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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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 時間を少し戻すことにしよう。転移で炎国にたどり着いシェリーは両手に花と····いや、右手をカイルに左手をリオンに繋がれ、炎国の街の中を歩いていた。

 そのシェリーの目はもちろん死んだ魚の目をして街の中を歩いているのだ。しかし、カイルもリオンもそんな事は気になどしていない。表面上はニコニコと二人共ご機嫌だ。

 第三者からの目から見れば異様な3人組だが、王太子であったリオンの噂話を聞いていた炎国の民はリオンの嬉しそうな姿をみて、微笑ましげに遠目に見ているのだった。
 初代炎王がよく国の中でウロウロ····いや、国民の姿や声を直接聞いているお国柄、王族と国民の距離が近いのだろう。その嬉しそうなリオンの姿を我が事のように見守っている国民の姿を見ると、炎王が築き上げた治世の姿が垣間見えるようだ。

 そんなリオンに声をかける者が顕われる。

「あれ?戻ってきたのー?」

 その声は正面からでもなく後ろからでもない。真上からだった。

「エンは今いないよー」

 青みがかった白い髪に水色の目をリオンに向けて空中を浮遊している少女がそこにはいた。

「ちっ!使えない」

 炎王が居ないことに舌打ちをするシェリー。

「精霊様。初代様はどちらに?」

 精霊···炎王の側で時々見かける者だ。リオンの言葉に精霊様と呼ばれた少女は首を傾げ、逆さになってリオンを見る。

「んー。直ぐに戻るって言っているよ」

 どうやら、陽子と同じように炎王と連絡が取ることができるようだ。そして、精霊の少女はシェリーに向って手を差し出してきた。

「ヴィーネ。役に立ったからお菓子ちょうだい。この前のお菓子美味しかった」

 逆さになって手を差し出してくる精霊の少女。それも、お菓子が欲しいと言ってきている。
 この前のお菓子?シェリーはいつこの少女にお菓子を与えたのだろうかと首を傾げてしまった。

「異界の力はヴィーネにとって必要なもの。ヴィーネは役に立ったよ」

 恐らく炎王が何かと彼女に大きなアイスを与えている事にも繋がることなのだろう。

 シェリーは鞄から取り出そうとするも、両手が塞がれてしまっている。二人から手を振り払おうとも、ガシリと掴まれているため、手が自由にならない。

「手を離してもらえます?」

 しかし、手が離される様子がない。

「精霊様。異界の力とはどういうことです?」
「シェリーの作った物を独り占めは良くないよね」

「え?凍っちゃうよ」

 精霊の少女はリオンの質問にもカイルの嫉妬から出た言葉にも答えてはいなかった。

「精霊様。異界の力とは?」

「凍っちゃうよ。この国が凍っちゃうよ」

 逆さに向いたまま瞳孔が開いた目をシェリーに向け、精霊の少女は同じ言葉を繰り返すのみだった。その時逆さを向いた少女の口に何かを突っ込む者がいた。

「俺の国を凍らそうとするな!」

 黒髪に着物に似た衣服を身にまとった人物が、木の棒が先に付いた物を精霊の少女に与えていた。

「あ?佐々木さんだったのか」

 その人物は振り返りシェリーを見る。金色の目を驚いたようにシェリーに向け、両側の二人にも視線を向けた。

「お、リオン。陽子さんに合格点をもらえたのか?」

 ここにリオンがいるということは、ダンジョンマスターの陽子から及第点をもらいダンジョンから出してもらえたと。
 しかし、その言葉をシェリーが否定する。

「陽子さんはあまりにもの出来の悪さにダンジョンを改造すると言って、今はダンジョンを閉じています」

「はぁ?リオン、陽子さんをあれ以上怒らせたのか?」

 呆れた視線をリオンに向けている炎王の袖を引っ張る者がいた。

「エン。『あたり』が出たからもう一本」

 平たい棒を炎王に見せつけているヴィーネだった。それも日本語で『あたり』と棒に書かれていた。

「はぁ。街の中ではアレだから、奥宮に来い」

 街の中でこれ以上目立つのは良くないと、炎王は転移の陣を敷いた。

「あたり、出た」

 その中でも炎王の目の前に木の棒を突きつける精霊の少女。

あたり・・・

 この少女はどこまでもマイペースのようだ。そのしつこさにも炎王は慣れたように、どこかの空間から出したもう一本の棒アイスを少女に与えていた。

「『転移』」

 そうして、炎国の中枢の更に奥にある奥宮に転移していた。その足でいつも交渉してる客室へ通され、円卓に座るよに勧められる。いつの間にか緑がかった白髪の女性が現れ、お茶を円卓に人数分を用意して出していた。

「それで、今日はどうしたんだ?」

 炎王は円卓の席に着き、お茶を一口飲んでからシェリーにこの国にきた理由を尋ねる。その炎王の言葉にシェリーは鞄から一つの箱を取り出した。

「これを先程の精霊の方に」

「ヴィーネに?」

 炎王が不可解な顔をしていると、シェリーの横から青みがかった白い髪がニョキリと生えて箱に手が伸びてきた。

「ヴィーネのお菓子!何かな?」

 精霊の少女は箱をパカリと開ける。その中身は真っ白なモノに果物が散りばめられた食べ物だった。

「ケーキ!!ホールケーキ!!全部ヴィーネの!」

 ヴィーネは誰にも取られないようにさっさと箱を手に持ち、別の円卓座り、マイスプーンを取り出して、真っ白なケーキの真ん中を突き刺した。

「え?わざわざ、ヴィーネにケーキを持ってきたのか?」
「シェリー、あれ食べた事ないけど?」
「精霊様!独り占めは駄目です」
「ヴィーネの!これはお礼のお菓子なの!」

 ケーキ如きで何を言っているのかと、シェリーは空が青いなと窓の外を眺めるのだった。


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