483 / 774
25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた
471
しおりを挟む
ユールクスに嫌味のような呼び方をされたシェリーは大きくため息をはき出す。
「はぁー。繰り返しになりますが、私は必要だと思えば魔眼を使います。しかし、一つの戦い方に拘りすぎると、それが封じられてしまえば、ただの屍になる未来しかありません」
「屍か。しかし、神の目と言っていい魔眼を誰が封じるというのか?クククッ」
ユールクスはシェリーの言葉がおかしいと言わんばかりに笑い出す。確かに、女神ナディアが与えた力だ。女神の血と力を受け継いだラースの一族の者が普通の人族より勝ることは当たり前だが、そもそも神の血と力を持っている種族など、この世界には他に存在しない。そして、悪魔の持つ魔眼よりもラースの魔眼の方が強力だというのが一般的な常識だ。
ならば、いったい誰がラースの魔眼を封じることができるのいうのだろう。もし、その様なことが実際に起こったとすれば、それはラースの一族の者か、神如き力を持った何者か、神と呼ばれるモノだろう。
「一つ聞きたいのですが····」
笑っているユールクスに遠慮しながら、声をかける者がいた。リオンである。
「先程言っていたことは本当でしょうか?魔眼の力で操られれば最大限の力が引き出されるということです」
そう、ユールクスは言っていた魔眼で操ることで操った者の力を最大限に引き出すことができると。しかし、ダンジョンから出ることが出来ないユールクスがなぜその事を知っているのだろうか。
「ああ、討伐戦後に聞いた話であるがな」
ユールクスは聞いたと言っているが、このギラン共和国全土がユールクスのダンジョンである。いや、西の端にあるエルト以外はということが正確だろう。
そのユールクスが聞いたというのは、恐らく人々の噂話のことではないのだろうか。
「最終戦に参加した者が話していたが、ラースの二人の魔眼の力で操られたことにより、魔王を倒せたと。腹を切り裂かれようが、足がもげようが、腕が潰されようが、皆が戦い続けたと言っていた。己の力に耐えきれず武器の方が先に壊れてしまったと、普段ならあんな力を出せるものではない、流石ラースの魔眼だとな」
「ちっ!」
シェリーはその言葉に舌打ち返す。
そもそもだ。ラース公国を侵略しようと侵攻してきた暴君レイアルティス王の逸話からしてもおかしい話だったのだ。全国民が魔眼に操られ暴君レイアルティス王からの侵略を阻止したという話だ。
一般人が鍛え上げられた兵士を相手になどできるはずなどない。剣を持ったことのない者たちがまともに剣など振れるはずはないのだ。だが、昔話では暴君レイアルティス王を戦いから引かせるまでに至ったのだ。
それはそうだろう。普通であれば四肢の損傷で、戦意を無くし戦える状態でない国民が、自分たちの命を狙ってくるのだ。戦意を無くしてしまうのはどちらの方か。それはレイアルティス王の方だったのだ。『国を守る為にここまでの事を民に課すのか』と。
そして、ユールクスの説明に不快感を示したシェリーだが、シェリーが闘いにおいて魔眼を使うことはあった。それはもちろん猛将プラエフェクト将軍ただ一人だけだ。理由は以前シェリー自身が言っていたとおり聖女の心を蔑ろにした猛将プラエフェクト将軍への嫌がらせだった。
それもまた、死して世界の記憶から構成された存在のため、正確には生きた人ではない。
なにが、シェリーをそこまで魔眼に対して抵抗感をもたせるのか。それは先程ユールクスが言った言葉に原因がある。討伐戦の最終戦だ。
戦えない者まで戦わせる魔眼。その事により何が起こるか。魔眼から解放されれば、死する者が出てくることは勿論のこと、回復できないまでの傷を負う者も出てくるのだ。シェリーがばあやと慕うマルゴのように魔力が通る魔脈が傷付けば簡単には治癒することはできないのであった。
普通ではない異常な状態で戦い続けるということは、体に異常をきたしながらも、戦うのだ。それは魔脈回路も焼き切れるだろう。
「···それは戦いと呼べるものだったのか?」
ユールクスの言葉を聞いたリオンは、その戦況を想像してしまい、若干顔色が悪いようだ。
戦い。いや、彼らは生き残る事など考えてはいなかっただろう。ここで、魔の王を倒すことができなければ、己の家族が、友人が、恋人が、国が、生き残る未来が無くなることに等しかったのだ。
だから、戦いとは呼べるものではなかっただろう。強敵に立ち向かう羽虫の気分だったに違いない。
青狼クストが言っていた『俺たちは強くあらねばならなかった』と。
重い言葉だ。とても、とても重い言葉だ。
強くあることが求められたのだ。
「さぁ、我は実際にその場にいたわけではないので、わからない。だが、魔眼で力が引き出されることは本当だろう?ラースの姫君」
ユールクスはニヤリと笑いながら、シェリーに問いかける。ラースの魔眼は女神の神眼だ。神の力によって力を引き出され、戦わせる神兵と化す力。
神人であるラースの兵と成る力なのだ。
「はぁー。繰り返しになりますが、私は必要だと思えば魔眼を使います。しかし、一つの戦い方に拘りすぎると、それが封じられてしまえば、ただの屍になる未来しかありません」
「屍か。しかし、神の目と言っていい魔眼を誰が封じるというのか?クククッ」
ユールクスはシェリーの言葉がおかしいと言わんばかりに笑い出す。確かに、女神ナディアが与えた力だ。女神の血と力を受け継いだラースの一族の者が普通の人族より勝ることは当たり前だが、そもそも神の血と力を持っている種族など、この世界には他に存在しない。そして、悪魔の持つ魔眼よりもラースの魔眼の方が強力だというのが一般的な常識だ。
ならば、いったい誰がラースの魔眼を封じることができるのいうのだろう。もし、その様なことが実際に起こったとすれば、それはラースの一族の者か、神如き力を持った何者か、神と呼ばれるモノだろう。
「一つ聞きたいのですが····」
笑っているユールクスに遠慮しながら、声をかける者がいた。リオンである。
「先程言っていたことは本当でしょうか?魔眼の力で操られれば最大限の力が引き出されるということです」
そう、ユールクスは言っていた魔眼で操ることで操った者の力を最大限に引き出すことができると。しかし、ダンジョンから出ることが出来ないユールクスがなぜその事を知っているのだろうか。
「ああ、討伐戦後に聞いた話であるがな」
ユールクスは聞いたと言っているが、このギラン共和国全土がユールクスのダンジョンである。いや、西の端にあるエルト以外はということが正確だろう。
そのユールクスが聞いたというのは、恐らく人々の噂話のことではないのだろうか。
「最終戦に参加した者が話していたが、ラースの二人の魔眼の力で操られたことにより、魔王を倒せたと。腹を切り裂かれようが、足がもげようが、腕が潰されようが、皆が戦い続けたと言っていた。己の力に耐えきれず武器の方が先に壊れてしまったと、普段ならあんな力を出せるものではない、流石ラースの魔眼だとな」
「ちっ!」
シェリーはその言葉に舌打ち返す。
そもそもだ。ラース公国を侵略しようと侵攻してきた暴君レイアルティス王の逸話からしてもおかしい話だったのだ。全国民が魔眼に操られ暴君レイアルティス王からの侵略を阻止したという話だ。
一般人が鍛え上げられた兵士を相手になどできるはずなどない。剣を持ったことのない者たちがまともに剣など振れるはずはないのだ。だが、昔話では暴君レイアルティス王を戦いから引かせるまでに至ったのだ。
それはそうだろう。普通であれば四肢の損傷で、戦意を無くし戦える状態でない国民が、自分たちの命を狙ってくるのだ。戦意を無くしてしまうのはどちらの方か。それはレイアルティス王の方だったのだ。『国を守る為にここまでの事を民に課すのか』と。
そして、ユールクスの説明に不快感を示したシェリーだが、シェリーが闘いにおいて魔眼を使うことはあった。それはもちろん猛将プラエフェクト将軍ただ一人だけだ。理由は以前シェリー自身が言っていたとおり聖女の心を蔑ろにした猛将プラエフェクト将軍への嫌がらせだった。
それもまた、死して世界の記憶から構成された存在のため、正確には生きた人ではない。
なにが、シェリーをそこまで魔眼に対して抵抗感をもたせるのか。それは先程ユールクスが言った言葉に原因がある。討伐戦の最終戦だ。
戦えない者まで戦わせる魔眼。その事により何が起こるか。魔眼から解放されれば、死する者が出てくることは勿論のこと、回復できないまでの傷を負う者も出てくるのだ。シェリーがばあやと慕うマルゴのように魔力が通る魔脈が傷付けば簡単には治癒することはできないのであった。
普通ではない異常な状態で戦い続けるということは、体に異常をきたしながらも、戦うのだ。それは魔脈回路も焼き切れるだろう。
「···それは戦いと呼べるものだったのか?」
ユールクスの言葉を聞いたリオンは、その戦況を想像してしまい、若干顔色が悪いようだ。
戦い。いや、彼らは生き残る事など考えてはいなかっただろう。ここで、魔の王を倒すことができなければ、己の家族が、友人が、恋人が、国が、生き残る未来が無くなることに等しかったのだ。
だから、戦いとは呼べるものではなかっただろう。強敵に立ち向かう羽虫の気分だったに違いない。
青狼クストが言っていた『俺たちは強くあらねばならなかった』と。
重い言葉だ。とても、とても重い言葉だ。
強くあることが求められたのだ。
「さぁ、我は実際にその場にいたわけではないので、わからない。だが、魔眼で力が引き出されることは本当だろう?ラースの姫君」
ユールクスはニヤリと笑いながら、シェリーに問いかける。ラースの魔眼は女神の神眼だ。神の力によって力を引き出され、戦わせる神兵と化す力。
神人であるラースの兵と成る力なのだ。
0
お気に入りに追加
1,016
あなたにおすすめの小説
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!
杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!!
※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。
※タイトル変更しました。3/31
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる