番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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25章-2 冬期休暇-旅行先の不穏な空気

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 目の前には筋肉隆々の黒き悪魔。背後には強靭な力を持つ竜人のカイル。
 しかし、シェリーはこの場を引く事はせず、自分の周りに『最小の盾』を5枚を一層として覆った。一枚では破られる盾を厚くする事で、強固にしたのだ。

 シェリーの刀の黒き刃が悪魔の黒く硬い皮膚を裂き、突き刺さっていく。

 再生し太く大きくなった黒い拳がシェリーに向かって振り下ろされてくる。

 そして、シェリーの背後から迫りくるカイルの大剣。

 一瞬にも満たない時間がとても長く感じられる。

 斬り裂かれる肉塊が宙を舞った。太い二本の腕がカイルの大剣に斬り裂かれ、黒い体から切り離され、青い体液を撒き散らしている。

 そして、そのままカイルは横一線に大剣を振るい、悪魔の首を斬り飛ばした。

 青い雨がシェリーの結界を濡らしていく。
 地面に倒れ込む巨体に刀を突き立てたままのシェリーが膝を付いているが、刀の刃はホンの数セルメル肉を切り裂いただけで止まってしまっていた。

「ちっ」

 シェリーは思わず舌打ちをする。結局、肉を突くことはできても、核を壊す事が出来なかったのだ。 

 肉を切り裂き、巨体から拳大の核を取り出し、地面に投げつける。するとどうだろう。地面からカサカサに乾いた手が生えてきて、真っ黒い核をつかみ取り、地面の中に戻っていった。

 そう、これがユールクスがシェリーとカイルに当てた『いつもと違ったモノ』だったのだ。

「シェリー。怪我は?」

 崩れ去る巨体の上にいるシェリーにカイルは声をかけた。その言葉に振り向いたシェリーは眉を潜めて答える。

「私は怪我などしていませんが、カイルさんの方が重傷なのでは?」

 カイルの方が重傷。今のカイルの姿は半分青く染まっていると言ってよかった。しかし、カイルが斬ったことで飛び散った、青い体液は肉体が崩れ去っていくと共に、なくなってきている。だからこそ徐々にカイルを染めている赤い色が目立って来ているのだ。

「ああ、これ?流石、神水と言われることはあるね。足を切り落としても直ぐに元通りに繋がって、違和感も何もないよ」

 カイルは平然と足を切り落としたと言った。そう、カイルは魔眼の力に抵抗していた。シェリーを殺そうとする己と、シェリーを守ろうとする己とでだ。
 だが、そこでオーウィルディアの言葉が頭をよぎった。

『完全体の悪魔だと魔眼耐性を持っておかないと無理ね。まぁ。今はこれを繰り返して魔眼に対する抵抗力を上げることね。』

 完全体の悪魔には魔眼耐性を持っておかなければならない。しかし、今のカイルは操られるという愚行まで犯しておらず、ギリギリ抵抗するまではできている。

 ならば、一旦意識を別の方向に向かせればいいと、己の足を大剣で斬り、神水を飲んで、シェリーが戦っている悪魔を斬り刻んだのだった。

「そうですか。治療をする必要がないのなら、それでよかったです」

 シェリーはそれだけを言葉にして、先に進もうとすると、カイルがシェリーの左腕を掴んで引き止めた。シェリーは何だとカイルを仰ぎ見る。

 周りは瓦礫の街しか存在せず、ミイラの兵もシェリーが作り出したドールも存在しない。だが、ここはダンジョンの中なのだ。何が起こるかわかったものではない。
 だから、一所に長居をするべきではない。

「ごめん。シェリー、ごめんね」 

 カイルは泣きそうな顔でシェリーに謝った。カイルが謝っていることはやはり、魔眼耐性が無いことでシェリーに負担を大きく掛けてしまったことだろう。

 そんなカイルにシェリーはため息を吐いた。

「はぁ。別にカイルさんが謝ることは何もありません。結局、私も力が足りないことを痛感しましたから」

 いや、シェリーは自分の無力さに、ため息を吐いだのだ。

「硬質な皮膚を突き刺せても、腕を切り落とすことは簡単にはいかず、核に至っては傷一つつけることはできませんでした」

 そう言ってシェリーはカイルの手を振りほどいて、先に行こうとするも逆に腕を引っ張られ、カイルに抱き寄せられてしまった。

「だから、ごめん。それは俺のするべきことだった」

 シェリーの鼻に血のニオイがかすめる。ツガイという者のために己を傷つけてまで、魔眼に抵抗したカイルになんとも言えない気持ちになった。
 自分にそこまでする価値などないと。ツガイというモノに縛られたカイルが哀れだと。

 二人は互いに武器を手にしたまま、廃墟の街の中で佇んでいた。


_____________

ルークとスイ Side

「うわー。見た見た弟くん」

 緑の長い髪のナーガの女性は一抱えするほどの丸い水晶球を覗き込んで興奮している。

「竜人くん。自分の足切っちゃったよー。もしかして、これを見越してマスター様はあの水を用意したのかなぁ」

 流石、マスター様とスイは感動していた。その隣でルークは自分の目が信じられないと思いながら、水晶球を覗き込んでいた。
 いや、自分の目が信じられないというか、殆ど目に映すことが出来なかったのだ。その横にいるスイの解説があって、今どのような状態かわかるだけだったのだ。

 ミイラの兵が砂の中から出てきたと思っていたら、別の集団がいつの間にか現れ、戦争と称していいほどの戦いが始まっており、砂煙が立っている先頭に姉であるシェリーとカイルが居ると説明をされたが、ルークの目には尋常ではない速さで移動する物体がミイラの兵や魔物を吹き飛ばしながら進んでいるようにしか見えなかった。

 そして、シェリーの前に立ちふさがった全体的に黒い何者かとの戦いは、本当に何が起こっているのか理解出来なかった。互いに剣と拳を合わせたのだろう。そして、距離をとったのだろう。
 体を変化させた黒い何者かがいつの間にか地面に倒れており、その上に姉が剣を突き立てていた。切り取られた場面場面でしか理解出来なかったのだ。

「これは流石についていけない」
「だよねー」

 ルークは水晶球から目を離して青い空を仰ぎ見ていた。

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