489 / 774
25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた
477
しおりを挟む「では、私は帰っていいですか?」
シェリーは炎王から言われたことは終わったとばかりに、いつものように返りたい宣言をする。
「だから、佐々木さん。リオンを置いて帰らないでくれ」
そして、炎王も同じ返事をする。
「ならば、あの者をシェリー・カークスがそのまま転移で連れて帰ればいい。そうすれば、我が無意味にここにいる必要がなくなる」
ユールクスは不機嫌な表情を炎王に向けて言っている。転移で連れて帰るのはシェリーであるはずなのだが。
「ユールクス。そんなに俺がダンジョン内にいるのが嫌なのか?」
「我が今どれだけの不具合の修正をしていると思っている」
炎王の言葉に対してユールクスは炎王に対してクレームを言った。そう、龍人の特性と言っていい世界への干渉する力のことだ。小さな世界だと認識されてしまうダンジョンでは炎王が引き起こす世界への干渉の力がより顕著に現れてしまうのだった。
「それは悪かったが、俺自身ではどうにもならないことだ。だったら、有意義な時間にすればいいってことだろう?あの悪魔の事はどう考える?行動制限だけではなく、何かしらの性質まで変えている大我の意志のことだ。」
炎王の鑑定では【大我の石】という物であるらしい。しかし、以前シェリーが灰色の液体を視たときには別の名で見えたのだ。
【意思なき隷属の触媒】
主の指示を忠実に行動する。意思をなくし生きる屍とする。ただ、指示が無ければ生きることの最低限の行動を取ることができる。
そして、ユーフィアが用いた鑑定でも別の表記になっていた可能性がある。恐らく用いる媒体により誤差が生じているのだろう。
「炎王。その大我の石というものの詳細は視えたのでしょうか?」
シェリーとユーフィアが視た内容に齟齬はなかったが、念の為炎王にも確認を取ってみる。
「ん?ああ、『己を無くし、ただ一つの根幹に沿い行動を起こさせる物』だ」
ざっくりとはしているが、意味的観点からいけば、相違はないようだ。名称の違いは炎王はオリジナルで魔術を作っているから、起こってしまったことだろうか?いや、そもそも作り出された制御石に名など与えられていないのではないのだろうか。だから、真理の目を使うシェリーと創作された鑑定魔術を使う炎王に誤差が生じたのだろう。だが、根本的な違いはないので、これはきっと些細なことなのだ。
「そうですか。性質のことまではわかりませんが、意志を侵食するモノが存在することはユーフィアさんが確認しています。そして、ユーフィアさんの解除権限ではその侵食体までは除去できなかったと聞いています」
ユーフィア曰くカマキリのハリガネムシのような存在だと。意志を乗っ取り、行動を制御する存在。
「んー?それじゃ、次元の悪魔の紋様の色が変化したのはなんだ?何かしらの命令が解除されたから起こった変化なのか?」
「そもそも、悪魔の紋様の色に意味があるのかわからないことなので、この話し合いは無意味なのでは?」
シェリーはバッサリと炎王が出した議題を叩き切った。その事に炎王もわかっていたことなので『そうだよな』と言って項垂れる。
「そう言えば、もう一体の次元の悪魔が向かって来ていると言っていなかったか?」
ふとカイルが思い出したように、ユールクスに尋ねた。そう、出現頻度がおかしい程次元の悪魔がギラン共和国に向かってきているのだ。
「それはもう結界に捕まって、結界内に留まっている」
ユールクスは既に他の一体も結界内で立ち止まっていると答えた。
「その個体も皮膚の紋様が変化したかわかるか?」
「今回のモノは先程のモノより小柄だが、青き紋様が赤に変化したことは同じだった」
何の意味があるのかわからないが、今回も色の変化は起こったようだ。
「考えてもわからないモノは仕方がないのではないのか?それはそういうモノと捉えればいいだけのこと。それにあの結界は100メル間隔に張れるものだから、街道には常時張っておく必要もないだろう?これで、次元の悪魔対策になっているはずだ」
カイルの言葉にユールクスはうなずく。結界内で動かなくなった物体など、いつでも始末はつけられるというものだ。
「だったら、シェリー。俺がリオンを担ぐから、さっさと帰ろう」
珍しくカイルの方から帰る意志を示した。番であるシェリーの意志を汲んでの行動なのだろう。いや、それもあるかもしれないが、話に参加していなかったカイルはシェリーと親しげに話す炎王をずっと睨みつけていたのだ。そう、ただ単に炎王に嫉妬していたのだ。隣には炎王の番であるリリーナが存在しているというのにだ。
カイルのその言葉にシェリーはカイルの膝の上から降りて立ち上がった。
「まぁ、問題点が新たに発覚しましたが、現時点では解決するものではないので、帰らせてもらいます」
ユールクスの要望には応えたと、シェリーは清々しい表情で言った。いや、やっと帰れることに安堵したのだった。
0
お気に入りに追加
1,016
あなたにおすすめの小説
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!
杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!!
※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。
※タイトル変更しました。3/31
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる