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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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「まぁ、ユーフィアさんですから異常に武器の攻撃性が強くなるのは仕方がありません」

 シェリーはユーフィアの作る武器の性能が異常に攻撃的だということは理解していたので、そのあたりは許容範囲だと言葉にした。

「ザックさんの船が無事でよかったと喜ぶことではなのですか?何やら特攻されて船を襲撃をされたとキョウさんから聞きましたよ」

「それもだ。あの公爵夫人は滅茶苦茶だって言ったよな。何で特攻してきた奴らが結界に触れると奴隷の石が外れる仕様にしたんだ。おかげで、こっちは大混乱だ」

「私は結界を張るものを作って欲しいと言いましたので、それ以外の機能の文句はユーフィアさんに直接言ってもらえますか?」

 そこまではシェリーは感知することではない。結果論として、結界が機能として商船がギラン共和国と炎国との間を行き来できればいいのだ。それ以外のユーフィアが作った物の付属機能が引き起こした事は些細なことなのだ。

「ザック。だから、シェリー・カークスに文句を言っても無駄だと言っただろう?それに無事に炎国に着いたのだから、俺はいいと思う」

 キョウがザックに諦めるように肩をポンポンと叩いた。しかし、ザックはまだ文句を言い足りないようだ。『フー』と威嚇の音が漏れている。

「ちょっと待て、ザック。その話だと奴隷だった者が船に乗っているということか?」

 炎王がザックの話に疑問を呈した。そう、奴隷の石が外れたと。ということは、特攻してきた者たちは奴隷から解放され、己の意志で行動することが可能になったということだ。

「あ、そうなのです。その事を相談したく、初代様にお伺いを立てようとまいったのです」

 ザックはシェリーへの威嚇をやめ、炎王に向き直り、本来ここに来た用件を口にした。

「はぁ、本当に帝国は千年前から変わっていない。奴隷だった者たちは帰りにヒュルカの港に寄って降ろしていけばいい」

「エルトではなくヒュルカですか?」

 ザックは自分たちの帰港するエルトの港ではなく、別の港に奴隷たちを降ろすことに疑問を感じた。

「ああ、ヒュルカは首都ミレーテに向かう定期馬車があるから、何処に向かうかは彼らに任せればいい」

 炎王は炎国を護る者であり、他の種族のことに口出しすることではないと、奴隷であった者達を突き放す言葉を口にした。そう、種族には種族の掟がある。炎王が口を出せる種族は一握りだからだ。

「それで、ザック」

「はい!」

「その結界は使えるものなのか?」

「使えますが、これが敵の手に渡れば恐ろしいことになると思いました」

「だから、置型にしたんじゃないか」

 ザックの言葉にキョウが自慢気に言っている。あの時キョウは何かを見て置型の形状にするように言ったのだろう。それはきっと別の形となれば、不具合が起こる未来が見えたのかもしれない。

「ん?置型というと船に置いてきているのか?」

「いや、小型の置型なので持って来ている」

 キョウの懐からただのゴブレットにしか見えな物が取り出された。

「これが?見た目はワインでも入っていそうな容器にしかみえない」

 炎王は差し出されたゴブレットを受け取り、眺めている。そして、何かを読み解くように視線を何もない空間に這わせていた。

「な!これは!佐々木さんこれでいいんじゃないのか?」

 炎王はシェリーに視線を向けて、ゴブレットにしか見えない魔道具を差し出した。

「何がです?」

「国境の封鎖だ。『アルテリカの火』は粉にしなければ使えないと思っていたが、鉱石のままで魔石を発動エネルギー源とすれば、防御も攻撃も可能じゃないか!っんのアリスに騙されていた!」

「炎王よく見てください。それはユーフィアさんの陣があってこそのものです。普通では『アルテリカの火』の炎の防御の力しか引き出すことしかできません」

 シェリーは普通を逸脱したユーフィアだからこそ、鉱石の力を十全に引き出せているのだという。

「じゃ、コピーしよう。材料さえあれば、コピーで作り出させる。『アルテリカの火』に、『竜骨』、『オリハルコン』、『雷獣の魔石』。全部ある。20個ぐらい作ればいいか」

 そう言って炎王は席を立って部屋を出ていった。これもまた常識から逸脱した行動だ。人が作り上げたものをコピーするという発想はこの世界では出てこない。それも20個もコピーで作り出そうとしているようだ。
 そんな、炎王を横目で見送ったザックはシェリーに向かって頭を下げる。

「色々言いたいことはまだあるが、これのおかげで船を出すことができた。感謝している」

「私は、いつもどおり商品を届けてもらえばそれでいいですよ」

 シェリーはそんなザックの頭を眺めながら、淡々と答えた。そう、元々シェリーがこの結界をユーフィアに作ってもらおうとした理由は、フィーディス商会の商品が届かないことが困るという、個人的な理由だけだった。


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