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25章-2 冬期休暇-旅行先の不穏な空気
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翌朝、シェリーはベッドの上で目が覚めた。そう、シェリーのワンルームマンション並に使い勝手のいいテントの中でだ。
目の前には、見慣れた金色の目があった。
「ちっ」
シェリーは思わず舌打ちをする。昨日、休む前に一悶着あったのだ。シェリーはルークと一緒に寝ようと言った。しかし、ルークは野宿というものをしてみたいと、言い出したので、それにシェリーも付き合おうとすれば、子供じゃないのだから一人で大丈夫とルークに言われてしまった。
しかし、ここはダンジョンの中だ。安全とはいい難い。
だから、シェリーは切々とルークを説得した。ここはダンジョンであって、街の中ではないと、魔物が出ないと決められたエリアでもないと、夜中には妖精ではなく『王の兵』というミイラが巡回に来るだけだから、待っていても無駄だと説得したものの、基本的にルークに甘いシェリーだ。オアシス全体に結界を張ることで、ルークのお願いを聞いてしまったのだった。
「シェリー。おはよう」
「おはようございます」
シェリーのテンションの低さは通常運用に戻っていた。その、いつもと同じ態度のシェリーにカイルは思わずクスリと笑ってしまう。
シェリーには笑っていて欲しいが、弟とはいえ己に向けられていないことに、少し不快に思っていたのだ。
そして、ルークがいると己の姿などシェリーの眼中に入らないことにも、苛立ちがつのっていたと自覚して、自嘲したのだ。
いつものシェリーの態度に変わりはないが、己を見て····いや、認識をしてくれるだけで、満足している。
カイルはシェリーを抱きしめて、小鳥のような啄むような口づけをした。
「シェリー。少し前にダンジョンマスターの伝言を伝えに、人?が来たんだが」
カイルは人のところに疑問を呈しているが、ダンジョンの住人という括りでは敵視する魔物ではないだろう。
「以前、炎王を引き止めていたナーガの女性が伝言を持って来た」
それを聞いたシェリーはユールクスに似た女性の姿が頭の中に浮かんだ。ユールクスに悪魔討伐に向かうために炎王を引き止めて欲しいと言ったときに、あの炎王を行動不能にしていた女性のことだろうと。
「それで、ダンジョンマスターは何と?」
シェリーはカイルから話を聞こうと、体を起こそうとするも、カイルに抱きしめられているため、動くことができない。
「次元の悪魔の討伐は終わったと。やはり、まともに悪魔に対して攻撃ができたのはスーウェンだけだったようだね。核もそのスーウェンの魔導術で燃え尽きてしまったと言っていた。だから、浄化の必要はなくなったと伝言を言ってきたんだ」
そう、次元の悪魔に対抗するには魔術の上位に当たる魔導術か、物理攻撃のみだ。それも普通に攻撃をしても次元の悪魔の硬い皮膚は傷一つつけることができない。
最初に次元の悪魔が出現した国はグローリア国だ。その次元の悪魔を倒すのに丸一日を要したのだ。
一体しか存在しない見たこともない魔のモノに対して、直ぐに決着がつくだろうと安易に構えていたが、いくら時間が経とうとも倒し切ることができず、最終的には当時魔導師長の地位にいたオリバーにより倒されたのだ。暴力的と言っていい魔術の一撃で跡形もなく吹き飛ばしたのだった。
【エクリクシスの厄災】
暴君レイアルティス王の得意魔導術だ。その破壊力はギラン共和国の西側にある半島だったエルトをダンジョンの一部ごと消失した程の威力だ。
ということは、スーウェンが使った【エクリクシスの厄災】はそれと比べると小規模な魔導術だったと言えるだろう。
上には上がいるということだ。
「そうですか」
シェリーはただ単にユールクスの言葉に対して了解の意を示しただけだ。自分のツガイである彼らが無事であるか普通なら聞くところだろうが、シェリーはシェリーだった。
「それから、彼らは国境のダンジョンの入り口から、ミレーテに向かって来るそうだ。ダンジョンマスターは、1週間ほどかかるだろうと言っているらしい」
彼らも己の剣が次元の悪魔を斬ることが適わないとよく理解できたことだろう。
「それで、今日はどうする予定かな?」
カイルに尋ねられたシェリーだが、シェリーの答えは決まっている。
「ルーちゃんが行きたいというところに行くだけです」
そう、シェリーにとってツガイの彼らがどうなろうが構わない。大事なことは弟であるルークがどうしたいかである。
そして、そのルークがどうしているかというと、テントから出たシェリーは目を疑ってしまった。オアシスの中心の泉の中には人魚と思われるモノ。空中には光っているモノが漂っており、ナーガの女性がルークにおにぎりのような物を渡しているところだった。
目の前には、見慣れた金色の目があった。
「ちっ」
シェリーは思わず舌打ちをする。昨日、休む前に一悶着あったのだ。シェリーはルークと一緒に寝ようと言った。しかし、ルークは野宿というものをしてみたいと、言い出したので、それにシェリーも付き合おうとすれば、子供じゃないのだから一人で大丈夫とルークに言われてしまった。
しかし、ここはダンジョンの中だ。安全とはいい難い。
だから、シェリーは切々とルークを説得した。ここはダンジョンであって、街の中ではないと、魔物が出ないと決められたエリアでもないと、夜中には妖精ではなく『王の兵』というミイラが巡回に来るだけだから、待っていても無駄だと説得したものの、基本的にルークに甘いシェリーだ。オアシス全体に結界を張ることで、ルークのお願いを聞いてしまったのだった。
「シェリー。おはよう」
「おはようございます」
シェリーのテンションの低さは通常運用に戻っていた。その、いつもと同じ態度のシェリーにカイルは思わずクスリと笑ってしまう。
シェリーには笑っていて欲しいが、弟とはいえ己に向けられていないことに、少し不快に思っていたのだ。
そして、ルークがいると己の姿などシェリーの眼中に入らないことにも、苛立ちがつのっていたと自覚して、自嘲したのだ。
いつものシェリーの態度に変わりはないが、己を見て····いや、認識をしてくれるだけで、満足している。
カイルはシェリーを抱きしめて、小鳥のような啄むような口づけをした。
「シェリー。少し前にダンジョンマスターの伝言を伝えに、人?が来たんだが」
カイルは人のところに疑問を呈しているが、ダンジョンの住人という括りでは敵視する魔物ではないだろう。
「以前、炎王を引き止めていたナーガの女性が伝言を持って来た」
それを聞いたシェリーはユールクスに似た女性の姿が頭の中に浮かんだ。ユールクスに悪魔討伐に向かうために炎王を引き止めて欲しいと言ったときに、あの炎王を行動不能にしていた女性のことだろうと。
「それで、ダンジョンマスターは何と?」
シェリーはカイルから話を聞こうと、体を起こそうとするも、カイルに抱きしめられているため、動くことができない。
「次元の悪魔の討伐は終わったと。やはり、まともに悪魔に対して攻撃ができたのはスーウェンだけだったようだね。核もそのスーウェンの魔導術で燃え尽きてしまったと言っていた。だから、浄化の必要はなくなったと伝言を言ってきたんだ」
そう、次元の悪魔に対抗するには魔術の上位に当たる魔導術か、物理攻撃のみだ。それも普通に攻撃をしても次元の悪魔の硬い皮膚は傷一つつけることができない。
最初に次元の悪魔が出現した国はグローリア国だ。その次元の悪魔を倒すのに丸一日を要したのだ。
一体しか存在しない見たこともない魔のモノに対して、直ぐに決着がつくだろうと安易に構えていたが、いくら時間が経とうとも倒し切ることができず、最終的には当時魔導師長の地位にいたオリバーにより倒されたのだ。暴力的と言っていい魔術の一撃で跡形もなく吹き飛ばしたのだった。
【エクリクシスの厄災】
暴君レイアルティス王の得意魔導術だ。その破壊力はギラン共和国の西側にある半島だったエルトをダンジョンの一部ごと消失した程の威力だ。
ということは、スーウェンが使った【エクリクシスの厄災】はそれと比べると小規模な魔導術だったと言えるだろう。
上には上がいるということだ。
「そうですか」
シェリーはただ単にユールクスの言葉に対して了解の意を示しただけだ。自分のツガイである彼らが無事であるか普通なら聞くところだろうが、シェリーはシェリーだった。
「それから、彼らは国境のダンジョンの入り口から、ミレーテに向かって来るそうだ。ダンジョンマスターは、1週間ほどかかるだろうと言っているらしい」
彼らも己の剣が次元の悪魔を斬ることが適わないとよく理解できたことだろう。
「それで、今日はどうする予定かな?」
カイルに尋ねられたシェリーだが、シェリーの答えは決まっている。
「ルーちゃんが行きたいというところに行くだけです」
そう、シェリーにとってツガイの彼らがどうなろうが構わない。大事なことは弟であるルークがどうしたいかである。
そして、そのルークがどうしているかというと、テントから出たシェリーは目を疑ってしまった。オアシスの中心の泉の中には人魚と思われるモノ。空中には光っているモノが漂っており、ナーガの女性がルークにおにぎりのような物を渡しているところだった。
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