番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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「やっぱさぁ、アイツに頼むのは間違ってなかったか?」

 オルクスは再び第1層に向かう道を歩きながら、愚痴を言っている。ニールから第1層内に入る事ができる依頼を作って・・・もらい、国の中枢に入ることができる体裁を整えてもらったのだ。その代わり12件の討伐依頼を受けることにはなったのだが。

「オルクス。ここはオルクスが自由に行動できるギラン共和国じゃない。問題を起こして一番に迷惑をかけるのは誰か考えればわかるだろう?」

 グレイから言われた言葉にオルクスは口を噤んだ。もちろんシェリーに迷惑をかけることになると。

「家主のオリバーさんの耳に一番に入ることになるだろう?」

 グレイはオルクスが思っていたことと違う人物の名を口にした。家主。確かにあの屋敷の主は地下の住人であるオリバーだろう。

「最悪、屋敷を追い出される事になったら、どうするつもりだ?」

 シェリーは何かとオリバーを頼ることが多いのはここ数ヶ月でわかりきっていることだ。だから、ツガイである彼らを拒否しているシェリーが屋敷を出ていくことはあり得ない。もし、屋敷の主であるオリバーの不興を買えば、簡単に追い出されることになるだろう。

「それは嫌だ」

 屋敷を追い出されることになれば、シェリーの側にいることができない。それだけは、避けなければならないことだと、オルクスは否定の言葉を言う。

「だったら、使える人脈は使わないといけない。多少の対価を支払うことになってもリスクを負うべきじゃない」

 人を使う。それは人を使うことに慣れた公族の考え方だろう。
 しかし、それもまた必要なことだ。己の力だけで物事を解決してきたオルクスには思いつかない考え方だろう。

「俺はそんなまどろっこしい考え方はできないな。あの堅物を殴ってしまえばいいと思うんだよな」

「だから、それは最悪だって言っただろう。そんなんだから、お前の元部下の副団長から『団長の行動は殴ってでも止めてください』なんて言われるんだ」

「あ?グレイ。いつネールとそんな話をしてたんだ?」

 そんな他愛もない話をしながら第1層門にたどり着くと、門兵として第5師団長であるヒューレクレトが馬車などが通行できる大きな門の横にある人が通る通用口のような小さな門の前にいるのに変わりなかったが、その前には第5師団の軍服とは違う色の軍服をまとっている者が立っていた。
 その者は師団という枠組みが違うにも関わらず、何故か第5師団長から叱咤を受けているようだ。

「だから、お前はいつもフラフラとしてるんだ!職務はどうした!」

「フラフラしてないっすよー。朝から色々あって、団長に報告に行くだけっす!」

「いつも言っているだろう!スラーヴァル家の者がそのような話し方をするなと!」

 どうやら、同じ一族の者同士で揉めているようだ。その姿を見たオルクスは第6師団の軍服を着た人物の肩を叩く。

「丁度いい、その青狼の団長の所に一緒に行こうか」

 そう言いながらも、見つけた獲物を逃さないと言わんばかりにオルクスは目を光らせていた。

「おい、またお前たちか。ここは許可がないと通せないと言っているだろう」

 ヒューレクレトは呆れたような視線をオルクスに向けたが、その視線にオルクスはニヤリと笑い、一枚の用紙をヒューレクレトに見せつけた。

「許可を取って来たぞ」

 その用紙には『第6師団への追加の武器の配達依頼』とあった。確かに以前シェリーが受けた武器の配達依頼だ。それを目にしたヒューレクレトは再び呆れた視線を向ける。

「ニールか。はぁ、通ってよし。中で暴れるなよ。その責任を取るのは許可を出したニールだからな」

 ヒューレクレトはギランの豹と名高いオルクスに一言を口にして通用口のような門の扉を開けた。

「俺が用があるのは『鉄牙のマリア』だから、第6師団では暴れねぇよ」

 オルクスはヒューレクレトに叱咤されていた第6師団の者の肩を掴んだまま、第1層門をくぐって行く。

「ちょっと待て!それはギランの元傭兵団長の名ではないか!どういう事だ!」

「伯母に会いに行くということで」

 オルクスの後ろからグレイがそう言って、門をくぐっていく。

「伯母だと!···いや、その前にあの『鉄牙のマリア』が第1層内に住んでいると聞いたことはないぞ!!」

 警邏を担うのが第6師団であるのなら、第5師団は王都の人の出入りを管理する門兵を担っている。その師団長であるヒューレクレトはギラン共和国の元傭兵団長の『鉄牙のマリア』が第1層内で住処を構えているという情報は聞いたことが無かった。
 それはそうだろう。まさか、傭兵団長とまでなったマリアが公爵夫人の侍女としているだなんて、思いもよらないことに違いなかった。

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