番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
561 / 795
25章-4 冬期休暇-悪魔という存在

548

しおりを挟む
「オルクス!」

 グレイはオルクスの名を叫んだ。だが、逆にその声が黒い球体の中にいたモノの気を引いてしまった。

 オルクスが切り裂いた黒い殻の隙間から血のような真っ赤な瞳がグレイの姿を捉える。
 その視線にグレイは若干足を引いてしまったが、踏みとどまった。だが、得体のしれない者に畏怖を感じてしまったのは事実。

 黒い殻の隙間から、白い指が出てきて、その縁を掴み広げている。その姿にグレイは疑問に感じた。黒い腕が出てきたと思ったが、それは気の所為だったのかと。しかし、オルクスの剣を止めた存在に変わりはない。

 双剣を握る手に力を込めた。そして、オルクスを一撃で伏せた存在をグレイは見定めるように視線を向ける。白い手が黒い殻を壊すように押し広げ、その姿が顕わになった。

 鳥人のような翼が一対背中から生えている。しかし、片翼は純白に輝いているが、もう片翼は光を全て吸い込んでしまったような漆黒の翼だった。白と黒とがまだらに入り混じった長い髪の隙間から血のような赤い目がグレイを見ている。
 そして、一枚の布を巻き付けたような衣服を身に着けていた。顔と右腕は白い素肌だが、左腕と足元は漆黒の皮膚をしており、青い血管のような紋様が浮き出ていた。

 その姿にグレイは内心どうしたらいいものかと迷っていた。この剣を奮うべきか、オルクスを助け出して逃げるべきか。

 グレイは目の前に現れた存在に若干逃げ腰になってしまっていた。それは、相手の姿が異様だったからではなく。どうみても、女性の姿だったからだ。
 そうグレイの目の前に現れた不完全な悪魔は体つきから女性とわかる姿だったのだ。

『ーー!!ーーーーー!』

 その不完全な悪魔から怒りを訴えるような声が聞こえるが、言葉としては理解できず、ただ叫ぶような声が辺り一帯に響き渡る。

 そして、白と黒の翼を大きく広げ、水面を滑るようにグレイに向かってきた。だが、その行手を水柱が高く立ち上り遮る。突如として湧き立った水に不完全な悪魔は高く舞い、直撃を避けた。

「あー!外した!」

 その水柱の中からオルクスが飛び出てきて、空中で方向転換をし、水面に着地をしてグレイがいる陸地に戻ってきた。

「アレはなんだ?」

 初めて見る存在にオルクスはグレイに確認した。しかし、グレイも初めて見る存在のため、わからないと首を横に振る。

「ただ、わからないけど、あの紋様はヨーコさんのダンジョンで見せられた幻影のやつと似ている」

「確かに言われて見れば、似ているかもしれないけどなぁ。禍々しさは感じないぞ」

 水滴で地面を濡らしているオルクスが額に張り付いた前髪が鬱陶しいと言わんばかりにかき上げながら、答える。

 禍々しさ。陽子のダンジョンで、シェリーと炎王とオリバーの力を使って再現した完全体の悪魔は、炎王すらもその禍々しさを感じるほど完璧な術で再現されたものだった。それに比べれば、目の前で空中で浮遊している存在は、同じモノとは思えないほど劣化していた。いや、だから不完全な悪魔なのだ。

 その存在が奇声を上げながら、グレイとオルクスに向かって滑空してきた。そして、黒い左手から鋭い長い爪を生やし、グレイに向かって振るってきたが、身体を斜めにして避けたところに、一太刀を浴びせようと、死角になる斜め下から双剣の片割れを奮うも、空に逃げられ距離を取られしまった。

「なぁ、あれズルくないか?」

 空に逃げた存在に指を差していう。
 はっきり言えば、グレイとオルクスの方が、分が悪い。彼らは獣人のため、空は飛べない。となると、空に逃げられれば、手足もでないということだ。

「オルクス。ズルいという表現はおかしくないか?」

 グレイはというとどう戦うべきかと考えをめぐらせていた。そして、オルクスはというと、少し膝を折り上空で浮遊するものに狙いを定めている。助走を付けずに跳躍し、空中に浮遊するものに向かって剣を振るうも、身体を傾けられ簡単に避けられてしまった。
 空中で方向転換が適わないオルクスの剣は空を切るのみ、多少身体をひねったぐらいでは、剣の間合いに浮遊する存在はいないのだ。

 落ちていくしかないオルクスを見ていたグレイはふとシェリーの言葉を思い出す。

 魔力があるのに、どうしてそれを使った戦い方をしないのだと。

 そして、黒狼クロードの戦いをよく見ておくようにと。

 その黒狼クロードの理解不能な言葉。『うーん?こうギュッとして、ブワってなってズドーンって感じか』
 そのクロードは1対4でグレイたちを相手にしたときに様々な技を見せてくれた。その一つが空を駆ける獣の姿だ。

 身体を獣化させるには、何が必要なのか。グレイの記憶の中で一番トラウマになっている映像が浮かんできた。ラース魔眼によりケモノ化した獣人の姿だ。その力は力に振り回されるケモノそのモノ。

 英雄ソルラファールを祖とする金狼の力。
 ラースの一族が持つ膨大な魔力と女神ナディアの

 これはグレイシャル・ラースしか持っていない力の根源だった。


________

読んでいただきましてありがとうございます。
1月頑張りすぎて、長編の方がおろそかになってしまっている白雲です。日曜日サボったツケを食らっておりまして、日々書き書きしなければならない状況に陥ってしまいました。
いつもの時間に投稿が無かったら、寝落ちしたなと思ってください。
なるべくその日の内には上げる努力をします。
誤字脱字のチェックもれは後日訂正します。新しい物を書きたい衝動を押さえられなかった白雲が悪いのです。すみません。


ぐふっ!もう駄目です。
次はグレイかー……ぐー……はっ!寝てた?
うーん……ぐー……はっ!寝てた。
をこの二時間ほど繰り返したので、10日11時投稿を断念します。できるだけ、その日の内に上げます。

流石に連日3時間睡眠はきついようです。……また意識が……ぐー。

代わりに近況ボードでSSSを投稿しておきます。討伐戦時代のグローリア国の青年が悪魔から逃げる話です。近況ボードの『SSS投稿予告』であらすじを書いています。……ぐー。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな
恋愛
 四大公爵家の一つレナード公爵家の令嬢エミリア・レナードは日本人だった前世の記憶持ち。 記憶が戻ったのは五歳の時で、 翌日には王太子の誕生日祝いのお茶会開催が控えており その場は王太子の婚約者や側近を見定める事が目的な集まりである事(暗黙の了解であり周知の事実)、 自分が公爵家の令嬢である事、 王子やその周りの未来の重要人物らしき人達が皆イケメン揃いである事、 何故か縦ロールの髪型を好んでいる自分の姿、 そして転生モノではよくあるなんちゃってヨーロッパ風な世界である事などを考えると…… どうやら自分は悪役令嬢として転生してしまった様な気がする。  これはマズイ!と慌てて今まで読んで来た転生モノよろしく 悪役令嬢にならない様にまずは王太子との婚約を逃れる為に対策を取って 翌日のお茶会へと挑むけれど、よりにもよってとある失態をやらかした上に 避けなければいけなかった王太子の婚約者にも決定してしまった。  そうなれば今度は婚約破棄を目指す為に悪戦苦闘を繰り広げるエミリアだが 腹黒王太子がそれを許す訳がなかった。 そしてそんな勘違い妹を心配性のお兄ちゃんも見守っていて……。  悪役令嬢になりたくないと奮闘するエミリアと 最初から逃す気のない腹黒王太子の恋のラブコメです☆ 世界設定は少し緩めなので気にしない人推奨。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~

沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。 ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。 魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。 そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。 果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。 転生要素は薄いかもしれません。 最後まで執筆済み。完結は保障します。 前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。 長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。 カクヨム様にも投稿しています。

妖精の取り替え子として平民に転落した元王女ですが、努力チートで幸せになります。

haru.
恋愛
「今ここに、17年間偽られ続けた真実を証すッ! ここにいるアクリアーナは本物の王女ではないッ! 妖精の取り替え子によって偽られた偽物だッ!」 17年間マルヴィーア王国の第二王女として生きてきた人生を否定された。王家が主催する夜会会場で、自分の婚約者と本物の王女だと名乗る少女に…… 家族とは見た目も才能も似ておらず、肩身の狭い思いをしてきたアクリアーナ。 王女から平民に身を落とす事になり、辛い人生が待ち受けていると思っていたが、王族として恥じぬように生きてきた17年間の足掻きは無駄ではなかった。 「あれ? 何だか王女でいるよりも楽しいかもしれない!」 自身の努力でチートを手に入れていたアクリアーナ。 そんな王女を秘かに想っていた騎士団の第三師団長が騎士を辞めて私を追ってきた!? アクリアーナの知らぬ所で彼女を愛し、幸せを願う者達。 王女ではなくなった筈が染み付いた王族としての秩序で困っている民を見捨てられないアクリアーナの人生は一体どうなる!? ※ ヨーロッパの伝承にある取り替え子(チェンジリング)とは違う話となっております。 異世界の創作小説として見て頂けたら嬉しいです。 (❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾ペコ

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...