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25章-4 冬期休暇-悪魔という存在

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 空は二つの月と星々に彩られていた。願いを口にしたルークは空を見上げたまま、神が加護を与えてくれるのを待つ。待つ。···待つ。もう少し待ってみる。

 何も起こらない。

 姉の言葉と父親の言葉を真に受けて、子供っぽい行動を取ってしまった自分自身を自笑するように、笑いが込み上げてきたのか、ふふふっとルークから声が漏れている。

「僕って馬鹿だなぁ」

 そう言って、ルークは勝手口からキッチンを通り、ダイニングに戻ってきた。そこにはニコニコと笑っているいつものシェリーと、目を細めてルークを見ているオリバーがいる。
 馬鹿なことをしてしまったと、顔を赤らめながら、ルークは先程座っていた席に戻る。

「ルーちゃん。良かったわね」

 嬉しそうに笑っているシェリー。何が良かったのだろうか。

「『一星の天冠』か。まぁ妥当であろう」

 オリバーも納得できるという表情をしてる。

「ルーちゃん。ステルラ様からの御言葉よ。『そなたの望むべきことは、蒼海の一粟を手にすることに等しいが、努力が報われぬ訳では無い。神々はそなたのことを見守っておる故に精進するが良い』だそうよ」

 なぜ、ルークではなくシェリーに女神ステルラは言葉を残したのだろうか。いや、そもそも神というものは人の前には出てくることはない。神の加護はただそっと与えられ、気づけば称号が増えていた。そのようなものだ。シェリーやオリバーの方が普通ではない。

 シェリーの言葉にルークは直ぐに自分のステータスを開いてみる。
 先程オリバーが言っていた称号が確かにあった『一星の天冠』だが、称号のため詳細がわからない。どういう加護が与えられたのかルークには知ることができなかった。

「暁の明星のように一等に輝く才は、努力によって報われるという、星神ステルラの慈悲だ。ルーク、お前の努力を後押しするものだ」

 オリバーの称号の説明にルークは少し不満気な表情をする。そんなこと当たり前だと。
 そんなルークの心情を見抜いたのかオリバーからクスッと笑いが溢れた。

「ルーク。勘違いしてはならぬ。神の加護とはそのようなものだ。一柱一柱の加護はほんの細やかもの。だから、言ったのだ我々は生まれながらにして、女神ナディアから加護を与えられている。それ以外に加護が必要かと」

 細やか?オリバーの言葉に若干の疑問を持ってしまう。シェリーは女神ステルラの加護の所為で、かなりの悪影響が出たはずだ。
 いや、女神ステルラが願ったことはシェリーの心を守ること、人々を注目を浴びることになったのは、他の一柱の介入があったからではないのだろうか。例えば煌めく星の輝を女神ステルラが与え、シェリーの持つ魅了眼を女神ナディアが解放したとすれば、辻褄は合う。そう、信仰を集め神としてもかなり位の高い女神ナディアが手を貸したとすれば?そして、モルテ神とオスクリダー神から聖女が困っていると···いや、ここで、予想を語るべきではない。

 そして、オリバーから問われたルークといえば、複雑な表情をしていた。それでも納得ができないのであろう。
 ライターの言葉。ロビンの言葉が、違うと否定してくる。神の加護が得られなければ、習得できない技があるのだ。神の力とは壮大であり偉大であり強力だと彼らの言葉が示しているのだ。
 加護として、努力すれば報われると言われても、それはそうだろうと鼻で笑ってしまうというもの。

「納得していないという感じか。これも言っておこうか。俺の今の加護は1つだけだ」

 オリバーは己の首の茨の紋様を指して言う。

「何百とあった加護は、この首の痣ができた時に全て失い、一つの加護が与えられた。だから、今の俺の加護はたった一つだが、ルークは俺に勝てるか?」

 今度のオリバーの問いにはルークは首を横に振った。そして、驚いたように目を見開き、オリバーの茨の紋様の痣を見る。それはルークが物心が付いたときには、既に存在していたものだ。
 ルークが子供だとしても、13歳になってもオリバーに敵わないということは明白だ。それぐらいの力量のさがあるのだ。

 たった一つしか加護を持っていないとオリバーは言うが、それはこの世界で一番力を持つ白き神からの加護である。それが弱い加護かと問われれば、決してそうではないと首を横に振るだろう。

「何百と加護を得ようが、それを使いこなさなければ意味がない。使えなければ、それは加護があろうがなかろうが同じこと。神々は意味のない加護は与えぬ。ルーク。お前はシェリーと同等の努力をしたといえるか?」

 オリバーの口から、どこかで聞いたセリフが出てきた。
 その言葉にルークは首を横に振る。自分と姉であるシェリーとの力の差は先日、目の当たりにしたばかりだ。年の差にしてみれば5歳という差だが、後5年でシェリーと同じくらいの力を得られるかと言えば、それは厳しいだろう。

「俺もシェリーも何もせずに今の力を手に入れた訳では無い。それに魔剣術も加護があれば習得できるものではない。それ相応の努力をしなければ、力など手に入らぬものだ。そして、扱えきれぬ過度な力は己の身を滅ぼすものだ。肝に銘じておくと良い」

 ここ最近のルークの考えにオリバーは釘を刺す。周りが普通とは違う者たちに囲まれてしまっているが故に、自分もそうだという思い込み。

 しかし、剣を握ったことがない者が剣を扱うことができないように、力を得ようとすれば、それ相応の努力は必要だ。外部から強力な力を得たとしても、それを扱う能力が無ければ、その力に食われるのは自分自身だと。
 若者にありがちの、力さえあれば、自分は何でもできるのではないのだろうかという、過度な自信にオリバーは釘を刺したのだった。

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