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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた
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しおりを挟む「そうですね。ですが、私は必要性を感じません」
シェリーは無表情で同じ言葉を繰り返した。魔眼を使う必要性を感じないと。
「え?佐々木さん。俺にガンガン魔眼を使ってきたよな」
腕にリリーナをくっつけた炎王が呆れたように言ってきた。そう、炎王が持つかなり強固な魔眼耐性はシェリーの魔眼に抵抗しようと付いたものだった。
「それは、突撃してくるアフィーリア避けですから、酷使するほど操っていません。本気で操ると炎国が亡んでしまいますので」
「勝手に亡ぼさないくれ」
超越者である炎王が、最大限の魔眼の力で操られれば恐らく炎国だけで済む話ではなくなるだろう。だからこそ、ラースの魔眼を持つ者は監視され管理されているのだ。
「ですから、魔眼の力は手加減していたではないですか。それに、魔眼を不用意に使いすぎると神罰がくだりますから」
そう、不必要なほど魔眼を使いすぎると、女神ナディアからの制裁が与えられることになる。愚か者に与えられる死という神罰が。
「話に聞く女神ナディアは人に関わりすぎだと思うな。それで、リオンはもしかして、魔眼で力を引き出そうとか考えていないよな」
炎王はユールクスの話に食いついたリオンに、シェリーに向けていた呆れた視線を横にスライドさせた。視線を向けられたリオンは図星を突かれたのか、視線をオロオロとさせている。
「はぁ、リオン。魔眼とはそんなに生易しいものではないぞ。使われたらわかるが、耐性が無いお前では、己の意志すら保てなくなる。なぁ、そうだろう?」
炎王は先程から一言も話すこともなく、シェリーの側にいるカイルに問いかけた。よく、身にしみてわかっているだろうと。問われたカイルは何も言葉にすることなく、苦笑いを浮かべるだけだった。
オーウィルディアとシェリーとの訓練で完全耐性とまではいかないが、魔眼に対して抵抗するまでに至ったカイルだ。しかし、己が犯した愚かな行為を、炎王に対して口に出すことに抵抗があった。魔眼の力に操られ番であるシェリーに剣を向けてしまっていたという愚かな行為を。
いや、炎王自身その場にいて知っているのだ。これはただ単にカイルが炎王に嫉妬して、己の弱みを口に出したくないという、くだらないプライドがカイルの口を塞いでるのだった。
答えないカイルからその話を聞いていたリオンがハッとした顔をする。確かにその様な話をしていたと。だが、しかし···と苦渋の表情をするリオンは炎王とその横にいるリリーナに視線を向ける。
絶対的に敵わない存在とその存在を長きにわたって支えた強者にだ。
「己の可能性を知りたいのです」
リオンは今の己の気持ちを言葉にした。可能性。己にどれほどの力量があるのか。まだ、伸びる余地はあるのか。それとも己は番であるシェリーの足を引っ張る存在でしかないのか。
ここ1、2ヶ月ほどで目の前の絶対的強者以外から味わった挫折。炎国で王太子として存在していたときには感じなかった己の不甲斐なさ。
「ふふふっ。リオンはエン様の庇護下の外に出て変わりましたね」
苦渋の表情をしているリオンを見て微笑みを浮かべるリリーナ。今まで本気で強さなど求めていなかったリオンの変化を喜んでいるようだ。
「エン様の揺り籠は繭に包まれたように優しい籠ですから、子鬼たちは鬼としての本質を忘れてしまったのかと思っておりましたが、強さを求めてこそ真の鬼ですわ。力こそ全て。力こそ正義」
なんだか、リリーナから脳筋的な言葉が出てきた。しかし、逆に言えば炎王が築いた国が争いのない穏やかな国だったと言える。
「いや、リリーナ。あの殺伐とした火山島が俺の国と言われるのは嫌だぞ。繭の揺り籠でいいじゃないか。しかし、可能性か」
炎王は一瞬遠い目をして過去の炎国となる前の島国のことを思い出したのだろう。そして、リオンの言葉に何か納得したようでもあった。
「佐々木さん。ちょっとリオンに魔眼を使ってくれないか?次元の悪魔と戦うことになれば、何れ魔眼に対する耐性は必要だろう?」
「嫌です」
シェリーは間を置かずに、否定の言葉を発した。
「だから、俺に使っていたぐらいの力加減でどうだ?あの次元の悪魔の検証が済んだ後でいいから」
炎王は横目で7メルはありそうな黒い巨体が結界に近づいて来ている姿を指した。
黒い巨体。何か目的があるように怠慢な動きをしながら、まっすぐにこちらの方に足を進めて来ている。
頭部がない巨体の皮膚には血管の様に青い線が這っている。青い線?そこにシェリーは疑問に思った。ユールクスが作り上げた枯れ枝の老人の様な悪魔の皮膚にあった血管のような紋様は確かに青だった。あれは完全の悪魔だからだと思っていたが、シェリーがラース公国で遭遇した『次元の悪魔』は全て赤い血管のような紋様だった。
ならば、こちらに向かってくる『次元の悪魔』は何なのだろう?
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