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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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「カイル。これはいったいどういうことだ!」

 グレイが低く唸りながら室内に入って来た。そして、カイルの胸ぐらを掴む。

「これは許されることじゃないよな」

 カイルに怒りを向けるグレイ。そんなグレイに勝ち誇ったかのような笑みを浮かべるカイル。その二人にため息を吐くシェリー。
 だからツガイという者は面倒なのだと言わんばかりの表情だった。


 時は少し遡り、グレイがセーラに連れられて、屋敷内を移動していた。それも先程は応接室がある一階にいたのに、今は2階へ連れてこられていた。
 これほどの大きさの屋敷となれば、客室が2階にあるだろうから、客人がうろついていても咎められることはないだろう。しかし、今は誰もすれ違う者はおらず、セーラとグレイのみがこの階にいるような感じだ。

「どこに向かっているか聞いてもいいか?」

 恐らくセーラの中では目的地は明確なのだろうが、グレイからすれば不安しかない。何故なら。見学したいといえば、外に連れていかれるとばかりに思っていたからだ。

「もちろん、よく見えるところですよ!」

 よく見えるところ。確かにグレイは見学をしたいと言った。それはセーラの中では間近で見るということではなく、観戦という意味に捉えられたようだ。

「この廊下の窓からよく見えますよー」

 そこは廊下の突き当りの場所で腰から上ぐらいから大きく明かり取りの窓が存在していた。それもはめ殺しの窓のため、窓が開く構造ではなかった。

 そして、グレイは窓の外を見て、目を見張った。瓦礫と化した建物が端に寄せられ、地面に大きな穴が空いていたのだ。いや、元々は地下があった建物だ。その建物の廃材を全て取り除かれた状態だったのだ。そして、壊れた建物の部屋らしき構造物を破壊したまま銅像のように動かなくなった黒い巨体が3体、立ち尽くしたままいたのだった。
 その近くでは使用人に何かを命じているクストがいる。恐らく瓦礫の撤去の指示だと思われるが、なぜか部屋だったところの壁を壊している者もいる。

 その地上部分ではユーフィアは何やら怪しげな物体を抱えていた。大きな筒のようにも見える。長さは2メルメートルほどだ。

 それを地下の次元の悪魔に向けて標準を合わせているかのようにもみえるが、どうみても大きさ的に手に持つという大きさでなはい。強いて言うなれば、地面に設置すべき大きさだ。

 クストがユーフィアに合図を送ると、ユーフィアが持っていた筒が火を吹いた。そして、動かない木偶の坊と言っていい次元の悪魔の一体が爆散した。その衝撃ではめ殺しの窓が揺れている。

 これを見ていたグレイは思っていたものと違うと感じていた。てっきり一番に消え去ったクストが対処しているのかと思っていたら、凶悪な力の暴力だと言っていいユーフィアの魔道具が火を吹いたのだ。遠い目をしているグレイにセーラはニコニコと笑いながら声を掛ける。

「どうです?奥様の魔道具は素晴らしいでしょ?でも近くいると、慣れない方は、魔道具の余波で気を失う方もいらっしゃいますから、屋敷の中から見てもらうことにしているのですよ」

 セーラはグレイが何を望んでいるかわかっていながら、敢えてこの場に連れてきてユーフィアが魔道具を使っている姿を見せたのだ。これはセーラの意地の悪さが伺える。

「あ、この屋敷内は奥様が開発した魔道結界が展開されておりますので、爆発の熱気を感じることもないですし、衝撃も全て吸収している仕様になっておりますから、安心してくださいね」

 そして、建物内が安全だとアピールをした。

 シェリーが言っていた『見ても参考にも何もなりませんよ』という言葉は本当だったのかと思っているグレイには、そんな話は聞こえていない。期待していた分ショックも大きいのだ。

 その時、突然グレイの中の何かが、危険信号を訴えきてきた。次いで、己の番であるシェリーの繋がりの感覚に何かが混じっている感じがしたのだ。

「何だ?これは?」

 突然の今まで感じたことがない感覚にグレイは戸惑いを覚える。しかし、戸惑っている暇はないと一階の応接室に慌てて降りてきたのだ。

 そして、冒頭に戻り、グレイはシェリーを見て、わかってしまった。シェリーの中にカイルの魔力を感じると。これは番同士で番の儀式を行ったことだと。グレイの何かが訴える。

 『彼らは本当の意味で番になった』のだと。

 そのグレイの“何か”というモノは勿論女神ナディアの天啓だ。お前がさっさと実行しないから、先を越されるのだと。女神ナディアはグレイを憐れみの目でみているのだろう。
 いや、グレイが女神ナディアを頼れば面倒な番の儀式などせずともグレイの望みが叶えられることに気が付かないことを呆れているのかもしれない。何故なら、女神ナディアは愛と美の女神なのだから。

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