番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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「それで、この現状で優先させるべきことはなんだ?」

 クロードは王家の内情を予想し、暴露した。恐らく、冒険者ギルドの受付にどう見ても王族の女性と思える人物がいるのも、そこでの情報収集をするためなのだろう。
 それがイーリスクロムの目であり耳であるのだ。

 クロードはイーリスクロムに問いかける。お前がすべきことはなんだと。戦いは軍部が行う。ならば王であるお前がすべきことは何だと。

 そのクロードの言葉にイーリスクロムから大きなため息がこぼれでた。痛いところを突かれたというところだろう。討伐戦から20年。長いといえば長い時が経過している。生まれた子供が成人する期間だ。

 しかし、討伐戦後のゴタゴタの中、王となり手探り状態で国を治めてきたのだ。その20年はとても短いものだったのだろう。

 イーリスクロムは問われたことに対して、下げていた頭を上げ、クロードを見た。

「確かに僕は王としては不出来だろうね。何もかも。でも、優先すべきことはわかっている。だけど、僕の采配だけで済ませられる許容範囲を超えているんだよ。違うなぁ。人が足りないって感じだよね」

 人が足りない。先王がいた時代と違いイーリスクロムはが一番痛感していることだろう。

「帝国だけじゃないんだよ。ラース公国の勇者の動きも注視すべきだけど、怪しい噂も聞こえてくる。そこのシェリー君は知っているだろうけど、教えてくれないだろう?隣国のモルテ王が動き出したなんて、報告されるし、サヴァン王国の内紛にシュトラール国が絡んでいるし、その辺りでごたつくとヴィーリス国が動き出しそうだし、相変わらずトドール国の船が海上を航行しているのも気になるし、全く手が足りていない」

 イーリスクロムはグチグチと言い出した。帝国だけを注視し、そこに人員を割くわけにはいかないと言っているのだ。確かに国を治める者としては、各国の動きに目を光らせておかないといかない。

「あ゛?サヴァン王国の周辺は放置しておけばいいクラナード公爵が目を光らせているだろ?ヴィーリスが動くのならそれはそれだ。関わる方が馬鹿だ」

 クロードはイーリスクロムの言葉をぶった斬る。全てを目を光らせておくなんて無理なことだと。

「モルテ王が動き出したってどういうことだ?狂王が暴れても国内だけの話だろう?ラース公国も大公は基本的に常識人だから問題ないはずだ」

 クロードはモルテ国も気にすることはないし、ラース公国も大公さえおかしな動きをしない限り大丈夫だという言い分だ。だから、注視すべきは帝国のみだと。

「僕は詳しい話を知らないから、その辺りはシェリー君から説明してほしいものだね」

 全ての情報をシェリーから受けていないイーリスクロムはこの機にシェリーから情報を引き出そうと目論んでいる。大公ミゲルロディアの魔人化したという不確定な情報に、勇者が公都を出入りしているという情報。この詳しい情報は第4師団に調べさせてもわからないことだったのだ。

 イーリスクロムから名前が出されたことで、クロードは横二人からコソコソと話しかけられ、死んだ魚の目をしているシェリーに視線を向ける。そう、イーリスクロムとクロードが真面目な話をしている間、これが終わったら夕方までデートに行こうかと隣の二人からコソコソと話をされているのだが、シェリーは何一つ答えていないという状況だ。

「おい、そこの死んだ目をしている嬢ちゃん。説明しろ」

「お断りします」

 シェリーはクロードの言葉にすぐさま否定の言葉を返した。

「そもそも私は、クロードさんをここに引き止めておく人員ですので、空気のように扱ってください」

「おい!」

「だから言ったではないですか。国全体は無理ですから、王都を出入りしているマルス帝国の者達の監視とエルフ族の奴隷の把握を重点すべきだと」

 シェリーは初めから王都の出入りの監視をすべきだと言っていた。だから、この場に門兵をまとめ上げる第5師団長に来てもらっているのだ。

「それは、他の周辺の街を捨てるっていうことか?」

 そう、シェリーは王都を守れば、他の街は捨ててもいいと受け取れる言葉を言っている。

「はぁ。そうですね。ざっとですが、この王都にマルス帝国の工作員が300人ほど潜んでいるようです。流石に第一層内にはいないようですが、第二層に10人ほどで、残りが第三層ですね」

 シェリーは視線を斜め上に向けながら、言っている。しかし、その言葉に違和感を感じる。第一層内に一人も居ないと。

「辺境で捕らえた人たちは、始末されたのですか?」

 辺境で捕らえた者たち。それはマルス帝国から実験の実行と報告を担っていた者たちのことだった。彼らは第7師団に捕らえられ、王都に連行されたはずだった。

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