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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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「炎王!いったい何をしてくれるのですか!」

 シェリーは共に転移をしてきた炎王に向かって文句を言っている。その炎王はというと、未だに胸ぐらをリリーナに掴まれ、苦笑いを浮かべている。

「私はシーラン王国に帰ろうとしていたのです。横から入って来て転移先を変更するなんて横暴過ぎませんか」

 そう、シェリーは屋敷に帰ろうと転移陣を敷いていたのだ。その転移陣を炎王が変更を加え、転移先の変更を行ったのだ。

「いや、佐々木さんが帰ろうとするからだよな。ってリリーナ、首が締まっている」

「あの?なぜ初代様がこちらに?」

 声をする方をみればそこには戸惑ったような顔をしている3人の姿があった。一人は金狼族のシドだ。もう一人は豹族のリュエルだ。最後の一人は虎族のフェクトスだった。ギラン共和国の重鎮が一部屋に集まっている所に転移をしてしまったようだ。

「あ、すまない。冒険者ギルドの方に転移をするはずだったのだが、座標がずれてしまったようだ」

「炎王が私の転移に割り込んできたからが抜けています」

 シェリーは炎王の言葉に補足を入れる。

「ラースのはなぜ初代様と共にいるのだ?先日ダンジョンから戻ってきたばかりであろう?」

 ギルドマスターであるリュエルがダンジョンから戻って来たばかりで、炎国に赴いていたであろうシェリーに呆れているように声をかけた。

「ユールクスさんが言っていた事を炎王に相談していたのですよ。あの国境を封鎖したいという話です」

「いや、ラースの。ユールクス様も本気でいっていたわけではないだろう?」

 その場にいたリュエルはユールクスの言葉を本気とは捉えてはいなかった。

「ラースの嬢ちゃん。そもそもだ。北側の国境を封じられたら、俺たちは転移でしか移動できなくなる。この国が抱える魔導師はそこまで多くない」

 この国を護る為に存在する傭兵団をまとめるシドからの言葉だ。これは傭兵団で魔導師を抱えているということだろうか。

「ああ、そうですね。炎王にも言ったのですが、一度モルテ王と会談をもちませんか?フェクトス総統閣下」

 シェリーはついでと言わんばかりに、この国を治めるフェクトスにも炎王と同じくモルテ王と話し合いの場を作らないかと提案する。そのシェリーの言葉に三人が唖然とした。

「「「は?」」」

「それは無理なことではないですかね」

 直ぐに頭を働かせ、否定の言葉を出すフェクトス。

「無理ですか?モルテ国の現状は以前お話しましたよね。南の国境が使えるということは、ギラン共和国にとってメリットしかないと思いますが?国境を越えても彼らが襲って来ることはありません」

 ギラン共和国にとってメリットだと言われ、考えるそぶりをするフェクトス。確かに南側の国境が普通に通行できるとなれば、獣人にとっては厳しいマルス帝国を通り抜ける必要は無くなる。もしくは、厳しい山越えルートでエルフ族に気を使いならがら、シャーレン精霊王国の国境沿いを進むことも無くなるということだ。その危険性を回避するために、他国に渡る場合は転移を用いることが多いのだった。

「言われてみれば、その通りなのですが、如何せん以前面会をした時の印象が強く、二の足を踏んでしまいますね」

「無理にとは言いませんが、ユールクスさんが望めば北側の国境を封鎖できる状況は作ることはできると言っておきます」

 全てはこの国の守護者であるユールクス次第だと。今の現状で『次元の悪魔』の存在をいち早く察知し、駆逐できるのはユールクスだけなのだから。

「何だ?北側の国境を物理的に封鎖することが可能になったのか?」

 そこに聞き慣れた声が降ってきた。いや、床からダンジョンマスターであるユールクスが生えてきた。陽子もそうだが、ダンジョンマスターというものは、床から生えてくるのが常識なのだろうか。

「可能にはなるのですが、実際に使用すると問題が発生するかもしれません」

「問題?国境を封鎖できるのであれば、些細なことは目を瞑る」

 ユールクスは少しでも早く国境を封鎖したいようだ。しかし、キョウが見た未来はユールクスにとって些細なことであろうか。

「そうですか。因みに今近づいてきている次元の悪魔はいますか?」

「そうだな。半刻1時間後に1体。3刻6時間後に2体だな」

 都合よくいたというよりも、その数がおかしい程に来ているようだ。やはり、操られているのだろうか。
 シェリーのユールクスの言葉に納得したが、そうではない者達がここにはいた。

「は?いくらなんでも多すぎる」
「ただでさえ、魔物の活動が活発になってきているのに、悪魔狩りまで冒険者をまわせないぞ」
「これはまいりました。賢者様がいらしていてくれたら、まだ対処方法もありましたのに」

 この国の重鎮である3人は国の体制が整わない現状では対処しきれないと、頭を抱えるのであった。

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