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25章-2 冬期休暇-旅行先の不穏な空気
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シェリーは話に聞いていた以上の力に、慄いていた。震える体を叱咤するように、両頬をパチンと叩き気合を入れる。
普通なら、泣きながら脱兎のごとく立ち去りたい状況だ。しかし、シェリーはどんな状況でも対応できるように、この世界で強者と呼ばれた者たちから戦いというモノを学んできたのだ。
黒刀を握る手に力を込める。息を吐き目の前の枯れ枝の様な老人の悪魔に視線を向けた。
「何じゃ?まだ、やる気なのかのぅ」
ニヤリと悪魔が笑う。その問いにシェリーは答えず、悪魔との距離を詰めるべく、駆け出した。
シェリーの行動に枯れ枝の様な細い腕を構え拳を握り込む悪魔。シェリーが己の間合いに入ってきた瞬間、先程とは明らかに違う速さで、残像だけを残して悪魔は拳を振るった。
シェリー自身が拳の破壊力で無事ではすまないという距離でだ。
しかし、悪魔の攻撃は何かに受け止められていた。黒い拳の先にあるのは六角形の手のひら大の透明な板が拳を受け止めていたのだ。
スキル
最小の盾
防御範囲はとても狭いが、どんな攻撃でも跳ね返すことができる。
悪魔の攻撃を小さな盾で受け止め、その先に一歩足を踏み出し、刀を悪魔の首元に叩きつける。
「『白き業火の灰燼』」
が、悪魔は左手でシェリーの白き炎をまとった刀身を受け止めた。黒刀を受け止めてられたシェリーは引かず、そのまま押し切ろうと更に力を込める。
白き炎が威力を増し、受け止めた枯れ枝のような腕全体に炎がまとわりつく、辺りには焦げるニオイが立ち込めていった。
「ほぅ」
己の強靭な皮膚を焼く炎に関心するように、悪魔が声を漏らし、右腕を再びシェリーに向かって振るう。その拳はシェリーの結界で遮られると思いきや、先程防いだ結界を打ち壊し、シェリーに向かって迫って来た。
一枚、二枚、三枚と打ち破っていき、悪魔の拳がシェリーの横腹を抉る····いや、ほんの僅かな空間を開けて、その狂気的な拳が止まった。
そして、悪魔はシェリーの前から姿を消し、少し離れたところに姿を現した。そう、シェリーから距離を取ったのだ。
その姿は左腕は焼き切れており、右の拳からは青い血が滴り落ちていた。
「フォッフォッフォ。まさか、結界を凶器にするとはのぅ」
シェリーは初めから自分のスキルが文字通りに機能するとは思っていなかった。なぜなら、彼らはこの世界の理の外にいる者達だからだ。だから、スキル『最小の盾』を5層にして自分の周りに張り巡らせていたが、最後の1層はシェリーを守るように水平ではなく、垂直に並べたのだ。
そして、悪魔の拳が裂け、怯んだ隙きに刀を引き斬ったのだ。
「良き良き。腕を斬られるとは、そちを甘く見ておったのぅ」
右腕の拳は裂け、左の肘から先がないのにも関わらず、枯れ枝の様な老人の悪魔はこの状況が楽しいと言わんばかりに笑みを浮かべた。
シェリーはその笑みを見て思わず一歩下がってしまった。この状況下はどう見てもシェリーの方が優勢だと言えるだろうが、シェリーは気を緩めることは出来なかった。先程から嫌な予感がひしひしと感じられる。
だが、ふとここでシェリーは冷静に考えた。目の前の存在は水龍アマツより強いのかと。
確かにシェリーの黒刀の刃は悪魔の強靭な肉体を何とか切り落とす事が出来た。そう、刃が通ったのだ。
本気では無いとはいえ、天津の技の『龍化』で鱗に覆われた皮膚は鱗にヒビを入れることが精一杯だった。そして、目の前の存在が振るう狂気的な拳も天津の『龍の咆哮』に比べれば、ただの振り上げた拳でしかないのだ。
シェリーは内心、自嘲した。この場で思ってもみない悪魔という存在に遭遇し、ビビっていたのだと。
ただ、根本的に力が足りないだけだと。人族であるが故に、押し通す力が足りない。だからこそのスキルによる能力上昇だったのだが、相手が世界の理から逸脱したモノであるが故に、それも適わなかった。
これは、スキルの構築を一から見直す必要があると考えさせられたのだ。
しかし、今は自分の手の内にあるもので、目の前の相手を制しなければならない。
シェリーは『真理の目』を使用し、悪魔の核がある場所を探す。時間が長引けば、分が悪くなるのは人族であるシェリーの方だ。
悪魔の核を一気に貫きトドメを差すのが一番いい手段だと。
「フォッフォッフォ。我も手を抜くのはやめるとするかのぅ」
その言葉と同時に枯れ枝の様な老人の悪魔の体が膨れ上がった。いや、筋張った体つきだったものが、筋肉が盛り上がり巨漢と言っていい見た目になったのだ。それも裂けた右手も斬られた左腕も元の状態に戻っている。
しかし、シェリーが動ずることは、もうなかった。黒刀を構えたまま一点を見据えている。
そして、残像だけを残して、シェリーはその場から消えた。シェリーは勢いをつけたまま、筋肉隆々となった巨漢の悪魔の懐に入り込み、みぞおちに刀を突き立てた。
悪魔はシェリーが何を狙っているか瞬時に理解をし、両腕をシェリーに叩きつけようと振り上げる。
とその時、背後から突き刺さるような殺気を感じ、シェリーは一瞬、気を取られてしまう。
背後には大剣を振り上げたカイルが存在していたのだった。
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