真剣に取り合ってくれたのは、今では外部の者であるイスラ・ヴィエントという御仁だけだった。
「恐らくその異常な力を得た者たちは、次元の悪魔に成る者たちだと予想できました。これはオリバーにも確認したことで間違いはないと思います。何らかの力を得た者たちが次元の悪魔に成るということです」
「「な!」」
「え?聞いていないけど?」
「それって少し無理がありますよね?」
「今度は人が次元の悪魔に成るって言っているのか?」
「そもそも頭はどこに行ったんだ?」
シェリーの言葉にクストとヒューレクレト以外からも声が上がった。それは事が起こったときに、カイル以外がシェリーの側にいなかったために、他の4人は何も知らず、カイルから距離を取っていたため情報の共有が行われていなかった為に起こった当然の結果だった。
「帝国の者たちの排除は一番に掲げ、行わなければならないことです」
シェリーはそう締めくくった。人が次元の悪魔に成ると聞いても、実際に変化途中を見たグレイとオルクスは多少なりとも理解はできるようだが、他のクストとヒューレクレトは難しいそうな顔をしており、スーウェンとリオンは困惑したような顔をしている。
「嬢ちゃん。あの魔導師長がそう言ったのか?」
クストが【あの魔導師長】と称したのは勿論オリバーのことである。
「そうと言いましたが?」
シェリーは何度も同じことを言わせないで欲しいと言葉にする。だが、クストとヒューレクレトからすれば、その事が大事だったようで、段々焦ったような顔色になってきた。
「おい、祭り本番まで残り1日半だ。時間がないぞ。どうするクスト」
「警備の配置を見直そうにも次元の悪魔となると戦える者は決まってくるからな」
師団長である二人は真剣に考え始めたが、祭りの期間は10日程あり、決して次元の悪魔が現れるとは決まってはいない。しかし、突然次元の悪魔を送り込んできた帝国に絶対という言葉はあり得ず、その対策は打っておかないといけない。
だが、残り1日半で何ができるだろうかということだ。次元の悪魔の核を破壊することのできる存在もまた、ほんの一握りしかいない。
「ユーフィアさんに通信機を作って貰えばいいのでは?」
シェリーがどうすべきか思案している二人に対策案を言った。
そして、ユーフィアに作ってもらったスマホモドキを二人に見せる。
「これはルーちゃん専用に繋がる通信機です。ユーフィアさんなら一定周波数で通信できる物を作れるのではないのでしょうか?これを隊長クラスに持たせて、何かあれば通信機で報告し、師団長さんたちが対応するでいいのではないのですか?」
その言葉に師団長二人は顔を合わせて、二人の声が重なった。
「「通信機という物の詳しい説明を!」」
1日でユーフィアがどれほど量産できるか分からないが、通信機が第5師団と第6師団に導入されることは確定したようだ。
10
お気に入りに追加
1,023
あなたにおすすめの小説

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

婚約破棄はこちらからお願いしたいのですが、創造スキルの何がいけないのでしょう?
ゆずこしょう
恋愛
「本日でメレナーデ・バイヤーとは婚約破棄し、オレリー・カシスとの婚約をこの場で発表する。」
カルーア国の建国祭最終日の夜会で大事な話があると集められた貴族たちを前にミル・カルーア王太子はメレアーデにむかって婚約破棄を言い渡した。

【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど
monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。
でも、なんだか周りの人間がおかしい。
どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。
これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる