472 / 797
25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた
460
しおりを挟む「さぁ、私はユールクスさんから聞いただけですので、実際にその不可解な行動を見たわけではありません。それでですね。国境の物理的封鎖が可能かどうか聞きに来たのです」
シェリーはユールクスが言っていた国境の物理的封鎖を炎王にできるかどうか聞きに来たようだ。しかし、これはギラン共和国の者たちが考えなければならない事なのでシェリーが口出しをすべき事ではない。
「佐々木さん。北側の国境の封鎖は流石にマズイ。北側の国境はギラン共和国の動脈線だ。物流が全て滞る」
炎王はギラン共和国の北の国境を物理的に封鎖をするのは否定的のようだ。それはそうだろう。ギラン共和国は大陸の北西に位置し北側と西側は海に面している。そして、南にはモルテ国があり、東側は高い山脈に阻まれた上に鎖国的なシャーレン精霊王国がある。だから、北側の山脈が途切れた海側が唯一の物流路の要となっているのだ。
そして、今現在海側は偽装したマルス帝国からの襲撃に遭って海の航路は使用してはいない。そんなところに北側の陸路まで封鎖してしまえばギラン共和国は陸の孤島と化してしまうだろう。
「炎王。それは大丈夫です」
「どこがだ!あの狂った王の領土を通れとでも言うのか?」
「そうです」
「佐々木さん!!」
炎王はシェリーの言葉に憤りを感じた。普通の人ではあの国を通り抜けることは出来ないと。
「炎王。モルテ王と一度会談の場をもってみてはいかがですか?」
「佐々木さん。彼の王は俺が生まれた時にはすでに狂っていた。話し合いもなにもそれすら意味を成すことはない」
それはこの世界の常識でもある。狂王モルテ王は千年という期間の間、己の国を壊し続け、狂い続けていると。
「モルテ王の呪いは解きましたよ」
「は?」
「それなりの手土産を持って、モルテ王に私の要望を伝え、その交渉は成り立ちました。ですから、フィーディス商会の陸路の交通と販路の拡大のため、一度お会いしてもいいと思いますよ」
シェリーは炎王が理事を勤めるフィーディス商会の利になることも織り交ぜた。あの国はこれから復興をとげ、死のある生を賜ったことで、生きるという行動に出ることだろう。それは、遠い昔の記憶を思い出すこともあることだろう。人として生きていた時の記憶を。今は、何もないモルテ国だが、いずれ記憶の底にあった生活を取り戻したいと、望む者が出てくることだろう。
商売をする者としてはこの期を逃すことは愚かなことだ。
「佐々木さん、ちょっと待ってくれるか?さっきおかしな事を言っていたよな。呪われていたのか?」
「ええ、詳しくは文字化けしていてわからなかったですが、”アークの呪い”だそうです」
その言葉に炎王は何か納得したようだった。炎王はアーク族のことを知っているのだろうか。
「因みに、手土産って何を持っていったんだ?」
「つがいです」
「····え?何をだって?」
「モルテ王のつがいです」
炎王は頭が痛いと言わんばかりに両手で頭を抱えてしまった。そして、『あり得ない』と言葉を漏らしている。
「それから、ユーフィアさんに頼んで『アルテリカの火』を使ってザックさんの船を護る結界を作ってもらいましたから、海の航路の方の問題は解決済みです」
「ちょっと待て!なんで佐々木さんが解決しているんだ!俺は何も聞いていないぞ!」
ザックの船はフィーディス商会の船であり、何かあれば、理事である炎王に連絡が行くはずだ。そして、マルス帝国の偽装船からの襲撃に対して解決すべきはフィーディス商会の者であり、炎王であるはずだ。何も関係がないシェリーが口を····手を出すことではない。
「それもユーフィアってコルバートの魔女のことだろう?滅多に表には出てこない魔女にどうやって、作成依頼を頼み込めるんだ」
滅多に表には出ない。それはユーフィアが物を作り始めると周りの事に目がいかなくなるのも理由に上がるが、クストがユーフィアを外に出すことに対していい顔はせず、第6師団の団長という権力を用いて、ユーフィアの行動の監視と制限をしていたのだった。
「普通に玄関から訪問しましたが?」
そこにはツガイであるクストの目を盗んでという言葉が入るが、炎王の前でわざわざ言うことではない。
「え?無理だろう?彼女が同じ存在だとわかって連絡を取ろうにも、全部拒否られたんだぞ」
「それって、ただの『エン』として連絡を取ろうとしたのでしょ?」
ただのエン。炎王としてではなく、転生者のエンとしてユーフィアと個人的に会おうとしたのだろう。
「ああ、そうだが?」
「それは、ツガイの師団長さんに握りつぶされるでしょうね」
「また、つがいか。俺にはわからない感覚を言われても困るな。だからな。さっきから睨まれても困るんだが」
炎王はシェリーの隣で、笑顔だが笑っていない目を炎王に向けているカイルに対して、苦笑いを浮かべた。
0
お気に入りに追加
1,023
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

婚約破棄はこちらからお願いしたいのですが、創造スキルの何がいけないのでしょう?
ゆずこしょう
恋愛
「本日でメレナーデ・バイヤーとは婚約破棄し、オレリー・カシスとの婚約をこの場で発表する。」
カルーア国の建国祭最終日の夜会で大事な話があると集められた貴族たちを前にミル・カルーア王太子はメレアーデにむかって婚約破棄を言い渡した。

【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど
monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。
でも、なんだか周りの人間がおかしい。
どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。
これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる